第24話 グラビティロッド
王国歴300年4月7日——
私は宰相執務室での報告を終えた。
すぐに黒鉄鉱の採掘にとりかかるとのこと。
そして——
報酬として金貨二千枚を拝領。
私の所領があるローレシア群全域、隣接するリーフシア群とシンシア群の三群について王領代官に任命された。
5月より三群の内政を担うことになる。
◆ ◆ ◆
武蔵御殿。
会議室。
「——というわけです」
私はみんなに報告した。
ナターシャが目を見開く。
「王領代官とは言え」
「三群ってすごいじゃないのさ」
「小国規模なのさ」
「やっぱりミサカは、恐ろしい子なのさ」
私は首を振った。
「恐ろしくはありません」
「私は普通の女の子です」
ミケケが尻尾を揺らす。
「ミサカは領地経営もしないといけないにゃ」
私は深く息を吐いた。
「内政なんてゲームの中でしかやったことないわ」
カルラが胸を張る。
「お姉さまなら大丈夫なのじゃ」
「うちも手伝うのじゃ」
ナターシャが微笑む。
「宰相様が何とかしてくれる」
「なんとかなるのさ」
私は頷いた。
「そうよね」
ナターシャが立ち上がる。
「ところで、明日は軽くピクニックでもどうだい?」
「みんなに見せたいものがあるのさ」
私は窓の外を見た。
神域たる地底湖には……
扶桑の桜が咲いている。
棚田には稲が植えられている。
春の訪れ。
「ピクニックいいわね」
「お花見の季節だし」
ヴィヴィが手を叩く。
「ピクニック行きたいよ!」
カルラが飛び跳ねる。
「うちも行きたいのじゃ!」
ミケケが頷く。
「たまには息抜きも必要にゃ」
ナターシャが手を叩く。
「じゃあ、決まりなのさ」
◆ ◆ ◆
王国歴300年4月8日——
午前10時。
支度を終えた一同は転移陣より外に出る。
ナターシャはエルフの村で頂いたホウキの杖を握っていた。
トントントン、カンカンカンカン
建設の音が響く。
ガロンが現場監督をしている。
なかなか様になっているじゃない。
領主館は5月には完成しそうね。
領主館の隣にある木造の建物は倉庫かしら?
私は作業員に軽く会釈した。
ガロンを筆頭にミサカ組の全員が深々と頭を下げる。
「いってらっしゃいませ、姐さん」
私はぎこちなく微笑んだ。
「ええ。ありがとう」
(私、なにか勘違いされているような……?)
そして、私たちは近くの草原へ徒歩でピクニックに出かけた。
◆ ◆ ◆
近くの草原。
色とりどりの花々が咲いている。
綺麗。
少し離れたところには大きな石があった。
私はござを敷いてお弁当やお茶を用意した。
ナターシャはお酒を用意している。
ナターシャがホウキを掲げた。
「あたいが飲む前にこのホウキの性能を見て欲しいのさ」
ヴィヴィが首を傾げる。
「それ、エルフの村でもらったやつだよね」
ナターシャが頷く。
「そうなのさ」
「あたいはこのホウキについてずっと調べていたのさ」
「そして、分かったのさ」
「このホウキは"グラビティロッド"というのさ」
私は目を見開いた。
「グラビティロッド?」
ミケケが飛び上がる。
「! それは古代に失われた伝説の杖にゃ!」
「重力を操作できる唯一無二の杖なのにゃ!」
尻尾がブルブルと震えている。
「はやく、使って見せるにゃ!」
ナターシャが笑った。
「分かったのさ」
ナターシャはホウキにまたがる。
そして小声で詠唱した。
「黒ノ古式・グラビティ」
なんと!!
ホウキに乗ったナターシャが浮いている。
「!」
私は息を呑む。
「浮いている」
カルラが目を輝かせる。
「ナターシャも空を飛べたのじゃ!」
ヴィヴィがナターシャを見上げる。
「姐さん、すごいよ!」
ミケケが嬉しそうに言う。
「にゃ~ あの杖は本物にゃ」
ナターシャが笑う。
「これに風魔法を使うと」
「こうなるのさ」
ナターシャがホウキに乗って飛翔した。
空を自由に駆ける。
草原の上を旋回する。
「どうだい、空を飛べるのさ!」
しばらくするとナターシャが戻ってくる。
着地。
ナターシャがカルラを見た。
「重力制御、カルラも無意識のうちにやっているのさ」
カルラが首を傾げる。
「うちが?」
ナターシャが頷く。
「証明するのさ」
「ミサカ、カルラを抱き上げてみるのさ」
「カルラ、抱き上げられたら、ほっぺにキスするといいのさ」
ナターシャはカルラにウインクする。
カルラが私に駆け寄ってくる。
「わかったのじゃ!」
私はカルラを抱き上げた。
カルラが頬にキスをしてくる。
チュッ。
私は顔が赤くなる。
(キスはなにを証明するものかしら?)
ナターシャが笑う。
「ミサカ、カルラは重いかい?」
私は首を振った。
「重くはないけど、それがどうかしたの?」
ナターシャが私とカルラを見て微笑む。
「じゃあ、竜化したカルラはどうなのさ?」
私は考える。
「とても重そうだわ」
(二万トンくらいありそう)
ナターシャが手を叩く。
「そういうことなのさ、カルラは無意識のうちに重力制御をしているのさ」
私は納得した。
「なるほど」
「重力魔法が存在するのは分かったわ」
「でも、キスはどうなのよ」
ナターシャが目線を逸らす。
「……」
「感情の変化が重力に影響を与えるか確認してみたのさ」
とうそぶく。
私は溜息を吐いた。
「もう、ナターシャ」
ナターシャが肩をすくめる。
「落ち着くのさ、ミサカ」
「グラビティロッドは自分だけではなく、別の物も制御できるのさ」
「あそこの大石を浮かせてみせるのさ」
ナターシャは杖を大石に向ける。
「黒ノ古式・グラビティ」
杖が少し煌めく。
すると——
ゴゴゴゴゴ……
大石が地面から浮き上がった。
高さ三メートル。
「!」
一同が驚く。
ヴィヴィが声を上げる。
「すごいよ、姐さん」
ミケケが呟く。
「あんな重いのが浮いているにゃ……」
カルラが飛び跳ねる。
「どうなっておるのじゃ!」
ナターシャが杖を振る。
大石がゆっくりと地面に降りる。
ドスン。
「重さによって必要な魔力は比例するようなのさ」
ナターシャは杖を下した。
「グラビティロッドの紹介は終わり」
「さ、今日は飲むのさ」
「ミサカも付き合うのさ」
ナターシャはワインの栓を抜いて飲み始めた。
◆ ◆ ◆
みんなござの上に座り、飲んで食べて語らっている。
春の陽光。
花の香り。
仲間たちの笑顔。
(いいなぁ、この時間)
内政や戦いのことは——
今は忘れよう。
こういう日常が、本当は一番大切なのかもしれない。
昼下がり、楽しいピクニックが続いていた。
続く。




