第6話 王国騎士団
王国歴300年2月20日——
トントントンッ カンカンカンカンッ
領地では工事が進んでいた。
ボンノー宰相が派遣してくれた技官たちが指示を飛ばす。
ミサカ組や貧民街から雇った労働者たちが、汗を流しながら働いている。
私はその様子を眺めながら、馬車で王都へ向かった。
◆ ◆ ◆
王都セレスティア。
王国騎士団本部が見えてきた。
青銀の旗がはためいている。
門番が敬礼する。
「ミサカ子爵様ですね。お待ちしておりました」
「ありがとう」
門をくぐり、中庭で馬車を降りる。
遠くから訓練の声が聞こえてくる。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
活気がある。
「ミサカ卿」
声がかかる。
振り返ると——
アベルトが立っていた。
王国騎士団長だ。
「お待ちしておりました。練兵所へご案内します」
「よろしくお願いします、アベルト卿」
私たちは並んで歩き始めた。
◆ ◆ ◆
石畳の通路。
アベルトが低い声で話し始める。
「今は平和ですが——」
彼の表情が険しくなる。
「反国王派の首魁モルグレン公爵がラルザスと通じているとの噂もあり……」
「……」
私は黙って聞く。
「有事に備えて、訓練は怠れません」
「わかりました」
アベルトが私を見た。
「宰相よりミサカ卿のことは聞いております」
「剣の腕は相当なものだと」
「……そんなことは」
私は謙遜する。
「是非とも団員たちに扶桑の剣術を見せていただきたい」
「わかりました」
私は頷いた。
◆ ◆ ◆
練兵所。
広い訓練場だ。
百人以上の騎士たちが訓練をしている。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
剣を振る音。
槍を突く音。
盾を構える音。
私たちが入ると——
訓練が止まった。
騎士たちの視線が、一斉にこちらを向く。
「噂の子爵様だ」
「古代竜を倒したって本当か?」
「あのプリティームーンのリーダーらしいぞ」
ざわざわと囁き声が広がる。
アベルトが一歩前に出た。
「整列!」
騎士たちが一斉に並ぶ。
「これより模範試合形式でミサカ卿が稽古をつけてくれる」
どよめきが起こる。
「みなも扶桑の剣術を見る良い機会だ」
アベルトが私を見る。
「胸を借りるつもりで模擬戦に臨め」
「はっ!」
騎士たちが声を揃えた。
アベルトが木剣を手渡してくれる。
「では、ミサカ卿お願いします」
「承知しました」
私は木剣を受け取った。
「わたしが審判をする。では、キーロフ前に」
「はっ!」
一人の若い騎士が進み出た。
茶色の髪に、緊張した顔。
新米だろう。
「よろしくお願いします!」
キーロフが声を張り上げる。
「こちらこそ」
私は微笑んだ。
両者、木剣を構える。
アベルトが手を上げる。
「——はじめ!」
◆ ◆ ◆
カン、カン、カン。
三合ほど打ち合う。
(踏み込みが甘いわね)
私は冷静に観察する。
(隙も多い)
四合目——
キーロフが上段から打ち込んでくる。
私は半歩だけ横に移動。
打ち込みを躱し——
すっと、相手の首筋に木剣を置いた。
「……っ!」
キーロフが固まる。
「それまで。勝者、ミサカ卿」
アベルトの声が響く。
どよめきが走った。
「速い……!」
「全然見えなかった」
「これが実戦経験の差か……」
騎士たちが騒ぐ。
キーロフが頭を下げる。
「ありがとうございました!」
「お疲れ様」
私は微笑んで答えた。
◆ ◆ ◆
新米騎士たちが次々と挑戦してくる。
だが——
いずれも三合から五合で片がつく。
踏み込みを交わして首筋。
フェイントで崩して胴。
正面から受け止めて押し込む。
騎士たちの驚きが、どんどん大きくなっていく。
「マジか……」
「全員、瞬殺だ」
「人間じゃねーよ、あれ……」
私は内心で呟く。
(私は人間です)
アベルトが進み出た。
「流石はミサカ卿」
そして——
「では次、ザリオ」
「はっ!」
ザリオ・フォン・アイヒェンブルク。
旧「灰銀の牙」のリーダーで、今は王国騎士団の小隊長だ。
鼻につくイケメン——とヴィヴィは言っていた。
確かに、整った顔立ちだ。
「よろしくお願いします、ミサカ卿」
「こちらこそ、ザリオさん」
両者、木剣を構える。
アベルトが手を上げる。
「——はじめ!」
◆ ◆ ◆
カン、カン、カン。
三合ほど打ち合う。
(基礎はしっかりしているわね)
(今は隙がない)
ザリオの構えに無駄がない。
新米騎士たちとは、明らかに格が違う。
(では、これならどうかしら)
私は動いた。
右側へ打ち込むフェイント。
ザリオが反応する。
——その瞬間、左へ打ち込む。
カン!
