第19話 ウェスタル鉱山III
王国歴300年4月4日——
私たちは第二層の残敵を掃討し、第三層へ到達した。
第三層。
岩肌には黒いものが混じり始めている。
坑道を直進すると……
巨大な空間が広がっていた。
天井は高く、壁には黒鉄鉱の鉱脈が走っている。
「にゃにゃ~」
ミケケが目を丸くした。
「黒鉄鉱がこんなにたくさんあるにゃ……」
「高純度の黒鉄鉱の鉱脈さね」
ナターシャが壁を見つめる。
「あれは——」
私は空間の中央を見た。
そこには——
巨大な人型の魔物が、徘徊していた。
オーガ。
トロール。
その数、百体以上。
だが——
「変なのじゃ」
カルラが首を傾げる。
「戦わないのじゃ」
オーガとトロールは、互いに争わない。
ただ——うつろな目で、歩き回っている。
「カルラの言う通りにゃ」
ミケケが耳を伏せる。
「魔物は縄張り意識が強いにゃ」
「オーガとトロールが同じ空間にいるなんて……」
「しかも、あんなに大人しいにゃ」
私も頷く。
「確かに……異常ですね」
ナターシャが頬に手を当てる。
「普通の魔物とは明らかに違う」
「まるで人工生命のようさね」
「スタンピードを定期的に発生させているなら」
「こいつらは増え続けているはずなのさ」
ミケケは指を立てて指摘する。
「おそらくは——」
「ある臨界点に達したとき、上層へ駆け上がり……」
「上層の魔物と一緒に外へ排出されると思われるにゃ」
そのとき——
カルラが不思議そうに首を傾げた。
「うち疑問があるのじゃ」
「なに?」
私は尋ねる。
「魔物は交尾して子を産むのじゃろ?」
カルラが真面目な顔で言う。
「なのに、ここの魔物は交尾しておらんのじゃ」
「どうやって増えておるのじゃ?」
「!?」
私の顔が——真っ赤になった。
(こ、交尾……!)
(カルラが、そんな言葉を……!)
ナターシャの妖艶な瞳が私を見つめる。
「ミサカ、顔が赤いのさ」
「ち、違います!」
私は慌てて否定する。
「カルラの疑問は正しいのさ」
ナターシャがカルラの頭を撫でた。
「自然発生の魔物なら、繁殖行動がある」
「でも、ここの魔物にはそれがない」
「つまり——」
「下層で作られている可能性がある——」
カルラの角がピコッと動く。
「なるほどなのじゃ!」
ミケケが私を見つめる。
「ミサカもレディにゃ」
「もう、ミケケ……!」
私の顔が、さらに赤くなる。
ヴィヴィとミケケが微笑んでいる。
ナターシャは満足そうだ。
(もう……)
(変なこと想像した私もだけど……)
私は深呼吸して、気を取り直した。
◆ ◆ ◆
「では——」
私は一同を見渡す。
「掃討に移ります」
全員が頷いた。
「通路に誘い込み、少しずつ駆逐していきましょう」
私は作戦を説明する。
「みなさん、耳を貸してください」
一同が集まる。
私は小声で、作戦を伝えた。
「……なるほど」
ナターシャが頷く。
「いい作戦さ」
「ブレス攻撃なら任せるのじゃ」
ヴィヴィが手を上げた。
「あたしにも案があるんだ、聞いてミサカさん」
「もちろん」
私は微笑む。
ヴィヴィが小声で、自分の案を話す。
「……!」
私は目を見開いた。
「それは……」
「できる!」
ヴィヴィが力強く頷く。
「あたし、やってみせる」
私はヴィヴィの目を見つめた。
強い意志が——そこにあった。
「わかりました」
私は頷く。
「では、二つの案を組み合わせましょう」
一同が頷いた。
◆ ◆ ◆
戦闘開始——
私たちは通路の入り口に陣取る。
ナターシャが詠唱した。
「黒ノ二式・メガフレア」
巨大な火球が出現する。
一つ、二つ、三つ——
無詠唱で次々と生成される。
四つ、五つ、六つ——
六つの火球が、空中に浮かんだ。
「いくのさ!」
ナターシャが合図を送る。
ドゴォ、ドゴォ、ドゴォ!
