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20XX~突然の帰還~1

 いきなり体が浮遊感に包まれた。

 慌てた俺は腕の中の本城を強く抱きしめた。本城も抱き返してくる。

 そして、唐突に浮遊感は消えた。

 それまでつむっていた目を開く。

 そこは見慣れた、俺の親父のやっていた廃工場。周りには場違いなプラレールが幾重にも取り囲んでいる。走っているのがなぜか三百系新幹線ばかりだ。

 周りには、これを組み立てたと思しき筋骨隆々の男達。そして…


「山田!」


 そう、ここは元の時代だった!

 俺の胸に喜びが溢れかえ…り…

 その時、俺は周囲の空気に気がついた。

 周囲の男ども(よく見ればうちの学校のラグビー部の奴ら)は丸くしていた目を憎しみに染め、山田の奴は裏切られたと目で語っている。

 その隣にいる風間さんはなぜかデジカメを取り出して、俺と本城をパシャリパシャリとやっている。

 そういえば、俺は本城と抱き合ったままだった!

 慌てて離そうとするが、本城は必死にしがみついて離れない。


「…夏樹、服…!」


 その時、本城が小さく恥ずかしそうに(!)押し殺した声で言った。

 ふと、肌の感触がおかしい事に気がつく。まるで生肌に触れているような…。

 …あれ?どうして俺と本城は、服を着てないんですか?

 気づけば俺と本城は、生まれたままの姿で、衆目の面前で抱き合っていた。

 …………………………(思考停止中)。

 完全に固まってしまった俺達を見て、山田がラグビー部の連中の肩を叩いて外を示す。とりあえず外に出ようというサインだ。

 風間さんは自分の羽織っていたカーディガンを脱いで、俺達の近くに置いてくれた。…いや、その後にデジカメを動画撮影モードにして置いておくのはおかしいだろ!

 俺達の現代帰還は、史上最大の混乱の中で始まった。






 とりあえず、服を着た。

 俺は工場の中のロッカーを探して、なんとかカビ臭い作業着を二着準備した。

 今の俺と本城は、素肌の上に作業着を着ただけの状態である。特に本城は、サイズが合わずぶかぶかで、その作業着の中身を知っている俺としては鼻血が出そうだった。

 本城の方は完全に真っ赤になってぶつぶつ言っている。まあ、なんだ。俺も抱きしめているうちに息子が勝手に元気になって、それが思いっきりこすりつけられてしまったわけだ。はっきり言って捕まってもおかしくない行為だと自覚している。

 今俺は、本城に背中を向けて正座している状況だ。本城は体育座りでまだぶつぶつ言ってデジカメのデータを消去している。気まずい。

 とにかく何か話さなければと一番気になっていた事を尋ねる。


「あっ、その、なんだ。俺達は帰れないんじゃなかったのか?」


 そう、俺達はあの過去の世界で巨大核爆弾を起爆させない事には帰れないと本城は言っていたのだ。それなのに、今俺達はここにいる。

 その理由を聞きたかった。


「…ここにあるプラレールの裏を見てみろ…」


 まだ顔を合わせようとしない本城に促され、レールを一枚取ってみる。

 すると、その裏にはうっすらと複雑な文様が刻まれているのが見えた。


「それが魔力回路になっていて、上を車両が走ると起動するようにしてある…」

「こんなのがあるんなら、最初からこれを使えばいいじゃないか!」


 さっきまでの苦悩は何だったんだ!


「私だって忘れてたんだ!それに、風間がちゃんと組み立ててくれるかわからなかったし…」


 真っ赤になって叫ぶ本城。止めろ!顔を上げるとささやかな胸元が…!