ぎりぎりで受け止められた。
「……っ!」
ザリオの体勢が崩れる。
さらに左と右へフェイントを入れる。
ザリオが必死に受ける。
——そして、右へ打ち込む。
スパンッ!
胴に入った。
「それまで。勝者、ミサカ卿」
ザリオが膝をつく。
「完敗です……」
悔しそうだが、清々しい表情だ。
騎士たちがざわめく。
「ザリオさんが……!」
「小隊長も負けたのか——」
私はザリオに手を差し伸べた。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
ザリオが手を取る。
そして——
アベルトが進み出た。
「流石はお強い」
彼が木剣を構える。
「次は私の相手をしてもらえますか」
「!」
どよめきが走る。
騎士たちが息を呑む。
(王国最強の男との一騎打ち……!)
胸が高鳴る。
「カティア、審判を頼む」
「はっ!」
女性騎士が進み出る。
カティア——王国騎士団中隊長だ。
両者、木剣を構える。
訓練場が、静まり返った。
カティアが手を上げる。
「——はじめ!」
◆ ◆ ◆
カン、カン、カン!
三合ほど打ち合う。
重い。
アベルトの一撃一撃が、ずっしりと響く。
(まったく隙が無いわね)
私は冷静に観察する。
(そして、一撃が重い)
正面からぶつかっても、押し負ける。
一旦距離をとる。
ダッシュ。
右に打ち込むと見せかけて——左!
カン!
受け止められた。
(なんて反応速度……!)
次の瞬間——
アベルトの反撃が左わき腹に迫る。
受ける。
両手で持っているのに、吹き飛ばされそうになる。
私は後ろに回転しながら勢いを殺した。
着地。
(攻撃を受けていたらジリ貧だわ)
私は決断する。
(ならば——これしかない!)
アベルトの周りを駆け回る。
左、右、左、右——
そして、ダッシュ。
「二天流剣術——」
私は木剣を構え直す。
「隼!」
一閃!
アベルトが受け止める。
二閃!
再び受け止められる。
三閃!
「——ッ!」
アベルトがかわした。
私の背後に回り込んでいる。
首筋に、木剣の感触。
「……私の負けです」
カティアの声が響く。
「勝者、アベルト団長!」
◆ ◆ ◆
歓声が上がった。
「流石は団長!」
「王国最強だ!」
騎士たちが興奮している。
アベルトが木剣を下ろす。
「勝ったのは私でしたが——」
彼が微笑む。
「魔法で加速していたなら、勝ったのはミサカ卿です」
「お手合わせありがとうございます」
私は首を横に振った。
「いえ、純粋な剣技ではアベルト卿が上です」
「勉強になりました」
両者、握手。
騎士たちから大きな拍手が起こった。
◆ ◆ ◆
その後——
騎士たちと食堂で食事をしながら歓談した。
騎士たちとの言葉のやり取りが心地よい。
しばらくすると
アベルトが近づいてくる。
「ミサカ卿」
「はい」
「今日は本当にありがとうございました」
彼が真剣な表情で言う。
「いざというときは——」
「よろしくお願いします」
アベルトは頭を下げた。
私は頷いた。
「もちろんです」
「私も、この国を守ります」
アベルトが微笑む。
「心強い」
「ありがとうございます、ミサカ卿」
静寂。
そして——
私は王国騎士団本部を後にした。
領地に戻る道すがら、私は、胸に手を当てた。
この国を、必ず守ります。
決意を、新たに——
続く




