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1930~呉での再会~2

初めての感想をもらって凄くうれしいのです!

前回と違って今回は少し長め。簡単な伏線とかも張ってみたです!

 さて、語り手役を俺、工藤夏樹に戻して、話を進める。

 まずは毎度恒例の現状報告。

 俺と本城、そして真田少佐の三人がいるのは、例の調査隊が滞在する柱島諸島の西端に位置する無人島。目の前に広がるのは夜の漆黒の海。

 俺と真田少佐はふんどし姿で、本城は腿まである紅白の横縞模様の古風な水着を着ている。

 真田少佐は全身から”屈辱!”という空気を滲ませ、歯ぎしりの音がこっちまで聞こえてきそうである。

 俺は、そんな真田少佐に申し訳ないと思いながら、そもそもの元凶である本城の事を睨んでいる。

 その本城はと言えば、普段はツインテールにしている髪を一つにまとめ、伸脚なんかして準備を整えている。

 俺達が目指すのは、すぐそこの海に鎮座している本城家。調査隊は誰もこの事を知らない、完全な独断専行である。

 目的は、内部の転移装置と防衛機構の確認、そして、一部重要区画の封鎖。

 案内は本城。実行は俺と真田少佐。

 …なぜだろう?嫌な予感しかしないのだが。






 自宅が完全水没しているのを目撃して、絶叫した俺だったが、その後後頭部の衝撃と同時に記憶が途切れている。未来の妻を”僭称”する本城が”気を使って”一撃で意識を刈り取ったのだ。どこが気づかいだ。

 気がつけば周りは暗くなり、調査隊は野営の準備を終え火をおこして食事をしていた。

 痛む頭を擦りながらそこに近づいていくと、公開処刑が行われていた。もちろん比喩である。

 静まり返っている調査員達の囲みの中心にいるのは、花札を広げている本城と真田少佐だった。

 真田少佐は精悍な顔に脂汗を浮かべ、指先が若干震えている。

 対して、本城の方はかわいらしいニコニコ顔だが、普段から奴の顔を見ている俺には、内側から黒い何かが湧きだしているのが感じられた。


「…すみません、なにやってるんですか?」


 状況がいまいち掴めない俺は、近くにいた調査員に問いかける。


「あぁ、それがな…」


 調査員の話では、みんなで食事してどんちゃん騒ぎを繰り広げた後、本城がだれか花札をやらないかと言ったそうだ。もちろん掛け金あり。楽しそうだとみながやる気になり、まず調査員の一人が本城に挑んだ。

 すると、本城は苦戦するような様子を見せながらもそれに勝利したのだ。

 その後も、五人抜き、十人抜きと一方的に勝利を重ねた本城だが、そこですこし酒を飲んだ真田少佐が、女の子に負けるなんて不甲斐ないと言って出て来たのだ。

 太っ腹にも、真田少佐はこれまでの調査員の負け金全てを肩代わりしてやると言って、代わりに本城にこれまでの掛け金全てをかけた勝負を挑んだのだ。

 …断言するが、その時の本城は、してやったという目をしていたに違いない。

 そのまま勝負を挑んだ真田少佐だが、一回戦で激戦の末敗れてしまった。

 もう一回と挑んだ少佐だが、この時点で完全に本城の術中にはまっている。

 そのまま掛け金は雪だるま式に増加していき、気付いた時には信じられない額に膨れ上がっていたそうだ。


「今いくらなんですか?」

「…一万五千円だ」


 その程度かと思う俺。

 その俺の様子を見て、調査員は正気を疑う目を向けて来た。


「おい、一万五千もあれば普通に家一軒建つぞ!その程度なわけないだろ!」


 そうだった、こっちでは金銭価値が違うのだった。


「こい!」


 俺が納得した時、本城の声が聞こえると同時に観客の調査員達がどよめいた。その中で真田少佐が絶望の表情を浮かべている。俺にはよくわからないが、手札は破滅状態のようだ。

 一縷の望みを賭け、札を取る少佐。

 しかし、希望の光は即座に消滅。代わりに目には涙が浮かんでいる。

 ニコニコ表情を変えずに、札を引く本城。内側の黒さが増しているぞ。

 その一枚で、勝負は終わった。

 真田少佐の借金総額は一万六千百円。

 真田少佐の、本城の奴隷としてこき使われる日々が始まった。






 そんな事があって、今の真田少佐は完全に本城に強く出る事が出来ない。

 すでに奴隷の少佐相手に化けの皮を被る気もないらしく、俺にするのと同じように顎で使っている。

 その、奴隷としての初仕事が今回の独断専行での潜入だった。


「二人とも、今回の作戦の肝は二つだ」


 準備体操を終えた本城が、腰に手を当てて仁王立ちして言う。見た目は完全に小学校中学年だが、その頭蓋骨の中には悪魔も真っ青な大量の知識と悪知恵が詰まっている。


「まず、ここにいる調査隊員に気がつかれない事。これは食べ物に少し盛っておいたから朝までは心配しなくていい」

「ちょっと待て。お前今何て言った!」


 この悪魔は親切だった調査隊の皆さんに毒を盛ったというのだ!なんという鬼畜…!


