1941~開戦~
はじめまして金子です
今回唐突に書きたくなって投稿しました
書きため無し、今後の展望無しの超見切り発車ですがどうかお願いします。
現在章管理に関する作業中です。二日以内に終了するのでご迷惑おかけするのです。
1941年12月7日。呉鎮守府地下60メートル。
そこに巨大な地下壕があった。
幅と奥行きは50メートル近く。天井の高さも10メートル近い巨大な代物である。
階段状に設けられた席には外部との通信を行う女性オペレーターが様々な情報を遣り取りし、重要と思われる情報は階段の最上段に設けられている司令席へと転送される。
階段の正面には巨大な電光掲示板が設置されており、現在はここ呉を中心とする中国・四国地方の地図が表示されている。地図には味方を示す青い光点が多数表示されている。
その時、その南の端に突如として赤い光点が現れた。
「レーダー網より緊急通報、高知沖に敵味方不明機多数を捕捉!」
司令席に座っていた呉防空司令部は突然の報告にも慌てることなく冷静にその報告を受け止めていた。その表情には来るべき時が来たという印象が強い。
そのままゆっくりと立ち上がり、威厳に満ちた態度で命じる。
「全軍に非常事態宣言。同時に状況を『義一号』と判断、全航空部隊は防空戦闘態勢にシフト。鎮守府在泊艦艇は緊急出港を急がせるように!」
その声に、オペレーター達が一斉に担当する部署へと情報を伝達する。
指示の直後から、オペレーターを通して各航空基地から出撃開始の報告が届く。すでに数日前から哨戒任務に当たる潜水艦部隊の報告により即応体制が整えられている。抜かりはない。
レーダーの報告が正しければ敵編隊は一時間以内にここに姿を見せるはずだ。
もっとも、そこまで生き延びればの話だが。
「我らの力、奴らに見せつけてくれる…!」
呉鎮守府沖、柱島泊地。
今そこを一群の艦艇が出港しようとしていた。
艦隊の先陣を切るのは新旧多数の駆逐艦。
見るからに俊敏そうな艦を巧みに操り衝突を避けながら、回避運動の容易な広島湾へと脱出を果たす。
それに続くのは排水量が一万トンを超える大型重巡洋艦『伊吹』
高雄型にそっくりの巨大な艦橋を持っているが、主砲は三連装を三基装備。どちらかと言えば最新鋭戦艦『大和』型に類似した印象を受ける。
ソナーを装備した巨大なバルバス・バウで波を引き裂きながら先行した駆逐艦と同じく広島湾への脱出を目指す。
近くに停泊していた『大井』『北上』なども、脱出を目指しながら巧みな操舵で臨時の隊列を組んでいく。
それらの駆逐艦や巡洋艦に一拍遅れて動き始めたのは二隻の大型空母『大鳳』『海鳳』
日本海軍初の装甲空母にして、『翔鶴』型に続きアングルドデッキと蒸気カタパルトを装備した最新鋭正規空母である。
就役は三か月前で、すでに最低限の慣熟訓練を終えているが航空隊の搭載はまだだ。
甲板の縁ではレーダーと連動した最新の射撃管制装置を備える長十センチ高角砲が鎌首をもたげるように仰角をかけ、周囲では弾薬などを抱えた兵員が忙しく走り回っている。
従来の空母と違い黒光りするその甲板は見るからに頑丈そうである。
そして、それらの最後に出港を開始した一隻の戦艦。
その艦影は重厚無比。いかなるものも並び立つことのかなわない圧倒的な存在感を持ってそこに存在していた。
その名は『大和』軍縮条約の頸木から解き放たれた究極の戦艦。
艦首に二基、艦尾に一基の三基九門の四十六センチ砲。前後の中心線上と艦橋の両脇に装備された三連装百五十五ミリ砲。上部構造物を囲むように据え付けられた十二基二十四門の長十センチ高角砲に四十ミリと二十ミリの多数の機銃座。
艦橋のトップでは複数のレーダーがせわしなく回転し周囲を警戒している。
甲板は中央付近には木材が、艦首と艦尾は灰色のリノリウムが張られコントラストを成している。
その全てが『大和』に圧倒的な存在感と機能美を与えていた。
遅れて出港する駆逐艦を従えて進む姿はまさに海の王者。
その主砲には僅かに仰角がかけられ、間もなく来るであろう決戦の時に備えていた。
高知上空高度四千メートル。
そこには多数の戦闘機が編隊を組んで、進軍の時を今か今かと待っていた。
編隊の中心は三年前に採用された海軍の『九八式艦上戦闘機』とその翌年に陸軍で採用された『隼』である。どちらも単葉全金属製で細身の似通った外見をしているが、九八式は強力な二十ミリ機銃を装備し、隼は操縦席の背中に装甲板を仕込み燃料タンクもゴムを利用した漏洩防止装置が装備されている。
それらに混じって旋回を繰り返しているのは海軍の最新鋭戦闘機『烈風』
強力な二千馬力級エンジンと異様なほどに広い翼面積によって、機動性と高速性を高いレベルでバランスした高性能機。最高速度は時速六百キロを超える。
それらより千メートルほど上空に存在するのは統合航空軍所属の空中管制機『天空』
最大上昇高度一万二千メートルを誇り、日本で初めて与圧キャビンを装備した六発エンジンの巨人機。
原型は海軍の大型陸上攻撃機『連山』これにさらにエンジンを二基追加。爆弾倉を廃し、代わりに多数のレーダーや無線などの電子機器を搭載している。
これらの高性能の代償として最高速度が時速四百キロ程度まで低下してしまったが、二十時間以上の連続飛行が可能な事から哨戒任務等で極めて重宝されている。
今回はその優れた電子装備を生かして、敵への妨害電波の発信と味方戦闘機隊の誘導、場合によっては空戦指揮まで行う予定だ。
また、ここにいる編隊とは別に呉の上空には陸軍の一部航空隊が展開し、もし誘導に失敗した場合最後の盾になる予定だった。
もっとも、ここにいる誰ひとりとしてそのような事態は考えていない。
彼らはこの時のために血の滲むような訓練を積み重ねてきたのだ。今この時に失敗する気はさらさら無かった。
次回はタイムスリップ前後です