第37話 領主の仕事V
王国歴300年5月25日——
十二日後。
外堀が完成した。
「ナターシャ、板橋を置いて」
「わかったのさ、ミサカ」
ナターシャはグラビティロッドで重力を操作して板橋を置いた。
「ガロン、杭を打って」
「姐さん、了解です!」
「野郎ども、四方に杭を打ち込むぞ!」
「アニキ、わかりやした!」
ドカンッ ドカンッ
板橋を固定するべく杭を打ち込む。
両端の杭と杭にロープを張り巡らせる。
すべての工程が完了した。
静寂。
私は声を上げた。
「皆さんのおかげで完成させることができました」
「ありがとうございます!」
そして、微笑み手を振る。
歓声があがった。拍手が響き合う。
「ミサカ、最後の土砂をアルテ村に持っていく」
「あとでミサカにも来てほしいのさ」
「分かったわ。ナターシャ」
そういうとナターシャは土砂とともにアルテ村へ向かっていった。
◆ ◆ ◆
アルテ村。
私は飛行ドローンでアルテ村へ到着した。
急ぎ聖河アレムの方向へ向かう。
そこには、まことに見事な扶桑式堤防<シンゲン>が作られていた。
最後の堤防をヴィヴィとアルテ村の人々が土固めを行っていた。
「ヴィヴィ」
「ミサカさん、来てくれたんだね」
ヴィヴィが手を振る。そして、また作業に戻った。
仕事を終えたナターシャが駆け寄ってきた。
「あたいらの仕事はどうだい? ミサカ」
「想像以上の出来よ!」
「ほんとに素晴らしいわ!」
「ありがとう、ヴィヴィ、ナターシャ」
私はお辞儀をする。
ガンド村長がゆっくりとこちらへやってきた。
「領主様——」
ガンドは深く頭を下げた。
「ありがとうじゃ」
ガンドは頭を上げる。
「こんなにも早く堤防を作ってくれるとは思わなんだ」
「そして、こんな堤防の形は見たことがないのじゃ」
「領主様、一つ質問じゃがどうして隙間が空いておるのじゃ」
「あたいも気になっていた、堤防ならすべてを閉ざすべきなのにさ」
「あたしも不思議だったんだ」
みんなの視線が私に集中する。
「わざと開けています」
「わざとじゃと?」
一同は驚く。
「洪水は完全には防げません」
「だから——防ぐより、受け流すのです」
「受け流すじゃと?」
ガンドは首を傾げる。
「あえて逆流させ、水の勢いを弱くする」
「そうすれば、作物を守れる可能性が上がります」
「確かに」
ガンドが頷いた。
「一気に押し流されたら、すべてがダメになる」
「じゃが、ゆっくりなら——」
「はい。被害は少しですみます」
ナターシャがニヤリと笑った。
「受け流すか——」
「なんとなくだけどさ、扶桑らしいと思うのさ」
「あたしも重撃は盾で受け流すよ」
「それと同じじゃないかな?」
ヴィヴィは指で堤防の角度を指差した。
「それなのさ!」
「流石はあたいの妹なのさ」
ナターシャはヴィヴィの頭をやさしく撫でた。
「柔よく剛を制す」
「扶桑の言葉です」
私は静かに語った。
「その言葉はまさに扶桑なのさ」
風が吹く。
ザワァァァ、ザワワァァ
小麦の穂が揺れた。
しばらくすると——
アルテ村の人々が集まってきた。
「領主様、ありがとうございます!」
「これで安心して暮らせます!」
歓声が上がる。
ガンドが村人たちに向き直った。
「皆の衆、領主様に感謝するのじゃ!」
村人たちが一斉に頭を下げる。
「皆さん、頭を上げて下さい」
「この堤防は皆さんでつくったものです」
「私は皆さんの暮らしを守ることが私の仕事です」
「困ったことがあれば、なんでも相談してください」
「これからも、よろしくお願いします」
私は軽く会釈をして手を振った。
「ミサカさま、かっこいい」
「ミサカさまが領主になってくれてよかっただ」
村人たちの笑顔と喜びの声。
温かい気持ちが、胸に広がった。
◆ ◆ ◆
領主館。
私は領主館に戻り報告書を読んでいた。
隣でムサシヒメは書類を整理している。
トントンッ
「どうぞ」
ミケケが入ってきた。
「報告書にゃ、労働者たちに払った金額にゃ」
ドンッ
「吾輩は風呂入って飯食って寝るにゃ~」
そう言うとミケケは報告書の束をおき去っていった。
トントンッ
「どうぞ」
レイナとファムが入ってきた。
「ミサカさま、あの——、これをどうぞ」
レイナはティーカップに入った紅茶を用意してくれた。
「ありがとうレイナ」
(いい香りがするわね)
「私の家に伝わる紅茶なんです」
「どうでしょうか?」
私は一口飲んでみる。
「!」
「ほんのり甘くて心が落ちつく感じがするわ」
「本当ですか、よかったぁ」
「レイナはミサカに紅茶を飲んでほしくて機会を伺っていたの」
ファムは私とレイナを回りをふわふわ飛んでいる。
「ファム!」
レイナは顔を赤くする。
「レイナ、ムサシヒメに渡すのを忘れているの」
「はっ、そうでした!失礼しました」
「ムサシヒメさま、こちらをどうぞ」
レイナは紅茶をムサシヒメに差し出した。
「ありがとう、レイナさん」
レイナは少し照れたように私を見つめた。
「お仕事、頑張ってください」
そして、静かに部屋を出て行った。
静寂。
カリカリ、カリカリ。
私とムサシヒメがペンを走らせる音だけが響く。
(今日はここまでかしら)
「ムサシヒメ、今日はここまでにします」
「お疲れ様でした。ミサカさん」
「僕はもう少しやってから終わりにします」
「そ、そう。無理はしないでね」
「はい、ミサカさん」
月が登り、月光が辺りを照らしている。
私は領主館を出て、周りを見渡した。
領主館の周りは、まだ何もない。
ただ草原が広がっているだけだ。
内壁の向こうに内堀と外堀。
備えだけは万全。
私は苦笑いをして、転移陣へ向かった。
続く
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