第6話 鈴本さんとデート
僕は今、鈴本さんと映画館に来ている。
「この映画、前から気になってたんだよねー!」
鈴本さんは上映予定のポスターを見ながら楽しそうに言った。
「じゃあ、それ見ようか」
こうして僕たちは、恋愛映画を見ることになった。
もちろん席は隣。
映画館の照明がゆっくり落ちていく。
「楽しみだね」
鈴本さんが小声で言った。
「うん、俺もこういう映画好きだから楽しみ」
……嘘である。
好きな人が隣にいるせいで、心臓がうるさすぎる。
正直、映画どころじゃない。
でも今だけは、この時間をちゃんと楽しみたいと思った。
そして映画が始まった。
途中、何度か鈴本さんが笑っていた。
切ないシーンでは、小さく鼻をすすっていた。
その横顔を見るたびに、僕の心臓は変な音を立てる。
映画が終わり、館内が明るくなる。
「あ〜、泣けた〜」
鈴本さんが目元を押さえながら言った。
「だね……」
実は内容がほとんど入っていない。
たぶん僕は、映画より鈴本さんを見ている時間の方が長かった。
「最後すごかったよね。主人公、自分の気持ちより相手の幸せを選んだじゃん」
「あー……うん、あれは泣けた」
危ない。
本当にギリギリだった。
もし具体的な感想を聞かれていたら終わっていた。
「でさ、高村くんはどのシーンが一番好きだった?」
やっぱり来た。
「え、えっと……やっぱ最後かな」
「やっぱそうだよねー!」
助かった。
僕は心の中でそっと安堵した。
映画館を出ると、外はすっかり夕方になっていた。
「もうこんな時間か〜」
鈴本さんがスマホを見る。
その時、一瞬だけ彼女のスマホが震えた。
彼女は画面を見て、少しだけ嬉しそうに笑った。
……誰からだろう。
でも、深く聞く勇気はなかった。
「この後どうしようか。帰る?」
そう聞かれて、僕は少し迷った。
本当は、まだ一緒にいたい。
せっかく二人きりなんだから。
「よかったら、ご飯食べてから帰らない?」
思い切ってそう言う。
「うん! 私もちょうどお腹空いてた!」
鈴本さんは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ただけで、誘ってよかったと思えた。
そして僕たちは、駅前のイタリアンレストランに入った。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
「こちらこそ。誘ってくれてありがとう」
こんなの、ほとんどデートじゃないか。
好きな人と映画を見て、ご飯を食べて、向かい合って話している。
数ヶ月前の僕なら、想像もできなかった。
でも同時に思う。
鈴本さんは誰とでも仲良くできるタイプだ。
だから今日誘われたのが、たまたま僕だったとしても不思議じゃない。
そんな考えが頭をよぎって、少しだけ胸が苦しくなった。
「あのさー、高村くんって好きな子いるの?」
突然そう聞かれて、僕は思わず顔を上げた。
「……いるよ」
「そっか」
鈴本さんは少しだけ視線を落とした。
「その恋、叶うといいね」
そして、小さく笑って言う。
「私も頑張らなきゃ」
その言葉に、僕の心臓が大きく跳ねた。
好きな人がいる。
その事実は少し苦しかった。
でも同時に、もしかしたらその相手は――なんて期待してしまう自分もいた。
食事を終え、店を出る。
「今日は楽しかったよ。また行こうね」
「うん、僕も楽しかった」
駅前で別れる。
鈴本さんは「この後ちょっと予定あるから」と言って、軽く手を振った。
こんな時間に誰と会うんだろう。
きっと今日、カラオケを抜け出したのだから友達にそのことで少し怒られるのだろう。
帰り道。
スマホを開いて、僕はメッセージ画面を見つめる。
『今日は本当に楽しかった』
そう打ち込んで――結局、送れなかった。
重いと思われたくない。
嫌われたくない。
今日の出来事で、
鈴本さんとの距離は確実に縮まった。次、鈴本さんと会える日が楽しみだ。




