第10話 魔王軍四天王
大理石の広い部屋。
黄色い目。
黒いタキシード。
口元からのぞく——鋭い牙。
「我の部屋に入るときはノックぐらいせぬか」
男がこちらを向く。
「失礼であろう」
ゾクリ。
この男——危険だ。
「いますぐ、その子から離れなさい!」
私は草薙の剣を抜いた。
全員、戦闘態勢。
ヴィヴィが盾を構える。
ナターシャが杖を握る。
ミケケの耳が立つ。
カルラが拳を握った。
男が肩をすくめる。
「言葉が通じぬとは無粋なやつらよ」
そして——
少女から離れる。
「離れてやったぞ」
男は、私たちを舐めるように見つめた。
ゆっくりと、一人ずつ。
私とヴィヴィとミケケを見て——
「凡庸な血はいらぬ」
ナターシャを見つめる。
男の目が一瞬、値踏みするように光った。
「ダークエルフ……だが、純血でなくなったエルフの血もいらぬ」
ナターシャの目が鋭くなる。
そして——
男の視線がカルラで止まった。
「——!」
男の目が、輝く。
「これは……これは……!」
一歩、カルラに近づく。
「素晴らしい……」
「4000年の純血……!」
「しかも処女の竜血……!」
男が恍惚とした表情で呟く。
「極上の血を我に献上しに来るとは大儀である」
舌なめずりをする。
カルラが一歩後ずさった。
「我は無用な殺生は好まぬ」
男が私たちを一瞥する。
「食べかけの女も返してやる、竜だけおいて帰るがよい」
私は——
剣先を男に向けた。
「お断りいたします」
男が首を傾げる。
「あなたは人の命をなんだと思っているのですか?」
「我の食べ物だが、それがどうかしたのか?」
私の目が冷たくなる。
人の命を、本当に食べ物としか思っていない。
「では、あなたの罪を聞かせてください」
一歩、前に出る。
「あなたが奪ってきたのは——」
「人の命です。今まで——」
私の声が低くなる。
「何人の、人の命を奪ってきたんですか?」
男が——笑った。
「貴様たちも毎日パンを食べておろう」
肩をすくめる。
「食べたパンの枚数を覚えているとでもいうのか?」
「……」
私は草薙の剣を構えた。
「よくわかりました」
青白い神気が刀身から立ち昇る。
「私はプリティームーンのリーダー、ミサカ」
男を真っ直ぐに見据える。
「あなたの命を斬る女です」
男が不敵に笑う。
「名乗るか、女よ」
一礼する。
「では我も名乗ろう」
一歩前に出る。
「我は魔王軍四天王——プラッティー伯爵」
舌なめずりする。
「貴様らを葬った後、処女竜の血で祝杯をあげるとしよう」
「!」
カルラが震えている。
「怖いのじゃ……」
「でも、お姉さまがいるから——」
私は号令した。
「総員、戦闘態勢!」
一同が応える。
「参る!」
◆ ◆ ◆
その瞬間——
プラッティーの目が赤く輝いた。
「!」
チャーム魔法だ。
意識が遠のきそうになる——
だが、下腹部の魔法陣が輝く。
正気を保つ。
しかし、魔法の圧が恐ろしく強い。
気を抜けば意識を失いそうだ。
ナターシャが叫ぶ。
「黒ノ二式・ブレイク!」
緑光が全員を包んだ。
チャーム魔法が砕け散る。
プラッティーが目を見開く。
「我の魅了を打ち破るとは、貴様ら……!」
私は駆け出した。
「黒ノ三式・エア!」
風が足元で弾ける。
体が加速する。
プラッティーの巨体が、みるみる近づいてくる。
プラッティーが腕を刃に変える。
「遅い!」
私の剣が閃く。
ズバァッ!
腕ごと胴体を斬り裂いた。
プラッティーの体が——
黒い粒子になって散る。
気化!?
