第28話 王都の日常IV
私達は馴染みの店、モクロ商会の近くまで来ていた。
「ムサシヒメ、カルラと手を繋いで少しここで待っていてください」
ムサシヒメは察したように言う。
「はい、モクロ商会に行かれるのですね。分かりました」
「カルラさん」
ムサシヒメは、カルラの手を優しく掴む。
「お姉さま、うちは良い子にしておるのじゃ」
「だから、はやく返って来てほしいのじゃ」
カルラは少し寂しそうな目をして私を見る。
「分かったわ。すぐ戻る」
私はカルラの頭を撫でた。
「えへへ」
カルラは喜んだ。
そしてー
カルラとムサシヒメを大通りに待たせて、私は路地裏にあるモクロ商会へ向かった。
◆ ◆ ◆
モクロ商会。
古びた鉄の扉を開けて入る。
店内はいつも薄暗い。
だが、品ぞろえはセレスティア一だ。
ダンディな店主モクロが私に気づくと声をかけてきた。
「これは、ミサカさま」
「本日はどのようなご用件でしょう?」
私は少し苦笑いをする。
「特に用件はありませんが……」
「たまたま近くを通りかかりましたので、ついー」
モクロは軽快にこたえる。
「そうでしたか、ミサカさまにお立ち寄りしていただけるだけでも光栄です」
私は質問する。
「なにか目新しい素材はありますか?」
「ございますとも。ミサカさま」
「少々お待ちください」
そう言うとモクロは奥から二つの品を持ってきた。
「珍しい乾燥白珊瑚です」
「もう一品は、白い塊です」
「この白い塊は崩れやすい石というだけで何の価値もありませんが……」
私は即答する。
「買います!」
(今は、少しでも素材が欲しいわ)
モクロは頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「白珊瑚は金貨1枚、白い塊は銅貨1枚です」
私は会計を済ませて店を出た。
「ミサカさま、またのお越しをお待ちしております」
◆ ◆ ◆
午後2時半。
「お待たせ」
私は二人に呼びかけた。
「お帰りなさい、ミサカさん」
「お帰りなのじゃ」
外に出て大通りのムサシヒメとカルラに合流する。
そして、再び王城へ向かって大通りを歩く。
すると、ムサシヒメが立ち止まり反対側の店舗を見つめている。
カルラはムサシヒメを見て、首を傾げる。
「どうしたのじゃ、ムサシヒメ」
「なんでもありません、カルラさん」
ムサシヒメは素っ気なく答える。
私は気づく。
クレープ屋だ。
私は提案する。
「あの店でクレープを食べましょう」
「みんなにもお土産を買いたいわ」
カルラは喜ぶ。
「やったのじゃ!」
ムサシヒメは微笑む。
「ありがとうございます、ミサカさん」
「ムサシヒメ、欲しいものがあったら遠慮なく私に言ってね」
「わかりました、ミサカさん」
私はムサシヒメの頭を優しく撫でた。
私達三人の分とお土産四人の分を注文する。
「ここに座りましょう」
私はベンチを指さした。
二人が私を挟んで座った。
噴水の音が心地よく聞こえる。
「美味しいです」
「うまいのじゃ」
私も頷く。
確かに美味しい。このストロベリーソースがたまらない。
しばらくするとカルラはムサシヒメのクレープを眺めて言った。
「ムサシヒメのクレープも美味しそうなのじゃ」
「少し分けて欲しいのじゃ」
ムサシヒメは一瞬躊躇したものの応じる。
「僕のでよければいいですよ、カルラさん」
そしてカルラにクレープを差し出そうとした。
私はそれを制するように言った。
「こらカルラ、それはムサシヒメのものです」
「カルラはもう食べたでしょ?」
「わかったのじゃ」
カルラは少し俯く。
私はカルラの手を取り、私のクレープを握らせた。
「カルラには私の物を差し上げます」
カルラの角がピコピコ動く。
「ありがとうなのじゃ、お姉さま」
カルラは美味しそうに私のクレープを食べる。
ムサシヒメは少し安堵したかのようにクレープを食べ始めた。
私はムサシヒメをみて微笑む。
ムサシヒメは私を見て少し顔が赤くなった。
ムサシヒメは一度魂を召喚され、扶桑歴2025年に再び生を受けた。
戦艦武蔵の艦霊であり戦女神。
しっかりしているようでまだ六歳なのよ。
本当はまだ甘えたい年頃なのだわ。
私はムサシヒメの手を優しく握った。
私はふと思う。
扶桑海軍にいたころの私。
そして今の私。
昼下がりの午後、仲間たちとクレープを食べる日常。
私は今幸せだ。
◆ ◆ ◆
食べ終わると私たちは王城に帰ってきた。
馬車に乗り込むとティティを迎えに行く。
聖レファリア女学院前。
送り迎えの馬車が行き交う。
しばらくするとティティが数人の友達と一緒に出てきた。
私は馬車を降りティティのところへ駆け寄る。
「ティティ、迎えに来たよ」
「ありがとう、ミサカさん」
ティティは友達に手を振り挨拶する。
「また明日ね」
私はティティの手をとり馬車へ戻る。
そして、馬車は王都を発ち武蔵御殿に向かう。
春の陽光が優しく馬車を包む。
色とりどりの花が街道の両脇に咲いている。
コトコトコト
馬車は進む。
続く
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