第64話 大和、浮揚す
「では、ナターシャ。私が合図したら重力魔法をお願いします」
「あいよ」
「レイナ、ミケケの介護をお願いします」
「わかりました、ミサカ様」
「ヴィヴィはナターシャと艦橋に待機」
「わかったよ」
「カルラ、スマホをもって私について来て!」
「わかったのじゃ」
「ヤマトヒメ、あとはお願いします」
「了解しました。艦長」
私とカルラは艦橋を出て、飛行ドローンのある後部甲板へ向かった。
後部甲板。
扉をあけて甲板に出る。
海風が潮の匂いを運んでくる。水平線まで青い海が続いていた。
私とカルラは飛行ドローンに乗り込み、飛び立った。
そして、大和の左舷にドローンを寄せる。
「カルラ、動画モードで大和を撮影して」
「うちに任せるのじゃ」
カルラは手慣れた手つきでスマホを操作した。
(もうスマホの扱い方は扶桑人と変わらないわね)
ヴィヴィは艦橋からこちらを見つめている。
私は飛行ドローンの窓を空けて、手を二度振った。
合図を見たヴィヴィは振り返るとナターシャに何かを告げていた。
ザブーン、サブーン
大和にぶつかる波の音が静かに聞こえている。
◆ ◆ ◆
グワァーン
大和の軋む音がした。
次の瞬間——
大和はゆっくりと水面から浮上した。
ザーーー
大和のいた空間に海水が入り込む音が聞こえる。
海面から約1メートル。
確かに大和が浮いている。
艦艇後方のスクリューも目視で確認できる。
戦艦が浮くというあり得ない光景が目の前にあった。
「おお、浮いておるのじゃ」
カルラが歓声を上げる。
「分かっていたけど、実際に見ると驚きを隠せないわ」
私は軍帽のつばを手で握った。
風の音だけが聞こえる。
私はその光景をただ眺めていた。
三分後、私は再び合図を送った。
大和はゆっくりと降下を始めた。
ザバーン
大和は元の位置に戻った。
「カルラ、動画はとれた?」
「ばっちりなのじゃ」
撮れたばかりの動画を再生して見せてくれた。
「よし、大和へ戻りましょう」
飛行ドローンは大和後部甲板へ戻った。
◆ ◆ ◆
艦橋。
「あたいの魔力強度だと、これが限界さね」
「流石に空は飛べなかったのさ」
ナターシャは肩をすくめた。
「いえ——」
「ナターシャだからこそ、大和を少し浮揚させることができたのよ」
「普通の魔法使いなら浮揚すらできないと思うわ」
私はナターシャの肩を叩いた。
「ミサカに褒められてしまったのさ」
ナターシャは微笑んだ。
「次は速力と旋回テストを行います」
「カルラは艦橋から動画撮影をお願いします」
「まかせるのじゃ」
カルラは素早く操作して撮影体勢に入る。
「では、ナターシャお願いします」
「やるのさ」
「黒ノ古式・グラビティ!」
ナターシャはグラビティロッドに魔力を注ぎ込む。
大和は再び浮揚する。
「速力微速」
「了解しました。艦長」
ヤマトヒメより凛とした復唱が響く。
宙に浮いた四軸のスクリューが空気を掻き始めた。
「速度0.1ノット」
「進まないね」
ヴィヴィが呟く。
「では、速力半速」
「速度1ノット」
ゆっくりと大和は前に動いた。
「少しだけど、空を移動したのさ」
ナターシャが静かに言った。
「速力第二戦速へ」
「了解しました。艦長」
「速度2ノット」
「速力最大戦速へ」
「了解しました。艦長」
「速度3ノット」
シュー
ほんの少し風切り音が聞こえる。
「人が歩く速度と同じくらいか——」
私はノートパソコンに情報をインプットした。
「次は旋回力を調べます」
「速力第二戦速、面舵一杯」
ヤマトヒメより復唱が返ってくる。
大和は右に少しずつ旋回する。
「目一杯舵を切って、緩やかな旋回ができるくらいか——」
私は手を顎に添えて旋回する様子を眺めた。
「次は速力最大戦速、取り舵一杯」
私は指示をだす。
「今度は左に旋回しているのさ」
「さっきより速いよ」
海面から少し浮いた状態の大和がゆっくりと空を移動していく——
大和浮揚実験は、夕方まで続いた。
◆ ◆ ◆
「必要なデータはとれたわ」
私は艦橋から外を見つめた。
夕陽が主砲を朱色に染め上げている。
「ナターシャ、重力魔法を解除してください」
「わかったのさ」
大和はゆっくりと海面に着水した。
「カルラ、撮影データを送ってください」
「わかったのじゃ」
カルラは素早くスマホを操作して、私のノートパソコンへデータを転送した。
データの受取を確認し、私はノートパソコンを閉じた。
「では、大和浮揚実験を終了します」
私は軍帽を脱いだ。
「皆さん、お疲れ様でした」
ヤマトヒメが微笑んだ。
「夕食は天ぷら料理を用意してあります」
「天ぷら?やったー!あたし天ぷら大好き」
ヴィヴィが喜んだ。
「天ぷら、悪くないのさ」
ナターシャが微笑んだ。
「うちも天ぷら楽しみなのじゃ」
「じゃあ、夕食にしましょう」
私は微笑みながら言った。
そして、一同は艦橋を後にした。
続く




