第73話 密議
アベルトの指がムンドール州を指し示す。
「反乱軍は総勢三万余り、我が方は一万弱」
「兵力差は三倍、普通に考えればセレスティアで籠城戦をせざるをえません」
「籠城すれば百日は戦えますが、長期戦となれば兵站を絶たれて負けるでしょう」
アベルトは手を顎に当てた。
「先ほど、宰相閣下と話し合ったのですが——」
アベルトは一呼吸置いた後、口を開いた。
「野戦こそ唯一の勝機と結論に達しました」
私は目を見開き言った。
「ちょっと待ってください。三倍の兵力差で野戦は負けると思います」
「扶桑の兵学で考えるならば野戦は避けるべきです」
私は強く言った。そして、ボンノーを見つめる。
ボンノーは静かに語り始めた。
「確かにミサカさんの言う通りです。敵もそう思うでしょう」
「故に野戦を選ぶのです」
「?」
私は首を傾げた。
「私がミサカ卿に説明してもよろしいでしょうか?」
アベルトが地図上に駒を置き始めた。
「アベルト殿、お願いします」
ボンノーは頷いた。
「では、説明をいたします」
「我々の兵力が結集するのは一週間後の8月10日」
アベルトは王都に駒を並べる。そして、船の駒を置いた。
「そのとき、反乱軍はこの位置にいるでしょう」
街道へ駒を並べる。
「そして、我々は出陣する」
「8月14日には両軍はバーミリオ平原で対峙することになると思います」
アベルトは両軍の駒をバーミリオ平原で対峙させた。
船の駒はバーミリオ高原のやや後方に置いた。
「この船の駒はなんでしょうか?」
私は質問をする。
「大和です」
ボンノーは静かに答えた。
「!」
(確かに大和なら——)
アベルトは話を続けた。
「敵の主力は防御に有利な三つの高台に本陣を構えるでしょう」
駒をそれぞれの高台に動かした。
「我々はこの位置に馬防柵を敷きます」
「黒鉄鋼でつくった新兵器、重バリスタ砲1000門はここに配置します」
そのとき——
外で鎧のすり合う音や足音が聞こえた。
「団長にお知らせしないといけないことがあります」
外で誰かがザリオに話しかけていた。
「どうした、ザリオ」
アベルトが声を上げる。
「カティア中隊長が急ぎ団長に報告したいことがあると…」
「わかった、通せ」
扉が開く。
「失礼します」
女騎士カティアは息を切らせながら入室した。
そして一礼したあと報告を始めた。
「ラルザス帝国から軍勢7万がムンドール州の国境を越え、セレスティアへ向かっています!」
「!」
一同は言葉を失う。
血の気が失せる。
「報告ご苦労、カティア」
アベルトは労をねぎらった。
「はっ」
カティアは一礼すると退出した。
「モルグレンめっ、帝国と結託していたか!」
アベルトは怒気を露わにした。
ボンノーはしばらく沈黙し思案している。
重い空気が漂う中、ボンノーが口を開いた。
「バーミリオ平原で迎え撃ちましょう」
「今から自分が考えた作戦を述べます」
◆ ◆ ◆
「————です」
ボンノーは説明を終えた。
「確かにそれならば——」
アベルトは深く頷いた。
(・・・)
私は少し震えていた。
「本来であれば自分がやらねばならないことをミサカさんに任せるのは心苦しい」
ボンノーは苦渋の思いを吐露する。
「自分は総帥として全軍の指揮を執らねばなりません」
ボンノーは深く頭を下げた。
「ミサカさん、赤い信号弾が上がった時には————お願いします」
「ボンノーさん頭をあげてください」
「私も扶桑の軍人です。承知しました」
「こんな役目をミサカさんに負わせてしまい申し訳ない」
ボンノーの瞳から涙が流れた。
続く




