第14話 女子会
王国歴300年4月1日——
武蔵御殿。
今日は女子会だ。
私は鏡の前で深呼吸する。
(女子会……)
思い出すのは——
扶桑での休日。
ジャージ姿で乙女ゲームをしていた日々。
推しキャラのイベントを周回する。
それが私の休日だった。
(女子会なんて……手平山女子高以来だわ)
不安が募る。
「ミサカさん、大丈夫?」
ムサシヒメが心配そうに見つめる。
「ええ、大丈夫よ」
私は平静を装った。
(大丈夫じゃないけど……)
ムサシヒメが選んでくれたドレスに着替える。
「似合ってるよ、ミサカさん」
(軍服の方が落ち着くのだけど……)
「ありがとう、ムサシヒメ」
そして——
プリティームーンのメンバーと共に、馬車で王城へ向かった。
◆ ◆ ◆
王城。
「陛下、プリティームーンが到着いたしました」
侍従の声が響く。
「お通しください」
クレア女王の私室。
扉が開く。
「ようこそ、プリティームーンの皆さん」
クレアとリリアが微笑む。
「ご招待していただきありがとうございます、陛下」
私は一礼した。
「今日は、陛下も聖下もなしです」
クレアが優しく言う。
「名前で呼んでください」
「まあ、ミサカさん、素敵なドレスですわ」
「あ、ありがとうございます」
私は顔が熱くなる。
「陛——、クレアさん」
(褒められるの、慣れてないわ……)
一同が席に座る。
テーブルには——
『雫シフォン・柑橘』
『泡雪ムース・はちみつ』
『水鏡タルト・ぶどう』
色とりどりのケーキ。
紅茶やレモネードが並んでいる。
◆ ◆ ◆
和やかな雰囲気の中、会食が始まる。
日々の話、冒険の話に花が咲き——
「さてと——」
ナターシャが二人を交互に見る。
「クレアちゃんとリリアちゃん」
ニヤリと笑った。
「宰相閣下と毎晩どうなのさ?」
シーン。
二人が——完全に固まった。
(いきなり何聞いちゃってるのよ!)
顔が、真っ赤だ。
「な、ナターシャ!」
「な、ナターシャさん!」
二人が同時に叫ぶ。
顔を見合わせ——
さらに赤くなった。
リリアが小声で囁く。
「ボンちゃんとは、夜いつもお話をして……」
顔が真っ赤だ。
「それから、その……」
「三人で一緒に……」
「!」
クレアが慌てる。
「リリア! それ以上は言わないで!」
リリアの口を手で塞いだ。
「あら?」
ナターシャがニヤニヤする。
「はい、ご馳走さまなのさ」
「もう、ナターシャ」
クレアが頬を膨らませる。
「ナターシャさんはいじわるです」
リリアも恨めしそうに見つめた。
「お二人さんは、幸せなのさ」
「さて——」
ナターシャは獲物を捕らえるような目でヴィヴィを見つめる。
◆ ◆ ◆
「ヴィヴィはどうなのさ?」
ナターシャがヴィヴィを見た。
「え、あたし?」
ヴィヴィが目を丸くする。
「誰か気になる人はいます?」
リリアが尋ねる。
「うーん……」
ヴィヴィが少し考える。
「ドランとは、たまに食事に付き合ってあげてるけど」
「ドラン!?」
クレアが目を見開く。
「元・灰銀の牙の狂戦士の方ですか?」
「そ、そうだけど……」
「ヴィヴィも隅に置けないのさ」
ナターシャがニヤリと笑う。
「付き合ってあげてる、ねえ」
「ち、違うよ!」
ヴィヴィが慌てる。
「ドランが『メシ、イクカ』って誘ってくるから!」
「で、行くんだね?」
「う、うん……断るの悪いし……」
ヴィヴィの顔が少し赤い。
「それって恋なのじゃ?」
カルラが首を傾げる。
「恋じゃないよ!」
ヴィヴィが叫んだ。
「友達!ただの友達!」
「ふふ、可愛いですわ」
クレアが微笑む。
ヴィヴィは真っ赤になって俯いた。
◆ ◆ ◆
「カルラはどうなの?」
ヴィヴィが話題を逸らそうとする。
「うち?」
カルラの角が動く
「うちはお姉さまが大好きなのじゃ!」
胸を張る。
「お姉さまは素敵で、強くて、優しくて!」
「うちの自慢のお姉さまなのじゃ!」
「カルラ……」
私は微笑む。
「可愛いのさ、カルラ」
ナターシャが頭を撫でる。
「まあ、仲が良いのね」
クレアが微笑んだ。
「うちはお姉さまと一生一緒なのじゃ!」
カルラが私に抱きつく。
「ありがとう、カルラ」
私は彼女の頭を撫でた。
温かい雰囲気。
みんなが微笑んでいる。
◆ ◆ ◆
「ミケケはどうなのじゃ?」
カルラが尋ねる。
「吾輩?」
ミケケの耳がぴくりと動く。
「今は発情期じゃないから男はいらないにゃ」
「!?」
一同、固まった。
(発情期、なんてストレートなのよ!)
