第71話 モルグレン公爵
ムンドール州は王都セレスティアから南東約500km。
ラルザス帝国と国境を接するリヴィエラ王国最大の州である。
そのムンドールを治めるのが反国王派の筆頭モルグレン公爵である。
彼の居城ザルツブルクは幾重の堀に張り巡らされた難攻不落の城であった。
王国歴300年8月1日——
ムンドール州ザルツブルク城——
「モルグレン陛下、陛下に与する貴族の方々がザルツブルクに集結中です」
「陛下はよさぬか、ダルモット」
「失礼しました。公爵閣下」
ダルモットは頭を垂れた。
「まぁ、よい」
「して、総勢はどれくらいか?」
「三万は超えております」
「モスド伯爵、マクマル伯爵、多くの軍勢が続々と入城しております」
「そうか」
モルグレンは不敵に笑った。
「なにが国を救っただ!」
モルグレンは吐き捨てた。
「どこの馬の骨か分からぬ奴が王配宰相とはこの国も地に落ちたものよ」
「そして、政治を知らぬ小娘が国遊びをしておる、由々しき事態よ」
「公爵閣下こそが、この国を導ける唯一無二の方でございます」
ダルモットは恭しく言った。
「うむ、わしが王になったらダルモットには報いねばな」
「ありがとうございます、公爵閣下」
「諸侯には迎賓の間へ集まるように通達しておくように」
「畏まりました。公爵閣下」
ダルモットは深く頭を垂れた。
「わしがこの国を統べる。わははははは」
モルグレンの高笑いが城内に大きく響き渡った。
◆ ◆ ◆
ザルツブルク城・迎賓の間——
ザワザワザワ…
反国王派の貴族が集まっていた。
モルグレンは壇上に上がり、周囲を見渡した。
「この度は私の招集に応じてくださり誠にありがとうございます」
モルグレンは深く頭を下げた。
そして頭をゆっくりと上げると、静かに演説を始めた。
「国を憂う皆さんの気持ち、よく分かります」
「リヴィエラは、今、ボンノーという俗物に支配されようとしております」
「俗物が国を救った?——否である!」
モルグレンは語気を強めた。
「国を救ったのはクレア陛下と諸侯らの活躍によるものに他ならない!」
「そうだ、俺たちが国を救ったんだ!」
拍手が巻き起こる。モルグレンは拍手の波が収まるのを待って続けた。
「やつはクレア陛下を篭絡したばかりではなく、リリア教皇も誑し込んでいるではありませんか」
「やつは王と教皇を操り、リヴィエラを支配しようとしておるっ!」
「平民を要職につけるなど言語道断!そのことこそが国を私物化している証ではありませんかっ!」
「そうだ!」「そうだ!」「平民を排除しろ!」
怒号が飛び交う。
静まり返った頃合いを見て、モルグレンは再び口を開いた。
「ボンノーを排除し、クレア陛下を救うことこそ、王国貴族に課せられた尊き使命であると私は思います」
(ボンノーを始末した後、クレアも人知れず葬るけどな)
モルグレンはニヤリと笑った。
「皆さん、立ち上がりましょう。我らのリヴィエラを取り戻そうではありませんか」
「俗物から国を取り戻す」
「そうだ、貴族の我らを蔑ろにする俗物を排除せよ」
一同から歓声が上がる。
「グローリアス、リヴィエラ!」
モルグレンは拳を掲げた。
「グローリアス、リヴィエラ!」「グローリアス、リヴィエラ!」
迎賓の間に連呼の声が大きく轟いた。
やがて場は静まった。モルグレンは落ち着いた口調で話を続けた。
「真の愛国者たる皆さんと共に私は王都へ向かいます」
「我らの正義の行進が向かうだけでボンノーに与する愚者どもは膝を屈することでしょう」
「参りましょう、セレスティアへ——」
「我らも参りますぞ!」
モスド伯爵は剣を掲げた。
「我らこそリヴィエラを救う者です!」
マクマル伯爵も続いた。
ヴォオオオオオー
大歓声が再び上がった。
続く