「安心しろ、ただの睡眠導入剤だ。私特製のな」


 最後の一言でさらに不安を募らせるが、もはやどうしようもない。話を進める。


「それで、もう一つは?」

「うむ。もう一つは、防御施設の一部無力化だ」


 これには俺と真田少佐、二人とも頭に疑問符を浮かべる。俺はなぜそんな事をするのか。少佐はなんでこの娘がそんな事を知っているのかである。

 俺達二人の様子を見て、本城が言う。


「まあ、理由はおいおい分かるだろう。重要なのはここから先は絶対に進めないと思わせる事だ。奴れ…真田少佐も、いい加減吉岡のじじいの言ってた事を信じろ」


 一度『奴隷』と言いかけて訂正した本城。珍しい事もあったものである。しかし、本城の発言を聞いた真田少佐は目を見開いている。


「まさか…、本当に未来人…?」

「まあ、そういう事だ」


 衝撃を受けている真田少佐にあっさりと言い放つ本城。


「それより、夜明けまで後六時間ほどしかない。始めるぞ」






 俺達三人は、なるべく飛沫を立てないように、静かに本城の家の敷地に乗り込んだ。

 全身の海水を真田少佐が運んでくれたタオルで拭く。驚いた事に、少佐は古式泳法の達人だった。


「おい本城、本気でこの家の中に入るのか?」


 その時、俺は重要な事を思い出した。

 そう、この家には無数のトラップが仕掛けられているのだ。今のような軽装では生きて帰れるとは思えない。


「はぁ?お前は何を言ってるんだ?」


 本気で理解不能という様子の本城。

 そのまま玄関の扉をあける…のではなく、その脇の花壇に手を伸ばす。

 そのレンガの一つを外すと、中には指紋認識装置が仕掛けられていた。そのまま触れる本城。

 次の瞬間、電子音と共に花壇が沈みこみ、後にはLEDに照らされた地下への階段が姿を現した。

 その様子を、あんぐりと口をあけて見つめる俺と真田少佐。


「なあ本城。これって俺でも使えるのか?」

「あたりまえだろ。夏樹は毎朝これを使って起こしに来てくれてたろうに」

「じゃ、じゃあ、あの家の中のトラップは…?」

「馬鹿か。あんなの突破できるのはグリーンベレーかSEALsくらいだ。ただの趣味に決まってる」


 マジで号泣した。俺のいままでの苦労は一体…!

 もっとも、鬱陶しく感じた本城が俺の脾臓を一撃し、即座に止められたが。

 そのまま地下通路を経由して本城の家の内部に入る。

 入ったところにあったのは、整然と壁沿いに並んでいる多数のディスプレイとタワー型コンピューター、そして巨大なタンスのようなスカラー・ベクトル複合型スーパーコンピューターだった。


「これは一体…!」


 文字通り、小説に出て来る宇宙人の基地そのものの光景に衝撃を受ける真田少佐。

 それを尻目に、本城はディスプレイの一つに近づくとブラインドタッチで何かを打ち込んでいる。

 しばらくすると、壁面に埋め込まれている大型スクリーンに家の見取り図が出された。

 …呆れた事に、俺はそこに表示されている範囲の半分も知らなかった。

 見取り図から見た本城の家は、五階建てのビルの三階部分までを地下に埋めたような構造だった。

 基本的に俺が今まで出入りしていたのはその地上部分だけで、今俺達がいるのは地下二階のサーバールームのようだ。これは地下二階の玄関側の半分を占有した空間で、多数の電子機器が低い動作音を上げている。

 この上の地下一階は機械工作室と記され、最新の自動旋盤などが詰め込まれているらしい。

 逆に、地下三階は燃料電池を中心とした自家発電施設になっているようで、ほとんどは各種ボンベやタンクで占められている。

 地上階は基本的に一般家屋と似たような間取りだが、家具の代わりに置かれているのは各種解析装置の山だ。

 そして、その全てを貫く形で中央をエレベーターが通っている。

 その見取り図を指して、本城が作業内容を説明する。


「今回の作業の目的は、こちらで隠匿したい設備の地下区画への移動だ。移動したい設備はこれから指示を出す。回収した資材は基本的にこの地下二階のサーバールームに保管してもらう。それが終了し次第、トラップの一部解除と地下二階以下の封鎖を私が行う。時間はない、すぐに働け」


 命令口調の本城に真田少佐が切れかかっていたが、本城が借用手形を取り出したのを見て肩を落としていた。

 萎れている真田少佐に声をかける。


「少佐、がんばりましょう…」

「…殿をつけろ、殿を」


 もはやそこに精悍な陸軍士官の表情はなく、悪質な高利貸しに追われる夜逃げ人を思わせるものになっていた。

 …合掌。

 半分死人になっている真田少佐を押しながら、俺は作業を始めた。






本城サイド。

 二人が部屋から出るのを確認し、私はさっきディスプレイを表示する作業と同時に走らせたある計算の結果を確認する。


「…やはり無理か」


 その結果は、ほぼ予想通りだった。

 簡単に言ってしまえば、まっとうな帰還方法はない。

 どう考えても必要なエネルギーを確保する事ができない。

 だが、

 まっとうでない方法ならば?

 新しい数式をHDDから引き出して変数を入力。再び計算する。

 数秒で結果は出た。


「…なかなかの覚悟がいるな…」


 だが、この方法は絶対に夏樹が許しはしないだろう。

 ならば、


「私が全て一人でやるしかないか…」


 メモを取って、ディスプレイに表示されているデータを全て削除する。

 メモには、女の子らしい丸文字で『RDS-220』×20と記されていた。

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