第9話 北の遺跡へ
ウッドウインド村、滞在先の民家。
私たちは午前10時まで睡眠をとった。
起床後、ダンジョン探索に備えて、私たちは準備をしていた。
ナターシャが真剣な表情で告げる。
「今から対チャーム用の魔法陣を書いていくのさ」
「ではお願いします。ナターシャ」
私は頷いた。
「遺跡の奥にはチャームの魔法を使う者が必ずいる——」
ナターシャが魔法のペンを取り出す。
「だから、あんたたち下腹部を出すのさ」
「ちょっと、ナターシャ!」
私は慌てて声を上げた。
「下腹部って……ほかのところではダメですか!?」
「あたいら女性のマナが集中しているのはそこなのさ」
ナターシャがニヤリと笑う。
「効果を最大限発揮するにはそこしかないのさ」
「恥ずかしいのかい、ミサカ」
「そ、そんなことはありません」
私は平静を装う。
ナターシャは、いたずらっぽい目で私を見つめた。
でも顔は熱い。
ナターシャが頷いた。
「じゃあ、今からひとりずつ書いていくのさ」
「これがなかったら、あんたたち全員操られて終わりさね」
◆ ◆ ◆
「にゃ~にゃ~にゃ~」
ミケケが気持ちよさそうな声を上げている。
三毛柄の猫耳がぴくぴく揺れた。
「次、ヴィヴィとカルラ」
「きゃははは!」
「くすぐったいのじゃ!」
二人が笑い声を上げる。
くすぐったいだけみたいだ。
私も大丈夫よね……
内心で不安が募る。
「次、ミサカ」
ナターシャが私を見た。
「お、お願いします」
私は深呼吸する。
上着をたくし上げ、下着を少しだけずらす。
白い肌が露わになる。
「では、書くのさ」
ナターシャのペンが、私の下腹部に触れた。
冷たい感触。
魔法陣が描かれていく。
「ッ!」
——その瞬間。
あ、そこは……!
思わず声が出てしまう。
「ぁ……」
甘い声だった。
「!?」
私は慌てて口を押さえる。
(今の、私の声……!?)
「どうしたのじゃ、お姉さま?」
カルラが心配そうに覗き込む。
「大丈夫、ミサカさん?」
ヴィヴィも不思議そうだ。
ナターシャがニヤリと笑った。
「あたいはそーゆーつもりでやってるわけではないんだけどねぇ
ニヤニヤしている。
「ミサカは、感度がいいのさ」
茶化すように言う。
「ミサカもレディということにゃ」
ミケケがウインクしてきた。
尻尾が嬉しそうに揺れている。
「そ、そんなことは……!」
私の顔が、真っ赤になる。
(恥ずかしい……!)
(私の艦長としての威厳が……)
平静を装う。
でも——
顔の熱さは、ごまかせない。
ナターシャは少しいたずらっぽい目をしながら、魔法陣を書き続けた。
ペンが動くたびに——
「んっ……」
小さな声が漏れる。
(そこは弱いのよ!)
でも、言えない。
これは必要なことだから。
「はい、完成なのさ」
ナターシャが手を離す。
私は慌てて服を整えた。
「お、お疲れ様です……」
声が震えている。
「ふふ、ミサカは可愛いのさ」
ナターシャが満足そうに笑った。
◆ ◆ ◆
全員の魔法陣が完成。
下腹部に淡い光が宿っている。
「これでチャーム魔法への耐性はかなり上がったのさ」
ナターシャが説明する。
「ありがとう、ナターシャ」
ヴィヴィが笑顔で言った。
「これで安心にゃ」
ミケケの耳が立つ。
「お姉さまを守れるのじゃ!」
カルラも嬉しそうだ。
私は——
まだ顔が熱い。
(ナターシャ……絶対わざとやったわよね……)
でも、文句は言えない。
これで安全になったのだから。
「さて、これですべての準備は整ったのさ」
ナターシャは私を見つめる。
私はみんなを見つめて宣言した。
「これより、北の遺跡に向かい脅威を排除します!」
◆ ◆ ◆
午後1時——
北の遺跡前。
荒れ果てた石造りの建物。
蔦が這い、入口は暗く口を開けている。
「慎重にいきましょう」
私は告げた。
「よし、入るのじゃ!」
カルラが元気よく言う。
そして——
遺跡の中へ、足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
入口は暗い。
ミケケが杖を掲げた。
「白ノ四式・サークルライト!」
淡い光が周囲を照らす。
石の壁。
崩れかけた柱。
そして——
奥へと続く階段。
「防御魔法をかけるにゃ」
ミケケが詠唱を始める。
「白ノ四式・サークルプロテクション!」
「白ノ四式・サークルブレス!」
淡い光が私たちを包んだ。
体が軽くなる。
防御力も上がった気がする。
私は指示をだす。
「ヴィヴィを先頭に私とカルラが中衛、ナターシャとミケケが後衛で陣形を組みましょう」
そして、私たちは階段を下りた。
◆ ◆ ◆
地下一階——
広い空間に出た。
カラン、カラン……
骨が動く音。
「スケルトンなのじゃ!」
カルラが叫ぶ。
暗闇から、白い骨の魔物が現れた。
十体以上。
「打撃はあたしの十八番だよ!」
ヴィヴィが盾を構える。
「うりゃー!」
カルラが拳を振り上げる。
ガシャーン!
