第23話 ウェスタル鉱山VII
王国歴300年4月6日——
朝。
武蔵御殿、後部甲板。
「皆さん、頑張ってください」
ムサシヒメが見送ってくれる。
「姉ちゃん、頑張ってー!」
ティティが手を振った。
「行ってきます」
私たちは頷く。
飛行ドローンが浮上した。
ウェスタル鉱山へ——
最後の戦いが始まる。
◆ ◆ ◆
ウェスタル鉱山。
第一層、第二層を抜けて第三層へ
第三層の大広間には、トロール2匹、オーガ4匹が徘徊していた。
私はそれをすべて切り伏せ、第四層の大空洞まで到着した。
第四層——
大空洞の入口。
私は一同を見渡した。
「作戦は朝伝えた通りです」
全員が頷く。
深呼吸。
「では——参りましょう」
私たちは大空洞へ足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
内臓色の塊が——
広範囲にこびりついている。
ドクン……ドクン……
鼓動が響く。
塊は——何の反応も示さない。
ただ、産み続けている。
「やはり、なんの反応もしないにゃ」
ミケケが呟く。
「まあ、そのほうがありがたいのさ」
ナターシャが杖を構えた。
「では、カルラ」
私は振り返る。
「お願いします」
「任せるのじゃ、お姉さま!」
カルラが胸を張る。
「頑張って、カルラ」
ヴィヴィが微笑んだ。
「うちの活躍を見ておるのじゃ!」
カルラが——変化し始めた。
◆ ◆ ◆
体が膨張する。
赤い鱗が全身を覆う。
翼が広がる。
角が伸びる。
三十秒後——
巨大な赤竜が、そこにいた。
体長二十メートル。
古代竜。
圧倒的な存在感。
「カルラ……やっぱり大きいねぇ……」
ヴィヴィが見上げる。
「では、カルラお願いします」
私は号令した。
「カルラの周りに半円形で陣形を組みます!」
「了解!」
全員が配置につく。
カルラが大きく息を吸った。
そして——
ゴォォォォォォォォォ!
灼熱のブレスが吹き出した。
◆ ◆ ◆
炎が——塊を焼き尽くす。
ジュウゥゥゥ……
焦げる音。
「キシャアアアアアアアア!」
塊の悲鳴が響いた。
表面に——
割れ目が増え始める。
一つ、二つ、五つ、十——
「ァああヴゥぅゥゥ……」
「ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ!」
割れ目から——
オーガとトロールが次々と産み落とされる。
まるで出産のように。
産声のような咆哮。
「来るよ!」
ヴィヴィが盾を構えた。
「カルラに向かってくる敵を迎撃します!」
私は草薙の剣を抜く。
「黒ノ三式・エア!」
加速。
迫りくるオーガを斬り伏せる。
ズバッ!
次のトロールへ。
また斬る。
◆ ◆ ◆
「黒ノ三式・ブリザード!」
ナターシャの杖から——
氷の槍が次々と飛ぶ。
ドゴォ、ドゴォ、ドゴォ!
トロールたちを貫き、氷結させる。
「白ノ三式・ホーリージャベリン!」
ミケケの杖から——
光の槍が放たれる。
オーガの額に命中。
ギィィィ!
悲鳴を上げて倒れた。
「させない!」
ヴィヴィはミケケに迫るオーガに盾を向ける。
そして、盾を叩きつける。
ドゴォン!
シールドバッシュ!
オーガが吹き飛ぶ。
カルラを中心とした——
プリティームーンの総力を結集した防衛陣。
私たちは——迎撃し続ける。
◆ ◆ ◆
ゴォォォォォォォォォ!
カルラのブレスが途切れない。
塊が——どんどん焼かれていく。
悲鳴が弱くなる。
半分ほど焼き尽くした。
産み出される数も——減っている。
「このまま押し切るのさ!」
ナターシャが叫ぶ。
ゴォォォォォォォォォ!
