第53話 ロス、カット
「ミサカとか言ったな。気に入った」
ゲーフボウイの大口が開く。腐臭が辺り一面を覆い尽くす。
「臭いのじゃ」
カルラは鼻をつまんだ。
「人を不快にさせる臭いさね」
ナターシャは顔を顰める。
タコ足をウネウネさせながら低い声で言葉を吐いた。
「喰う前にたっぷり嬲ってやろう」
ニュバ、ニュバ、ニュババァァ
10本の触手が私に向かってきた。
「黒ノ五式・エア」
私は風魔法で加速すると迫りくる触手を回避し斬った。
「すべて斬り伏せるっ!」
ズバッ
返す刀でさらに斬る。
ズバッ
迫りくる触手を跳躍してかわすと上から切り裂いた。まとめて5本を切り伏せた。
ズシャァァ
地に落ちた触手がビチビチと跳ねる。
ゲーフボウイは慌てて触手を引き下げる。
「俺のロス(足)をカットしただと?」
「ありえぬ、その剣は何だ!」
ゲーフボウイの低い声が響く。
「なんなのかしら?」
私はゲーフボウイをみて不敵に笑った。
「この、あまぁーーー!」
ゲーフボウイは怒りの咆哮。触手が震え動く。
30本の触手が迫ってきた。
「黒ノ三式・エア」
私はさらに加速した。
ズバッ、ズバッ、ズバッズバッ、ズシャーッ
躱して斬る、ひたすら斬る。
すべての触手を斬り伏せた。
「ぐぇぇぇぇぇぇ」
「俺のカターイ、カターイロス(足)をカットされたー」
ゲーフボウイの絶叫が響き渡る。
「流石はミサカさま」
レイナは感心している。
「油断禁物にゃ」
ミケケは警戒を緩めていない。
「ヴィヴィ」
ナターシャはヴィヴィの背中を叩く。
「分かっているよ、姐さん」
ヴィヴィは前に立ち盾を構え直した。
◆ ◆ ◆
間合いを取り合っている。
数分経過——
水滴が一滴落ちた。
ポチャン
「まずは、お前の仲間を食らってやるわ!」
半数の触手が私に、半数がヴィヴィ達に向かっていく。
「ヴィヴィ!」
私は叫ぶ。
「よし、きなよ」
ヴィヴィは盾を掲げた。
「ディバインシールド!」
ヴィヴィは権能を発動させた。
蒼きオーラが半球状でヴィヴィ達を囲む。
ズバッ、スバッ、ズババッ
私はひとつずつ触手を処理していく。
ヴィヴィ達に向かった触手はディバインシールドに激突した。
ガン、ガンガンガン
触手が蒼き障壁を破壊しようとするも蒼き障壁は決して砕けることはない!
「ミサカさん」
ヴィヴィが叫ぶ。
「分かった」
私は後ろへ引き下がった。
「いくよぉ」
ヴィヴィは盾を強く押し出した。
「砕鳴衝波!!」
ズギォォォォォォォォンッ!!
蒼い衝撃波が放射状に広がる。
「ぐわぁぁぁ」
ゲーフボウイが触手もろとも吹き飛ばされる。
奥の祭壇も跡形もなく破壊された。
「よくやったわ、ヴィヴィ」
「あとは私がやります」
私は駆け出しゲーフボウイに近接した。
そして、祭壇に叩きつけられたゲーフボウイの触手を斬り続けた。
「ロス(足)、カットしないでくれーーー」
ゲーフボウイが悲鳴を上げる。
◆ ◆ ◆
触手は最後の一本になった。
「漢のロスをカットしないで」
ゲーフボウイは弱弱しい声で懇願する。
「漢のロス?」
私は最後の触手を見つめた。どうやら他の触手とは違うようだ。
私はゲーフボウイを見つめて優しく言った。
「ゲーフボウイさん、私を嬲って喰べるんじゃなかったかしら?」
「そんなことは言っていません。ミサカさま」
私は考えるふりをした。
「わかったわ、許してあげます」
私は微笑んだ。
ゲーフボウイに安堵の表情が広がった。
「ところで、ゲーフボウイさんは今まで何人の人間を食べましたか?」
「10万人から先は数えていないです。ミサカさま」
「そう」
私は声は低くなる。
そして、最後の触手に草薙の剣を向けた——
「ぇ?ミサカさま」
「漢のロス、カットしない?」
「あなたに代わって私が損切をしてあげます」
「あなたをこの世界からね」
ズバッ
私は漢のロスを斬った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア」
「1000年生きたこの俺が人間の雌ごときに討たれるとは」
「ちくしょー」
断末魔の言葉を残すとゲーフボウイは黒い瘴気とともに消えていった。
島を覆っていた瘴気が飛散していく。
続く