火球がオーガたちに炸裂した。
「グォォォ!」
オーガたちが吠える。
こちらに向かって走り出す。
「消し炭にしてやるのじゃ!」
カルラが口を開けた。
ゴォォォォ!
炎のブレスが吹き出す。
迫りくるオーガとトロールを——飲み込んだ。
「ギャァァァ!」
悲鳴が響く。
だが——まだ来る。
「ミサカ、いきます!」
(言ってみたかったのよ。この言葉!)
私は駆け出した。
「黒ノ三式・エア!」
風が足元で弾ける。
体が加速する。
私は地面を蹴り飛翔した。
最前列のトロールに——草薙の剣を振り下ろす。
ズバァッ!
首が飛んだ。
次のオーガへ。
斬る。
また斬る。
三体、四体、五体——
ズザッ!ズザッ!ズザァァ!
本気の斬撃。
私は頃合いを読み——
「後退します!」
私は通路へ引き返す。
追いかけてくるオーガたち。
その瞬間——
「させないよ!」
ヴィヴィが前に出た。
盾を構える。
「神盾権能・ディバインシールド!」
蒼い障壁が展開される。
ドガァン、ドガァン!
オーガたちの拳が、障壁に激突する。
障壁は崩れず蒼い輝きを増す。
ヴィヴィの目が見開かれる。
(父さん、兄さん、見てて……)
(あたし、強くなったよ)
(もう、守られるだけの子供じゃない)
ヴィヴィは願う。
(必ず、スタンピードを終わらせるから——)
ヴィヴィが——雄たけびをあげる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あたしの盾は——」
蒼い輝きが、さらに強くなる。
「守るためだけじゃないんだよ!」
その瞬間——
盾が、さらに激しく煌めく。
ヴィヴィが盾を強く押し出した!!
「『砕鳴衝波』!!!」
権能が炸裂した。
地面が揺れる。
ズギォォォォォォォォンッ!!
凄まじい。
蒼い衝撃波が——放射状に広がる。
まるで津波のように。
オーガ、トロール——
目の前の敵すべてが——
吹き飛ぶ!
胴を真っ二つに切り裂かれ
鮮血が噴き出す!
ドガガガガガガッ!
壁に激突するもの。
地面に叩きつけられるもの。
そして——
動かなくなった。
「……」
静寂。
ヴィヴィの周囲——
半径五十メートルに、敵はいない。
すべて——倒れている。
「すごい……のじゃ……」
カルラが呆然と呟く。
「流石はあたいの妹なのさ」
ナターシャは微笑む。
ミケケの耳が立ったまま、固まっている。
「信じられないにゃ……」
私は——
ヴィヴィを見つめた。
小柄なドワーフの少女。
いつも明るく、笑顔で。
でも今は——
ヴィヴィの背中がとてつもなく大きく見える。
彼女はプリティームーンの守護神。
◆ ◆ ◆
「ヴィヴィ……」
私はヴィヴィに近づく。
「よく頑張ったわ」
私はヴィヴィの肩に手を乗せる。
「さて——」
私は周囲を見渡す。
まだ、数体のオーガとトロールが残っている。
「あとは私に任せてください」
草薙の剣を抜く。
残った敵を、次々と斬り伏せる。
五分後——
すべての敵が、倒れた。
静寂。
巨大な空間には——
もう何も動いていない。
「やった……」
ヴィヴィが呟く。
「三層、制圧したわ」
私は頷いた。
そして——
奥を見つめる。
暗闇の中に——
下へと続く道が見える。
「あれが……」
ナターシャも気づく。
「四層への入り口さ」
私は一同を見渡した。
みんな——疲れている。
ヴィヴィは特に。
ナターシャも魔力を使い果たしている。
「今日はここまでにしましょう」
私は判断する。
ナターシャはエスケープを唱え私たちは入口に戻った。
◆ ◆ ◆
ウェスタル鉱山町。
「ふぅ……」
ナターシャが髪をかき上げる。
「今日は流石に疲れたのさ」
「お疲れ様、ナターシャ」
私は微笑む。
「みんな、お疲れ様」
ヴィヴィが空を見上げた。
「明日……」
夕日が、廃墟の町を照らしている。
「明日、四層に行くんだね」
私は頷いた。
「ええ」
階段の先——
そこに、すべての答えがある。
スタンピードの真相。
夕日がゆっくりと沈んでいく。
続く