さらに焼く。
四分の三——
ほぼ焼き尽くした。
その時——
天井から、何かが落ちてきた。
◆ ◆ ◆
小さなスライム。
体内に——赤黒い核が見える。
禍々しい光。
「!」
オーガとトロールが——
そのスライムを囲った。
守るように。
まるで——
母を守る子供のように。
「とどめなのじゃ!」
カルラがブレスを放とうとする。
その瞬間——
「待って、カルラ!」
ヴィヴィが叫んだ。
カルラが動きを止める。
「最後は——」
ヴィヴィが私を見る。
「あたしにやらせてほしい」
静寂。
私はヴィヴィを見つめた。
彼女の目には——
強い決意が宿っている。
「……わかりました」
私は頷く。
「わかったのじゃ」
カルラも頷いた。
「ありがとう、カルラ」
ヴィヴィが微笑む。
そして——
盾を構えて、前に進んだ。
◆ ◆ ◆
「神盾権能・ディバインシールド!」
蒼い障壁が展開される。
オーガたちの攻撃を——すべて防ぐ。
ヴィヴィは——ゆっくりと歩く。
スライムに向かって。
「あなたも——」
ヴィヴィが静かに語りかける。
「普通のスライムだったんだよね」
スライムが——わずかに震えた。
「あなたは、子供を産んでいるだけだった」
ヴィヴィの声が震える。
「でもね——」
拳を握る。
「そのために、多くの人が亡くなったんだよ」
涙が——頬を伝う。
「父さんも」
「兄さんも」
「たくさんの人たちが——」
一呼吸。
「だからね」
ヴィヴィが盾を構える。
「あたしが——終わらせてあげるよ」
「これでもう、誰も死ぬことはない」
涙を拭う。
(父さん、兄さん——)
◆ ◆ ◆
ヴィヴィが——
静かに力を注ぎ込む。
蒼い輝きが、さらに強くなる。
「『砕鳴衝波』!!」
ズギォォォォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃波。
オーガ、トロール——
すべてが吹き飛ぶ。
そして——
スライムに到達した。
「ワダシノ……」
スライムが——震える声を発する。
「アガチャ……」
その声が——途切れた。
スライムの核が——
砕け散る。
体が——崩れていく。
液体になり——
地面に広がり——
消えた。
◆ ◆ ◆
静寂。
すべてが——終わった。
「……終わった、にゃ」
ミケケが呟く。
「終わったのさ……」
ナターシャが杖を下ろした。
カルラが人型に戻る。
「お姉さま……」
私に駆け寄ってくる。
私はカルラの頭を優しく撫でた。
そして——
私はヴィヴィの元へ歩いた。
ヴィヴィは——
盾を地面に突き立てたまま、動かない。
肩が——震えている。
「ヴィヴィ……」
私が声をかける。
「……終わったね」
ヴィヴィが小さく呟いた。
「あたし……やったよ……」
涙が——止まらない。
「父さん……兄さん……」
「もう……誰も死なないよ……」
私はヴィヴィを抱きしめた。
温かい。
小さな体が——震えている。
「よく頑張ったわ、ヴィヴィ」
私は優しく言う。
「あなたは——本当によく頑張った」
ヴィヴィが——泣いていた。
十年間——
ずっと抱えていた悲しみ。
それが——ようやく解放される。
◆ ◆ ◆
しばらくして——
ヴィヴィが顔を上げた。
涙の跡が残っているが——
笑顔だった。
「ありがとう、みんな」
「ううん」
私はヴィヴィの肩に手を置く。
「私たちは——仲間よ」
ナターシャが近づいてくる。
「よくやったのさ、ヴィヴィ」
頭を撫でた。
「ヴィヴィ、かっこよかったのじゃ!」
カルラが抱きついてくる。
「ヴィヴィは英雄にゃ」
ミケケの尻尾が揺れた。
「みんな……」
ヴィヴィがまた涙を流す。
でも——今度は、嬉しい涙。
私は空洞を見渡した。
もう——何もいない。
静かだ。
「帰りましょう」
私は告げる。
ナターシャが頷いた。
「黒ノ二式・エスケープ!」
光が——私たちを包む。
◆ ◆ ◆
ウェスタル鉱山町。
廃墟の町に——
陽光が降り注いでいた。
「お腹……すいたのじゃ……」
カルラが呟く。
「今日は、帰ったら肉肉しいパーティーをしましょう」
「やったのじゃ」
カルラは角をピコピコ動かしている。
「スタンピードは——もう起こらない」
ヴィヴィが廃墟を見つめている。
「ここに——また人が住めるようになるかな」
「きっと」
私は微笑む。
「また、賑やかな町になるわ」
ヴィヴィが——小さく笑った。
「そうだね」
私たちは飛行ドローンに乗り込む。
ウェスタル鉱山が——遠ざかっていく。
ヴィヴィが——ずっと窓の外を見ていた。
別れを告げるように。
そして——
ゆっくりと、窓から視線を外した。
飛行ドローンが——武蔵御殿へ向かう。
青空が——どこまでも広がっていた。
続く
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