第17話 ウェスタル鉱山
ウェスタル鉱山町。
荒れ果てた町並みが広がっていた。
石畳は割れ、建物の壁は崩れている。
草が生い茂り、獣道のようになっていた。
「……」
ヴィヴィが無言で町を歩く。
私たちは彼女の後ろを静かについていった。
「ここが……ヴィヴィの故郷……」
カルラが小さく呟く。
ヴィヴィが立ち止まった。
崩れかけた建物の前で。
「ここが……うちだった」
震える声。
「父さんが鍛冶屋をやってて」
「兄さんが鉱山で働いてて」
「母さんが料理を作ってくれて」
ヴィヴィの目から——涙が零れた。
「ティティが生まれたばかりで……」
「みんな、笑ってたんだ」
私は何も言えなかった。
ただ——そばにいることしかできない。
ナターシャがヴィヴィの肩に手を置く。
「……行くのさ、ヴィヴィ」
「うん」
ヴィヴィが涙を拭う。
「行こう」
その時——
「少しだけ、待ってください」
私は言った。
全員が立ち止まる。
「ここで亡くなった方々に、祈りを捧げましょう」
私は崩れかけた建物に向かって、手を合わせた。
目を閉じる。
扶桑では、亡くなった方に手を合わせる。
私は黙祷をささげた。
「どうか、安らかに……」
小さく呟く。
ナターシャ、カルラ、ミケケも——
それぞれの方法で、祈りを捧げた。
風の音だけが、聞こえる。
静寂。
ヴィヴィは——
私の隣に立ち、手を合わせた。
「父さん……兄さん……」
「あたし、頑張るから」
穏やかな声。
「見守っていてね」
しばらくして——
ヴィヴィが目を開けた。
「……ありがとう、みんな」
私は頷いた。
「では——行きましょう」
奥に、巨大な坑道の入り口。
暗闇が、口を開けていた。
私たちはゆっくりと鉱山へと歩いて行った。
◆ ◆ ◆
ウェスタル鉱山入り口。
正午。
「ミケケ、防御魔法をお願いします」
「わかったにゃ」
ミケケが二重の防御魔法を唱える。
加護が私たちを抱擁する。
そして——
「白ノ四式・サークルライト!」
私たちの周囲に光の玉が展開される。
鉱山内部が、ゆっくりと浮かび上がる。
石の壁。
木の柱。
一部の柱は朽ちていた。
奥へと続く、暗い通路。
「カルラ」
私は振り返る。
「スマホのアラームを17時にセットしてください」
「わかったのじゃ!」
カルラがスマホを取り出した。
画面を器用に操作する。
ピッ。
「セット完了なのじゃ!」
(カルラ、すっかりスマホを使いこなしてるわ)
私は微笑んだ。
「では——探索を開始します」
◆ ◆ ◆
坑道の中。
足音が、静かに響く。
壁には、古い松明の跡。
天井から、水滴が落ちる音。
ポタリ……ポタリ……
「静かなのじゃ……」
カルラが呟く。
「静かすぎるのさ」
ナターシャが杖を構えた。
しばらく進むと——
「!」
私は立ち止まる。
地面に、白い何かが散らばっていた。
「これは……」
ヴィヴィが膝をつく。
「人骨……」
剣を握りしめた骸骨。
錆びた鎧。
崩れた盾。
「冒険者……だったのかもしれないにゃ」
ミケケの耳が伏せる。
さらに奥へ進むと——
つるはしが転がっていた。
錆びて、刃が欠けている。
「兄さんはここで毎日働いていたんだ……」
ヴィヴィが小さく呟いた。
そして——
巨大な骨。
三メートルはある。
「魔物……?」
ヴィヴィが息を呑む。
ナターシャが頷いた。
「オーガの骨かもしれないのさ」
静寂。
私たちは——黙って、先へ進んだ。
◆ ◆ ◆
その時——
パタパタパタパタ……
奥から、何かの軽い足音。
「来るよ!」
ヴィヴィが盾を構えた。
暗闇から——
巨大なネズミが飛び出してきた。
体長1メートル。
赤い目が、こちらを睨んでいる。
「ビッグラットにゃ!」
ミケケが叫ぶ。
一匹、二匹、三匹——
次々と現れる。
「戦闘準備!」
「ヴィヴィは前衛!」
私は号令した。
「カルラと私は中衛!」
「ナターシャとミケケは後衛!」
「了解!」
全員が応える。
◆ ◆ ◆
ビッグラットが襲いかかってくる。
ヴィヴィが盾で受け止めた。
「あたしが防ぐ!」
シールドバッシュ!
ドゴォン!
ビッグラットが吹き飛ぶ。
「黒ノ五式・エア!」
私は加速した。
一瞬で間合いを詰める。
斬る!
ズバッ!