 俺の視線に気がついた本城が、虫けらを見る目つきで俺を睨んでくる。だんだん調子が戻ってきたようです。


「ああ~、それより、なんで俺達は裸になったんだ?」

「…元々私だけ帰ってくるように設定してある。重量が増えると負荷が大きくなって失敗する可能性があったから、魔方陣が自動で服だけ排除したんだ…」


 なるほど、そういう理由だったんですか。俺が原因ですね。全然俺達の空気改善に役立ちません、はい。

 その時、ようやく調子を取り戻した本城が、それはもう悪い事を考えている時の表情を浮かべて立ち上がる。


「夏樹、とりあえず外のラグビー部の連中を呼んでくれ」

「…何をするつもりですか本城さん?」

「連中の記憶を消し去ってやる」






 本城の命を受けた俺が工場から出ると、そこにはラグビー部の連中と山田があーでもないこうでもないと話し合っている。


「やっぱり火あぶりか?」

「いや、それだとすぐに死んじまう。水責めを提案する」

「どうせなら全部少しずつやっては?」


 即座に回れ右しようとする俺の肩を、山田の手ががっちりと掴む。


「お、おい、山田?俺としてはやましい事は何もないんだが…」

「もう種は残したんだろ。安心して逝け」


 嫌だ!俺は本当に何もしてないんだ!


「まあ待て。一応工藤の言い分も聞いてやろうじゃないか」


 そう言って止めるのはラグビー部の部長。言ってる事は俺をかばっているように聞こえるけど、その眼には誰よりも濃厚に凝縮された憎しみが宿っているように見えるのですがはい。

 一瞬の猶予が出来た俺は、本城の言葉を全員に告げる。


「ほ、本城が中に来てくれと呼んでる。なんか話があるとか何とか」

「チッ…。しょうがねー。お前の処刑は後にしてやる」


 本城が呼んでると聞いて渋々工場に入っていくラグビー部員達と山田。今だけは、彼らの無事を祈る。


「あ?お前何一人で残ってるんだ?一緒に来い。逃亡防止だ」

「えっ?い、嫌だ!俺は呼ばれてない!無実だ!」


 素早く素巻き状態にされた俺は、端の紐で引きずられて(担ぐなんて上品な事はしてもらえない)再び本城が待つ工場まくつに入る事になった。






 工場に入ると、本城が外向きのいじらしい恥ずかしそうな表情を浮かべていた。この変わり身の早さにはいつも驚かされる。


「あ、あのね?さっきの事に関してなんだけど、みんな見なかった事にしてくれる?」


 お願いする本城に、腰ぬけにされている山田とラグビー部員達。いい加減中身に気がつけ。


「後ね、やっぱり私、夏樹君の事が好きなの!」


 突然のカミングアウトの犠牲になったのは俺だった。即座に殺意に溢れた視線が実力行使を伴って俺を押し潰そうとする!いや、踏むな!踏まないで!アァーーー!


「み、みんな、いじめないで上げて!」


 本城が慌てたふりをして駆け寄ってくる。お前が元凶だろうと罵りたくなるが、下手な事を言って事故に見せかけて殺されてはたまらない。沈黙は金である。


「そ、それじゃ。さっきの事は忘れてね。お願い!」

「本城さんがそこまで言うなら…」


 猛烈に渋々といった感じでうなずくラグビー部員達。だが、山田だけは何か不安そうな表情を浮かべている。その直感を俺は称賛する。もっと昔に俺にも欲しかった!


「言ったな?」


 次の瞬間、本城がニヤリと笑うと隠し持っていたボタンを押す!

 同時に俺の口を唇で塞…はぁ!?

 ボタンを押すと同時に、工場の至る所から白いガスが噴き出し、ラグビー部の部員達と突然のキスで硬直する俺を襲う!

 呼吸も忘れる俺の口の中を本城の小さな舌が舐めまわし、息継ぎも出来ない俺は酸欠と恥ずかしさで真っ赤になる。その目の前で、ラグビー部の連中がバタバタと倒れて行く。山田が「そうだ!以前も…」と気になる事を口走りながらこちらも倒れた。

 三十秒もしないで、ガスは消えた。

 後には、死屍累々の状態のラグビー部員達と、キスを終え、至近距離で顔を見合わせる俺達二人、そして工場の扉から中を覗き込んでいた風間さんが残った。


「ほほほほほ本城!?」

「…(恥ずかしそうな笑顔)」

「うわ~。本城さんすご~い!」


 風間さんに見られた。死ぬしかないと思う。というか本城が急にかわいく見えてきた自分を殺したい。

 結局、全ての問題が未解決のまま、俺達の混乱は続く事になる。

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