第25話 王都の日常
王国歴300年4月15日——
王都セレスティアへと向かう馬車が、街道を進んでいた。
車内には、ヤマトヒメ、ムサシヒメ、ティティ、カルラが同乗している。
窓の外に広がる草原を眺めながら、ヤマトヒメが口を開いた。
「今日からウェスタル鉱山で黒鉄鉱の採掘が始まるみたいですよ」
私は頷く。
「それは、よかったわ」
「流石はボンノーさん、手回しが早いわね」
あの報告からわずか一週間。さすがの手腕だ。
ムサシヒメが思い出したように言った。
「そういえば」
「今日はミサカさんの物件探しの日だね」
「僕も付き合うよ」
私は微笑む。
「ありがとう、ムサシヒメ」
カルラが首を傾げた。
「物件を探してどうするのじゃ?」
「お店をだしたいのよ」
ティティが興味深そうに私を見つめる。
「どんなお店をだすの?」
「とりあえず、ポーションのお店かな」
ティティの表情が明るくなる。
「困っている人をいっぱい助けてね」
私は頷いた。
「うん。いっぱい助ける」
ティティが小指を立てた。
「じゃあ、ティティと指切りして」
「わかった」
私とティティは小指を絡ませる。
指切りを終えたティティは満足そうに微笑んだ。
◆ ◆ ◆
やがて、馬車は王都の大門をくぐった。
石畳の道が続く。両脇には立派な建物が並んでいる。
馬車は聖レファリア女学院に向かう。
レンガ造りの校舎が見えてくる。
そこでティティを降ろす。
少女が駆け寄ってきた。蜂蜜色の髪を揺らしながら。
「ティティちゃん、おはよう!」
ティティは少女へ挨拶を返す。
「エルナちゃん、おはよう!」
そして、ふたりは仲良く校舎へ入っていく。
馬車が再び走り出す。
馬車は王城を目指して進む。
◆ ◆ ◆
王城。
馬小屋に馬車をおいて全員が下りる。
ヤマトヒメが一礼した。
「では、私は仕事へ参ります」
ヤマトヒメは城内へ向かっていった。
私とムサシヒメとカルラは軽く挨拶周りをしたあと——
王城を出て街中に向かう。
◆ ◆ ◆
午前10時。
大聖堂より鐘がなる。
ゴォーン、ゴォーン……
その音色が王都全体に響き渡る。
店が開き始め——
町が活気づいていく。
商人の声、職人の槌音、人々の笑い声。
大通りを歩いていると町の人が私に気づいた。
「あれは、ミサカさま」
「プリティームーンのリーダーだわ」
「ドルラーガを討っただけでなくウェスタルのスタンピードも鎮めたらしいぞ」
「ミサカさま、きれい」
「ミサカさま、かっこいい」
私は微笑み、手を振る。
「きゃあああ」
「ミサカさま」
黄色い声援が聞こえる。
「ミサカさん、有名になっちゃったね」
ムサシヒメが微笑む。
私はすっかり有名人だ。
少し照れくさい。
◆ ◆ ◆
そうこうしていると——
肉肉しい匂いが漂ってくる。
カルラの鼻がひくひくと動いた。
「いい匂いなのじゃ」
ふらふらと匂いのもとへ歩き始めた。
私は慌てた。
「ちょっと、カルラ」
私たちはカルラを追いかける。
◆ ◆ ◆
串焼きの屋台だ。
甘いタレをつけたジュシーボアのくし焼きが網の上で炭火に焼かれていた。
ジュゥゥゥゥゥゥゥ
肉肉しい香りが鼻をくすぐる。
カルラが屋台の前で立ち止まった。
「美味しそうなのじゃ」
カルラは涎を垂らしている。
中年の男が笑顔で迎えた。
「らっしゃい」
「うちの串焼きはセレスティア一だよ」
男が私に気づく。
「これは、ミサカさま」
男は軽く会釈をする。
カルラが私の手を引っ張った。
「お姉さまぁ」
カルラはうるうるした目で私を見つめる。
私は溜息をついた。
「しかたないわね」
私は串焼きを三本注文した。
男が手慣れた様子で串を取る。
「あいよ」
私はカルラとムサシヒメに一本ずつ与えた。
カルラが嬉しそうに受け取る。
「ありがとうなのじゃ」
ムサシヒメも礼を言う。
「ミサカさん、ありがとう」
◆ ◆ ◆
一口食べる。
肉汁が口の中で弾けた。
「!」
この柔らかい肉。絶妙な甘ダレ。
思わず声が出る。
「美味しい!」
男が嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、ミサカさま」
男は愛想よく笑った。
カルラがもう串を食べ終えていた。早い。
「もっと食べたいのじゃ」
カルラは私に催促する。
私は苦笑した。
「今日だけですよ。カルラ」
(私はカルラに甘いなぁ)
カルラが嬉しそうに角を揺らす。
「わかったのじゃ」
私はカルラのために2本追加で注文した。
カルラは両手に串をつかんで満足そう。
男が手を振る。
「また、お越しください。ミサカさま」
◆ ◆ ◆
私たちは屋台をはなれた。
中央通りを進む。
やがて、目的の場所が見えてきた。
「ポートア不動産」と書かれた看板。
そして、私は中央通りにある不動産屋に足を踏み入れた。
カランカラン——
扉のベルが鳴る。
「お邪魔します」
続く。




