【微ホラー】黒い影、白い影
企画投稿です
よろしくお願い致します
あれは、大学生の頃だった。
友人が「青春18きっぷ」の余った一日分を千円で買わないか、と言ってきた。
当時の俺は、青春18きっぷがどういうものなのかも、たいして分かっていなかった。
ただ、一日中電車に乗り放題。
それだけ聞いて、妙にワクワクした。
さて、どこへ行こう。
せっかくなら、普段なら絶対に行かないようなところがいい。
当時、俺はBUMP OF CHICKENにどハマりしていた。
その影響もあったのだと思う。
駅の路線図を眺めながら、「券売機で一番端の、一番高い切符が行く街」へ行ってみようと考えた。
そこで目に入ったのが、奥多摩という文字だった。
奥多摩か。
行ったことがない。
たぶん、これから先も自分から行くことはないだろう。
じゃあ、行ってみるか。
それだけだった。
翌日、俺はリュック一つで奥多摩へ向かった。
山登りをするつもりなんて、これっぽっちもなかった。
散歩に行くくらいの感覚だった。
電車に揺られて、目的地へと向かう。
電車の中は人が多くて立っていた。
でも大きな駅を通るたびに人は降りていき、やっと座れるようになって、いつしか人もまばらになっていた。
乗り継ぎをしながら、どんどん山が深くなっていく。
奥多摩駅に到着。
看板を見る。
『ようこそ奥多摩へ!』
よく知らないで来たが、どうやらハイキングコースと山登りコースがあるようだ。
体力だけは有り余っている。
『入山届』という文字と書類のようなものに、登山のハードルを感じて、ハイキングコースを選択。駅前の商店を抜けると、どんどん山道に入っていった。
ハイキングコースの看板と地図を発見。
なるほど、これならなかなか楽しめそうだ。
整備されたハイキングコースは、実に歩きやすかった。
登り坂、下り坂、途中に沢があったり吊り橋があったりもした。
自然豊かで、ちょっぴり薄暗い。
でも、普段だったらなかなかできない体験に、新鮮な気持ちが溢れていた。
ちょうど川べりに差し掛かる。
横の林の奥から、何やら嫌な気配を感じた。
その木と木に間。
人でも、動物でもない。もっと何か。『黒い影』のようなものがじーっとこちらを見ている気がした。
さっきまでの高揚感は消え失せ、ねっとりとした汗が額に流れる。
なんとなく、見てはダメな気がした。視線に耐えられず、何度も正体を確認したくなったとしても。
俺が選んだ手段は「無視」。
ごまかすように、テンション高く叫びながら山道を駆ける。
気づいてないフリを続けた。
どれだけ走っても、道を変えても、『黒い影』の視線はついてきた。
俺は誰か人がいないか期待しながら山道を進む。
こんな平日のハイキングコース、人っ子一人すれ違わなかった。
人はもちろん、動物すらも出会わない。
だから。
「あれ」が人でも動物でもないと分かっていたんだ。
変わらず視線はついてくる。でも、完全には近づいてはこない。
でも、ふとした瞬間だった。
吊り橋に差し掛かったときに、バランスを崩してしまった。
つい、後ろを向いてしまった。
そしたら。
その『黒い影』が目の前にいたんだ。
うわーーーーーーー!!
思わず叫んで、走り出した。
完全に目が合ってしまった。
絶対にやばい。理屈なんて無い。全身が拒絶していた。
俺は、山道を無我夢中で走って逃げた。
気づいたら、さっきまでいたハイキングコースから外れていた。
さっきまでは歩きやすく手入れされた道。
でも、今は草木の生い茂った獣道にいる。
あれ?ここどこだ。
看板も目印もない。
見渡す限り木と草。
やばい。完全にやってしまった。
来た道すらわからない。
混乱しつつも少しだけ冷静になれたのは、あの黒い影の気配が全く無かったからだった。
それだけはわかったんだ。どうやら振り切ったらしい。
でも、迂闊に歩いちゃいけない。何かで見たんだ。こういうときは下手に歩くと余計に迷うだけだって。
深呼吸して落ち着いて、方角を探る手段を思い出す。
コンパス。そんなものはない。
木の年輪。切り株なんて無い。
あるのは生い茂った太い枝と草だけ。
そうだ。腕時計の短針と長針。
そう思ったけれど、深い森の中では、太陽の位置もよくわからなかった。
どうしよう。このままじゃ…。
そう思った瞬間、今度は『白い影』がいたんだ。
神々しいとかではない。でも、悪いとか怖い感じはしなかった。
直感でわかった。あ、これは『良い影』だって。
草むらの向こう、太い木の横にいるその白い影は、何かを伝えてるように感じた。
それを信じて、近づいていった。
そしたら白い影も動いていった。
少し不安だったけど、ついて行った。
どれくらい歩いたんだろうか。
気づいたらコンクリートの道路に出ていた。
助かった!と思わず叫んだ。
それからはあんまり覚えてないけど、どうやら無事に電車に乗って帰れたらしい。
それ以来。旅行先で白い気配を感じたら、なんとなく信じるようにすることにしている。
いかがでしたでしょうか
皆様の旅先での不思議エピソードも聞いてみたいです