「そういう……」
ヴィヴィが言葉に詰まる。
「猫耳族は発情期以外、恋愛しないにゃ」
ミケケが当然のように言う。
「それ以外は仕事と食事にゃ。あと昼寝にゃ」
「昼寝も入るんだ……」
ナターシャが苦笑する。
「大事にゃ」
ミケケが真面目な顔で頷く。
「合理的さね、ミケケ」
「当然にゃ」
ミケケが胸を張った。
◆ ◆ ◆
「で」
ナターシャが私に振り向いた。
妖艶な瞳が私をとらえる。
「ミサカ——」
「!」
私の動きが止まる。
(まずいわ……!)
全員の視線が——
私に集中した。
素早く、話の矛先をナターシャに切り替える。
「ナ、ナターシャはどうなのですか?」
私は必死に尋ねた。
(なんとか話題を変えないと……!)
◆ ◆ ◆
「あたい?」
ナターシャが微笑む。
「昔はいたさ。60年前に死別したのさ。人間だったからね」
さらっと言う。
「……」
一瞬、空気が重くなる。
(ナターシャ……)
「あたいの昔話ならあとでいくらでも話してやるのさ」
ナターシャが優しく言った。
(時間稼ぎもできない——)
「で」
ナターシャが——再び私を見た。
ニヤリと笑う。
「ミ・サ・カはどうなのさ?」
「!!」
(逃げられない……!!)
私の動きが完全に止まる。
全員の視線が——
再び私に集中した。
今度こそ——
逃げ場はない。
◆ ◆ ◆
「み、ミサカさんは?」
ヴィヴィが身を乗り出す。
「好きな人、いるの?」
リリアが優しく尋ねる。
「え……」
私は視線を逸らす。
「い、いえ、私は……」
「いないの?」
クレアが首を傾げる。
「……」
沈黙。
全員の視線が痛い。
(逃げられない……)
「……います」
小さな声で答えた。
「!」
一同が色めき立つ。
「おお!」
カルラが目を輝かせる。
「どんな人なのさ?」
ナターシャが追求する。
「その……」
私は俯く。
「扶桑の……剣士で……」
「剣士!」
クレアが興味深そうに見つめる。
「お名前は……?」
リリアが尋ねる。
私は——
顔を真っ赤にして。
小さな声で答えた。
「……ソウジです」
シーン。
沈黙が場を支配する。
そして——
ピロリン♪
電子音が響いた。
「!?」
一同が固まる。
「な、なに……?」
私は混乱する。
◆ ◆ ◆
「お姉さま!」
カルラがスマホを掲げた。
「ソウジが返事したのじゃ!」
「!!!」
私の顔から血の気が引く。
(私がソウジと言うとアプリが立ち上がるようにしていたのよ!)
「カルラ、待って——」
私は手を伸ばす。
だが——遅かった。
画面には——
イケメンの剣士が映っている。
『ミサカ……名前を呼んでくれたのか?』
『嬉しい……』
『俺は……ミサカのことを——』
『愛してる……』
◆ ◆ ◆
「!!!」
一同、完全に固まる。
数秒の沈黙。
そして——
「ソウジさん、お返事くださったのですね」
クレアが微笑む。
「ソウジさんってミサカさんのことを愛しているんですね、素敵です」
リリアが優しい目で私を見つめる。
「ち、違います!!」
私は叫んだ。
「これは偶然で……!」
「偶然にしては出来すぎなのさ」
ナターシャがニヤニヤする。
「これは何なのさ?」
ナターシャがスマホを見つめる。
静寂。
「……扶桑の、ゲームです」
私はうなだれた。
「ゲーム?」
みんなが首を傾げる。
「乙女ゲームと言って……」
小さな声。
「好きな男性を選んで……恋愛する……娯楽です」
「!」
一同、理解する。
「つまり——」
ナターシャが頭を抱える。
「ミサカの好きな人は、ゲームの中の男さね」
「!」
図星だった。
「ミサカ」
ナターシャが私の肩に手を乗せる。
「もう……!」
(艦長の威厳とか、もうどうでもいいわ……!)
顔を両手で覆う。
(死にたい……)
(今すぐここから消えたい……)
(武蔵の装甲板の下に隠れたい……)
カルラは私に寄り添う。
「こういうお姉さまは、守りたくなるのじゃ」
ミケケは呆れた顔。
「ミサカ、おそろしい子にゃ……」
ヴィヴィが静かに言った。
「ミサカさんにもきっと事情があるはずだよ」
リリアとクレアは——
私を優しく抱擁してくれた。
温かい。
◆ ◆ ◆
ナターシャが息を整えた。
そして——
少し真面目な顔になる。
「あたいらはミサカの過去を知らない」
「ん?」
私は顔を上げる。
「きっと扶桑でなにかあったのさ」
ナターシャが優しく言った。
「誰にだって、事情はある」
「ナターシャ……」
リリアが頷く。
「そうですね」
「きっと、ミサカさんにも理由があるのでしょう」
クレアが静かに言った。
「もし、よろしければ——」
私を真っ直ぐに見つめる。
「扶桑のこと、ミサカさんのことを聞かせてもらえませんか?」
「……」
私は少し考える。
(話す……?)
全員が——
優しい目で私を見ている。
責めるような目ではない。
ただ——知りたい、という目。
私は——
小さく頷いた。
「……わかりました」
「お話しします」
ミサカの過去が語られる——
続く




