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1930~呉での再会~3

なんだかそろそろ開戦シーンとかも書きたくなってきたのです。

東大調査チームサイド。 

 それは、驚愕の連続だった。

 調査団の主席を務める大高義秋は目の前の施設を見て、魂を抜かれそうな衝撃を受けていた。

 最初の衝撃は、扉を開けると同時に始まった。

 近づいてくる彼らを察知したかのように、自動で開いた扉。

 驚く彼らがその先に見たのは、見た事もない明るい光を放つ照明だった。

 彼らは最先端の技術を研究する東大の人間である。見た目は現在アメリカなどで開発が進んでいる蛍光灯というものに近いと感じたが、どうやらそれとも違うようだった。

 つまり、まったく未知の技術が使われているという事だった。

 さらに、一つ取り外してみたところ驚くべき事が分かった。

 製品に記されている文字は、日本語に極めて酷似していたのだ。

 正確には、アルファベットと奇妙に崩れた漢字の組み合わせだったが、ほぼ問題なく読む事が出来た。


『SONY 2005 60W』


 とりあえず、書かれた文字は放置して、まずは先に進む事になった。

 調査員達の士気は最高だった。

 なにしろ、わけのわからないものがあるから調べてくれと言われても、何があるのか分からないのでは真剣に取り組もうと言う気にもなれない。結果として、送り込まれたのは東大の中でも窓際族と呼ぶべき面子になっていた。場所が呉という海軍の本拠地でなければ、適当に京都大学あたりの人間が送られただろう。

 調査員達も、精々公費でいける小旅行程度に考えていたのだ。

 それが、出てくるのは明らかにこれまで知られていなかった技術で作られた代物だったのだ。調査員の一人が冗談で言った『宇宙人の基地』という説すら現実味を帯びてきていた。

 人類の大発見に、今自分達が直面していると感じていた。

 その彼らは、周囲の部屋の存在を後回しにして、とりあえず廊下をまっすぐに進んでみた。

 そこにあったのは、技術の最先端を行くと言われるドイツですら製造は不可能と思える各種加工装置と、操作方法すら判然としない謎の機械の山だった。


「………」


 さっきまでの興奮は冷めていた。

 とても自分達だけで扱えるような代物ではない。


「きょ、教授。どうしましょうか…?」

「軍に協力を要請しろ。ここにある物がどれだけの価値を持つか、政府の馬鹿でも理解できるだろう」


 ここは絶対に他国に知られるわけにはいかない。わが国で独占しなくてはならない。

 そのためには、情報の絶対的秘匿が必要だ。

 その時、大高の頭にこの調査に同行した一般人の事がよぎった。


「…!おい、一緒に調査についてきた連中を捕縛しろ!」


 彼らには悪いが、国のために多少の不自由は我慢してもらおう。





 彼らは知らない。

 内部の音声と映像が、マイクロ波通信によって外部に転送されている事を。






夏樹サイド。

 予感は当たった。

 本城の家での作業を始めるとき、本城がまず手渡したのは映画とかで出て来る白い防護服だった。


「おい、これは…」

「私が開発した最新の対NBC戦用特殊装備だ。世界で最も軽い代物だ」


 この重さで軽い!?普通に十キロはあると思うんだけど。


「さっさと着ろ」


 本城に促されて、服の上から着る俺と真田少佐。

 出来上がったのは、雪山の謎の巨人×2だった。

 その格好でまず指示されたのは、一階の鉛で覆われた部屋で台車ごと固定されている、巨大な卵状の何かだった。


「おい、これは何なんだ?」

「ああ、それはイギリスに依頼された新型のMIRV弾頭だ」

「?」


 よくわからないが、ろくでもないものだという事だけは分かった。

 次に運んだのは、小型の冷蔵庫のようなもの。コンセントから引き抜いてもバッテリーでしばらく駆動するらしい。

 好奇心に駆られた真田少佐が中を見ようとすると本城が止めた。


「それは絶対開けるな。バイオハザードは映画の中で十分だ」


 それを聞いた瞬間、俺は真っ青になった。本城がそう言ったからには間違いなくそうなるのだ!

 奇妙な顔をしている真田少佐を慌ててそれから引き剥がして、そのまま作業を続けた。

 その後も出るわ出るわ。足の八本ある馬や、背中に翼の生えたライオンの剝製。ガタガタと動く中身不明の箱。

 最後に本城の学習机(無数の機械の間に置かれたかわいらしい机。実にシュールである)を運ぼうとしたら、慌てて本城が来て自分で運んで行った。いったいあの机に何が…!

 そんなこんなで作業を終え、キャンプに戻った俺達三人。

 しばらく寝たふりをしていると、調査隊の人たちが起き出した。どうやら薬の副作用などもないようである。

 そのまま俺達も今起きたふりをして朝食の準備を手伝った。しきりに、欠伸をしている本城がかわいがられていた。

 そして調査隊が出発した後。


「フン…、やはりそう来たか…」


 俺と本城、真田少佐は調査員が出払ったテントの中で、本城が家から持ち出したノートパソコンの画面を覗き込んでいた。最初はカラー表示される薄型ディスプレイに驚いていた真田少佐だったが、どうやら大分この非常識にも慣れて来たらしい。

 画面の中では、真剣な表情で周囲を調べる調査隊の姿と、俺達を拘束するように命じる隊長―――大高さん―――の声が聞こえてきていた。


「おい、どうするんだ?」

「なに、連中の思惑に乗ってやるだけだ」


 俺の質問に、あっさりと答える本城。


「一時的に拘束させて口止めして解放とでも考えているんだろうが、こっちの身元が分からないとなれば話は別だ。だが、陸軍の士官と一緒に行動していた事で、強硬手段に出にくくなっているだろう」


 一応は身内だからな。

 詰将棋をやるような調子で言葉を組み立てる本城。

 ついでに、真田少佐はこれを聞いて絶望の表情を浮かべている。憲兵の世話になるのでは完全に陸軍で昇進する望みは潰える。いや、本当にすみません…。


「そこで、ある程度上の人間が出て来たところで隠匿してある『これ』の場所を教える」


 指さすのは目の前のノートパソコン。


「これを目の前で華麗に使いこなせば、それで未来人の証明完了だ」


 そうそう、と本城が付け足す。


「夏樹と真田は基本黙秘だから頑張ってくれ」

「またか!」


 駐屯地で殴られた経験が頭をよぎる。もう嫌だ!

 その時、真田少佐が一瞬鋭い視線を本城に向けた事に、俺は気がつかなかった。

 抗議しようとした時、テントの外で水音がした。どうやら調査隊の一部が、早くも拘束しに来たようだ。


「話はここまでだ」


 あっさり俺の抗議をスルーする本城。そのまま手際よくノートパソコンをジュラルミンケースに入れて、事前に掘っておいた穴に放り込む。


「二人とも、幸運を祈るぞ」


 冗談じゃない!

 猛烈に嫌な予感がするぞ!


 その直後に、本城が呟いた「私もだがな…」という発言を、残念ながら俺は聞き取れなかった。

 この事を後で激しく後悔するなんて、その時は思いもしなかった。

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