「……っ!」
プラッティーが部屋の奥で実体化した。
「ふん、なかなかやるではないか」
無傷だ。
ミケケが叫ぶ。
「あれは、吸血鬼にゃ!」
ナターシャがヴィヴィに近づき、耳打ちする。
そして——
私に向かって叫んだ。
「ミサカ、吸血鬼には核がある。それを斬るのさ!」
核——心臓のことか?
私は頷いた。
ナターシャが詠唱を始める。
「黒ノ五式・パラライズ!」
紫の霧がプラッティーを包む。
だが——
効果なし。
「黒ノ五式・ポイズン!」
黒紫色の霧。
これも——効果なし。
ミケケが杖を構えた。
「白ノ五式・スリプル!」
白い光がプラッティーを包む。
だが、プラッティーは平然としていた。
「無駄だ」
プラッティーが嘲笑う。
「我に魔法は効かぬ」
私は再び斬りかかる。
プラッティーが気化。
黒い粒子になって散る。
その中に——
極小の赤い粒が見えた。
あれが核!?
だが、高速移動していて狙えない。
何度も斬りかかる。
そのたびに気化される。
ナターシャが火球を放つ。
「黒ノ五式・ファイア!」
一つ、二つ、三つ——
無詠唱で次々と火球が生成される。
プラッティーに向かって飛んでいく。
ドゴォ、ドゴォ、ドゴォ!
爆発。
だが——
煙の中から、プラッティーが現れた。
無傷。
「小賢しい魔女め!」
プラッティーが叫ぶ。
「まずは貴様からだ!」
ナターシャの目の前で実体化——
その瞬間。
「させない!」
ヴィヴィが盾をプラッティーに向ける。
「あたしがいる限り、仲間には傷一つつけさせないよ!」
ドゴォン!
シールドバッシュ!
プラッティーが吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
壁に激突する。
だが——すぐに立ち上がる。
プラッティーの目が、カルラを見た。
「ならば——」
気化。
カルラの前で実体化!
「ひっ……!」
カルラが怯える。
「カルラ!」
私は叫んだ。
プラッティーの牙が、カルラの首筋に迫る——
その瞬間。
ナターシャが叫んだ。
「その瞬間を待っていたのさ!」
杖を構える。
「黒ノ一式・ブリザード!」
「絶対零度の氷結をくらうのさ!」
プラッティーが気化しようとする——
だが。
シュゥァァァァ……パキパキ
氷が、プラッティーの体を包んだ。
半分気化した状態で——
凍りつく。
「ぐ、動けぬ……!」
プラッティーが動けない。
「あんたは美食家だからさ」
「カルラの血を吸いに来ると思っていたのさ」
ナターシャが私を見る。
「ミサカ、あそこさ」
嫌なものを見るような目で——
プラッティーの股間を指差す。
私は目を凝らした。
「!」
股間に——赤い点が見えた。
核が——あんなところに!?
ナターシャが呆れた声で言う。
「そんなところに核を置くなんて……品がないのさ」
私は剣を構え直す。
「……成敗します」
プラッティーの目が見開かれる。
「や、やめろ…」
「やめてくれ!」
「やめてください!」
私は駆けた。
「成敗!!」
ズバァッ!
草薙の剣が、股間の核を斬り裂く。
「ぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあああああああああああ!!」
プラッティーの悲鳴が響き渡った。
体が——
崩れていく。
灰になっていく。
「我が……我が五百年の生涯が……」
「こんな……こんな屈辱的な……」
風に吹かれて——
灰が舞い上がる。
そして——
消えた。
◆ ◆ ◆
静寂。
「……やった、にゃ?」
ミケケが呟く。
「ああ、やったのさ」
ナターシャが肩の力を抜いた。
「助かったのじゃ……」
「うちのお姉さま最強なのじゃ!」
カルラが目を輝かせる。
「ミサカさん、すごかった……!」
ヴィヴィが駆け寄ってくる。
私は剣を鞘に収めた。
「みなさんのおかげです」
そして——
檻の方を見る。
四人の少女が、まだ虚空を見つめている。
机に倒れている少女は、意識がない。
「まず、彼女たちを助けましょう」
私は彼女たちに向かって駆け出した。
続く




