第11話 輸血
大理石の広い部屋。
中央のテーブル。
一人のエルフの少女が横たわっている。
首筋から、赤い筋が流れている。
意識はない。
「急ぎましょう!」
私とミケケとカルラが駆け寄った。
「ミケケ、回復魔法で傷口を治癒してください」
「わかったにゃ!」
ミケケが杖を構える。
「白ノ三式・ヒール!」
緑の光が少女を包んだ。
首筋の傷が——ゆっくりと塞がっていく。
だが——
ミケケの耳が伏せた。
「残念だけど、この子は助からないにゃ」
「!」
カルラが息を呑む。
「傷は回復できるにゃ」
ミケケが震える声で言う。
「でも、血を失いすぎているにゃ……」
私は少女を抱き上げた。
「まだ、助ける方法はあります」
「……ミサカの魔道具に期待するにゃ」
カルラとミケケを見る。
「今は一刻も早く村に戻りましょう」
◆ ◆ ◆
部屋の奥——
ナターシャとヴィヴィが檻に駆け寄る。
中には、エルフの少女が4人。
目に光が戻り始めている。
「ここは……どこ?」
一人が混乱した声を上げる。
「どうして檻の中にいるの?」
別の少女が泣き出した。
「お母さん……」
ナターシャが優しく言う。
「あたいらは助けに来たのさ」
シーフツールを取り出す。
カチャカチャ……カチッ。
檻の鍵が外れた。
「もう、大丈夫だよ!」
ヴィヴィが少女たちを励ます。
「安心して!」
少女たちを連れて、私の近くに集合する。
「ナターシャ、お願い」
「あいよ」
ナターシャが杖を構えた。
「みんな、あたいの周りに集まるんだよ」
全員がナターシャの周りに集まる。
「黒ノ二式・エスケープ!」
光が——全員を包んだ。
◆ ◆ ◆
遺跡の入口。
光が消える。
「ふぅ……」
ナターシャが額の汗を拭った。
「うまく脱出できたのさ」
「ありがとう、ナターシャ」
私は少女たちに向き直る。
「さあ、村へ行きましょう」
私たちは村へ急いだ。
◆ ◆ ◆
村の入口——
門番が声を上げる。
「プリティームーンが帰ってきたぞ」
「行方不明になった少女たちも一緒だ!」
その瞬間——
村中から人が飛び出してきた。
「娘が! 娘が帰ってきた!」
「本当に……本当に……!」
抱き合う親子。
泣き崩れる家族。
村の広場に、家族の再会が溢れている。
「ありがとうございます!」
「本当にありがとうございます!」
「命の恩人です!」
「プリティームーンは村の英雄です!」
村人たちが、プリティームーンに感謝する。
無事だった4人の少女は、両親に引き取られていく。
◆ ◆ ◆
ティアの家。
意識のないエルフの少女を寝かせる。
ティアが駆け寄ってきた。
「レイナ!」
涙を流す。
「レイナ、しっかりして……!」
ファムは懇願する。
「レイナはティアの幼馴染で親友なの」
「助けてあげて、ミサカ」
「最善をつくります」
私は立ち上がった。
「ナターシャ、付き合って」
「あいよ」
二人は急いで飛行ドローンへ向かう。
◆ ◆ ◆
飛行ドローン。
ナターシャが認識阻害を解除する。
私はドローンの後部を開けた。
医療キットを取り出す。
携帯検査キット。
携帯輸血キット。
「これで助けます」
再び認識阻害をかけてもらい——
ティアの家へ戻った。
◆ ◆ ◆
レイナの指先から血を採取。
携帯検査キットで分析。
『分析中……』
(お願い——)
(扶桑と同じ血液型であってください——)
『完了』
画面に結果が表示される。
『血液型:A型RH+』
『推定失血量:1.5L』
『24時間以内死亡確率:72%』
「!」
ティアが息を呑む。
レイナの両親も駆けつけてきた。
「娘を……レイナを助けてください……!」
涙顔。
必死の表情。
私は頷く。
「必ず、助けます」
私以外の血液型を調べる。
『ヴィヴィ:A型RH+』
『ナターシャ:B型RH-』
『ミケケ:AB型RH+』
『カルラ:判定不能』
私はO型RH-、万能血液。
ティアと両親を見る。
「レイナさんに輸血ができるのは、私とヴィヴィです」
「私がまず輸血します」
私は携帯輸血キットを起動した。
『消毒中……しばらくお待ちください』
ピッ。
『完了』
私の右手首にワッカを巻く。
レイナの右手首にワッカを巻く。
開始ボタンを押す。
シュッ。
針が自動的に挿入される。
痛みはほとんどない。
赤い血液が——透明な管を通って流れていく。
私の血が——
レイナの命を繋ぐ。
『輸血量:100ml』
『輸血量:200ml』
『輸血量:300ml』
数値が増えていく。
『輸血量:600ml』
ピッ。
『輸血完了』
ワッカが自動的に外れた。
私はヴィヴィを見つめる。
「ヴィヴィ、輸血をお願いできますか」
ヴィヴィが前に出る。
「もちろん!」
「あたしの血で助けられるなら、いくらでも出すよ!」
私は微笑んだ。
「お願いします、ヴィヴィ」
ヴィヴィとレイナの手首にワッカを巻く。
再び、血液が流れていく。
『輸血量:100ml』
『輸血量:200ml』
『輸血量:300ml』
ヴィヴィが少し顔を歪める。
「大丈夫?」
「平気だよ!」
ヴィヴィが笑顔を作る。
「これくらい、なんともないって!」
『輸血量:600ml』
ピッ。
『輸血完了』
ワッカが外れる。
携帯検査キットで再チェック。
『24時間以内死亡確率:0.1%』
レイナの顔色が——
少しずつ、赤みを帯びてきた。
「助かった……のじゃ……!」
カルラが涙を拭う。
レイナの両親が深々と頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
「本当に、ありがとうございます……!」
私は優しく告げた。
「翌朝には意識は回復すると思います」
「いまは、このまま寝かせて見守りましょう」
両親が何度も頷く。
「わかりました……ありがとうございます……」
◆ ◆ ◆
翌朝——
「……う」
レイナが目を開けた。
「レイナ!」
ティアが声をかける。
レイナの目が——弱々しく、ティアを見た。
「ティア……?」
声が小さい。
「よかった……本当によかった……!」
ティアが涙を流す。
レイナは混乱している。
「わたし……どうして……?」
私が近づく。
「大丈夫です。もう安全ですよ」
レイナの目に——涙が浮かんだ。
「ありがとう……ございます……」
弱々しい声。
でも——生きている。
「レイナ!」
両親が駆け寄る。
「レイナ……レイナ……!」
母親が娘の手を握りしめた。
父親も涙を流している。
「レイナ!!」
ファムが飛んできた。
レイナの頬に、ぴたりと張り付く。
「よかったの……!」
「本当に、よかったの……!」
小さな体が、震えている。
「レイナ……」
ティアも駆け寄る。
レイナの手を、優しく握った。
「よかった……本当に……」
涙が零れ落ちる。
「うち……うち、よかったのじゃ……」
カルラが泣いている。
「本当に、よかったのじゃ……」
ヴィヴィも目を潤ませる。
「うん……よかったよ……」
ナターシャが微笑む。
「普通は助からないものさ」
「ミサカ、おそろしい子な・の・さ」
ミケケの尻尾が揺れた。
「これでひと安心にゃ」
私は窓の外を見る。
朝日が、村を照らしている。
長い夜が——
終わった。
続く