ビッグラットが真っ二つになった。
「白ノ五式・ホーリージャベリン!」
ミケケの杖から、光の槍が放たれる。
ビッグラットの額に命中。
ギィィィ!
悲鳴を上げて倒れた。
「黒ノ五式・ファイア!」
ナターシャの火球が炸裂。
ビッグラットが燃え上がる。
「うりゃー!」
カルラの拳が炸裂した。
ガシャン!
頭蓋が砕け散る。
十分後——
全てのビッグラットを倒し終えた。
◆ ◆ ◆
「ふぅ……」
ヴィヴィが息を整える。
私は倒れたビッグラットを見下ろした。
血と臓物の匂いが鼻をつく。
すると——
ナターシャが死体に向けて杖を構えた。
「黒ノ五式・ファイア」
火球が死体に命中。
ジュウゥゥゥ……
ビッグラットが燃え上がった。
「カルラ」
ナターシャがカルラを見る。
「ブレス攻撃で死体を燃やしていくのさ」
「殲滅戦なら、死体は燃やしていくに限るのさ」
「わかったのじゃ!」
カルラが口を開ける。
ゴォォォォ!
炎のブレスが吹き出した。
残りのビッグラットが次々と燃え上がる。
(確かに……)
私は頷いた。
(死体を放置すれば、悪臭が発生する)
(戦場での死体処理——合理的な判断だわ)
煙が天井へと昇っていく。
「では、先に進みましょう」
◆ ◆ ◆
探索を続ける。
遭遇戦が、何度も繰り返された。
ビッグラットの群れ。
私の斬撃。
ミケケのホーリージャベリン。
ナターシャの火魔法。
カルラのブレス攻撃。
そして——死体の焼却。
通路には、戦いの痕跡が残されていく。
焦げた死体。
血痕。
崩れた壁。
「!」
私は立ち止まった。
前方に——
階段が見える。
下へと続いている。
「第二層への階段なのじゃ!」
カルラが叫ぶ。
その時——
ピッピッピッピィー♪
スマホのアラームが鳴った。
17時。
「本日はここまでです」
私は一同を見渡す。
「ナターシャ、エスケープをお願いします」
「了解なのさ」
ナターシャが杖を構えた。
「黒ノ二式・エスケープ!」
光が——私たちを包んだ。
◆ ◆ ◆
鉱山の入り口。
夕日が、私たちを照らしていた。
「ふぅ……」
「もう、魔力も尽きてきたのさ」
ナターシャが額の汗を拭う。
「今日はここで野営さね」
ヴィヴィが頷く。
「そうだね。見張りの順番を決めないと」
「夕食はどうするにゃ」
ミケケの耳が立つ。
「お腹すいたのじゃ」
カルラがお腹を押さえた。
私は首を横に振る。
「野営はしません」
「!」
一同が目を見開く。
「武蔵御殿に帰ります」
私は飛行ドローンを指差した。
「皆さん、飛行ドローンに乗ってください」
◆ ◆ ◆
「その発想はなかったのさ」
ナターシャが呆れたように笑う。
「飛行ドローンなら一時間半でここまで来れるからね」
飛行ドローンが浮上する。
自動操縦で、武蔵御殿へ向かった。
眼下に、森が広がっている。
夕日が、世界を赤く染めていた。
「空からの眺めはよいのじゃ……」
カルラが窓にへばりついている。
一時間半後——
武蔵御殿に到着した。
◆ ◆ ◆
後方甲板。
ムサシヒメとティティが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、みなさん」
「おかえりー!」
ティティが手を振る。
「ただいま」
私は微笑んだ。
「お風呂の準備はできてますよ」
ムサシヒメが案内してくれる。
「夕食も用意してあります」
「ありがとう、ムサシヒメ」
◆ ◆ ◆
武蔵御殿、大浴場。
湯気が立ち込める。
私は湯船に浸かり、天井を見上げた。
「ふぅ……」
体の疲れが、溶けていく。
「ミサカ、さまさまなのさ」
ナターシャが隣に座った。
「いつもなら野営していたのに」
プラチナ色の髪が、湯気に揺れている。
「こんな快適なお風呂に入れて」
「美味しいもの食べて」
「暖かい布団で寝られて」
ナターシャがニヤリと笑った。
「ミサカ大明神なのさ」
「ミサカさんが、この世界に来てくれて本当によかったよ」
ヴィヴィが微笑む。
「ミサカ天使にゃ」
ミケケの尻尾が揺れた。
「お姉さまが大好きなのじゃ!」
カルラが抱きついてくる。
「ちょ、ちょっとカルラ!」
私は顔が熱くなった。
笑い声が、大浴場に響く。
温かい。
仲間たちと一緒に。
明日——
第二層へ挑む。
私は静かに、目を閉じた。
続く