スケルトンが砕け散った。
ヴィヴィも盾を振り回す。
「えいっ!」
ドゴォン!
骨が吹き飛ぶ。
ヴィヴィとカルラは次々と頭蓋を破壊していく。
「楽勝なのじゃ!」
カルラが胸を張る。
私たちは長い通路を進む。
その時——
カチッ。
カルラが床の仕掛けを踏んだ。
「!?」
シュシュシュシュ!
奥の壁から槍が飛んでくる。
「危ない!」
ヴィヴィが前に出た。
盾で槍を受け止める。
ガキィン、ガキィン!
「助かったのじゃ、ヴィヴィ!」
カルラが安堵の声を上げる。
ヴィヴィが笑顔でウインク。
「みんなを守る。それがあたしの仕事だよ!」
(頼もしいわね、ヴィヴィ)
私は微笑んだ。
◆ ◆ ◆
地下二階——
腐臭が鼻をつく。
「うぇっ……」
ミケケが鼻をつまんだ。
ゾンビとグールの群れ。
ゆっくりと、こちらに向かってくる。
「黒ノ五式・ファイア!」
ナターシャが詠唱。
火球が出現する。
無詠唱で次から次へと火球がゾンビたちに向かう。
ブォォォオオ
ゾンビたちが炎に包まれた。
「アンデットは燃やすに限るのさ」
ナターシャが満足そうに言う。
「白ノ四式・サークルヒール!」
ミケケが回復魔法を詠唱。
緑の光がグールに降り注ぐ。
ジュウゥゥゥ……
グールが溶けていく。
「アンデットには回復魔法をかけてやるにゃ」
ミケケが得意げに言った。
攻撃をすり抜けて来た数匹のグールは私が斬り伏せた。
ナターシャが立ち止まった。
「待つのさ」
「どうしたの?」
私が尋ねる。
「落とし穴さ。ここ」
ナターシャが床を指差す。
「危なかった……」
私たちは慎重に回避した。
◆ ◆ ◆
地下三階——
広間に出る。
そこには——
リッチが二体、宙に浮いていた。
ローブを纏った、骸骨の魔法使い。
「メガァァァフレ……ア」
リッチが先制攻撃。
大きな二つの炎の塊が炸裂、無数の火の玉になって襲いかかる。
ヴィヴィが前に出た。
「初めてリッチを見た時は逃げようとした……」
盾を構える。
「でも今のあたしなら——守れる!」
「神盾権能・ディバインシールド!」
青い障壁が展開。
すべての火の玉を防いだ。
「黒ノ一式・ファイア」
ナターシャの火魔法がリッチを焼き尽くす。
一体目が灰になった。
「次は、うちの番なのじゃ!」
カルラが口を開ける——
ゴォォォォ!
炎のブレスが吹き出す。
二体目のリッチも灰になった。
「どうじゃ、人型でもブレスは撃てるのじゃ!」
カルラが自信たっぷりに胸を張る。
私は微笑んだ。
「よくやりました、カルラ」
「えへへ、お姉さまに褒められたのじゃ!」
カルラの角がぴょこぴょこ動いた。
◆ ◆ ◆
さらに奥へ進む。
大理石の空間に出た。
天井が高い。
そこには——
重厚な扉がある。
「鍵がかかっているのさ」
ナターシャが扉を調べる。
シーフツールを取り出した。
カチャカチャ……カチッ。
「開いたのさ」
ナターシャが微笑む。
私は扉に手をかける。
深呼吸。
ゆっくりと、扉を開いた。
◆ ◆ ◆
中は——
大理石の広い部屋だった。
豪華な調度品が並んでいる。
燭台の炎が、揺れている。
そして——
「!?」
私は息を呑んだ。
部屋の中央。
机に横たわるエルフの少女。
金色の髪が、机から垂れている。
その首筋に——
男が顔を埋めていた。
吸っている。
血を。
「なに……あれ……」
ヴィヴィが震える声で呟く。
部屋の奥——
檻がある。
中には、エルフの少女が四人。
赤い目で、虚空を見つめていた。
表情がない。
まるで——人形のように。
男がゆっくりと顔を上げた。
口元から、赤い雫が垂れる。
「……我の食事を邪魔するのは誰だ?」
低く、冷たい声。
男の目が——赤く光った。
続く




