1930~呉での再会~1
いつの間にかお気に入りが十七件になっていてとてもうれしいのです!
今回は少し短めですが本城美樹の視点から書いてみたです!
「家が!俺の家が!」
いきなり夏樹の絶叫から始まって悪いが、今回は仕方あるまい。
今、私、本城美樹の目の前に広がっている光景を簡潔にまとめてみる。
まず正面に、この世界に転送されてきた私の家が洋上に浮島のように浮いて見える。おそらく地下部分の深さと水深がちょうど一致したのだろう。
その少し右側。そこには夏樹の家が屋根の一部とアンテナだけを水面に突き出して完全に水没していた。どこまでも運のない奴だ。さすがに夏樹もこれはショックだろう。
「…仕方ないか」
少し私が慰めてやろう。
未来の妻として。
大阪で一泊した私達は、そのまま山陽本線で広島を目指した。
呉は軍事都市であり、近くの広島も陸軍部隊が師団単位で展開する重要拠点だ。吉岡のじじいの力を使えば軍用線を利用して国鉄より確実に早くついたが、現時点で吉岡や一部の連中以外に私たちの存在を知られたくなかった。
夏樹には話していないが、私達が帰還するには『ある物』が大量に不足している。これを確保するには国家と軍の協力が不可欠だ。そのためには、最終的にこちらの存在を知らせなくてはならないが、美樹は可能な限り今の状況―――こちらが一方的に相手の事を知っている状況―――を引きのばしたかった。
夏樹からは、私が普段と変わらないように見えるのかもしれないが、実際は私も不安なのだ。七年前にタイムスリップするのだって、やろうと思えば二週間でできた。しなかったのは、どんな事になるか分からず不安だったからだ。
それが、事故で戦前の時代まで飛ばされたとはいえ、夏樹が一緒にいるのは本当に心強かった。
…それに、事故の原因の一端は、間違いなく夏樹にもあるのだ。少しぐらい痛い目にあってもいいだろう。
完全に、自分に最大の責任がある事を忘却している美樹だった。
旅は予定通りに進み、正午には呉に着いた。
「おお…、凄いな…!」
夏樹が息をのむのも無理はない。
眼前に広がる呉軍港。そこには、旭日旗を掲げた大小無数の艦艇がその威容を洋上に浮かべていた。
正面に見えるのは、八インチ級の主砲を単装六基六門備えた八千トン級重巡洋艦『古鷹』
その隣の桟橋で、目刺状態で三隻横付けしているのは、サイズから見て特型駆逐艦だろう。艦体の前方によっている艦橋構造物と連装三基六門の十二・七センチ砲が印象的だ。
このいずれも、この時代においてそれぞれの艦種における最強の存在だ。
私としても、この時代に苦しい国家財政の中、これだけの戦力を整備した事に素直に感心する。
そして、夏樹に言っておく。
「夏樹?そんな事じゃこれから先が思いやられるぞ」
そう、これから向かう先は、ここにいる連中が束になってもかなわない、文字通りの海の女王が待っているのだから。
「………!」
その圧倒的光景に、夏樹は言葉を失っていた。
冷静に見える私も、正直気押されるものを感じていた。
場所は周防大島と柱島諸島の間、東大の調査団に乗せてもらった調査船の上。一緒にいるのは私と夏樹、お目付役の真田と調査に当たる東大チーム。吉岡のじじいはとうとう胃に穴が開いたらしく、呉市内で静養すると言っていた。
そこには、先ほど呉で見たのとは比べ物にならないほど巨大な艦艇がひしめいていた。
まず目につくのは、後ろに湾曲した一番煙突が特徴的な、泊地の中でも最も巨大な戦艦『長門』
周囲に停泊する『川内』型の軽巡洋艦と比べても、その大きさは圧倒的だった。
そのそばには、連装砲を六基備えた大型艦―――おそらくは『伊勢』型―――がタグボートの助けを借りて広島湾へと進出しつつあった。
停泊する艦艇の間ではカッターが行き交い、その間を真っ黒な煙を吹きだす内火艇が走り回っていた。
これらの光景のいずれも、現代の日本では見る事の出来ないものだった。
一緒に乗っている調査員達も、どことなく誇らしげで、
「『長門』と『陸奥』は日本の誇りじゃけん!」
と言っている。この男、土佐出身か。
「それよりも、調査場所の詳しい位置を教えてくれないか?」
「うにゃ。場所はどうも泊地の西側水道に面した柱島諸島近くの浅瀬じゃけん」
「浅瀬?」
なんとなく、不幸な推測が頭をよぎる。
「そうじゃ。なんでも見た事のない建材でできておって、中に入れないそうじゃ。わしゃ本当の宇宙人っちゅう奴じゃないかとおもっとるんだがね!」
まるで少年のような事を言う調査員に、若干の親近感を感じる。もしかしたら、私達が未来人だという事を信じてくれるかもしれない。
その時、乗っていた内火艇が柱島の島影に進入した。
そこに、予想通りの光景を見つける。
「…本当に、運のない奴め…」
絶叫している夏樹を見て、ため息をつく。
そこには、基礎の部分が若干浮かんで見える私の家と、屋根の一部を残して完全に水没している夏樹の家があった。