Suica使った事無い女の子に「ここタッチして通ってね」と説明したら 嬉しそうにハイタッチされ改札は閉まった件 ー俺は人間改札機になり世界を支配する
ピンポーン
『カードをタッチして下さい』
改札機に赤いエラー表示が浮かぶ
辺りを見回すと改札の隙間から
ーちょこんとポニーテールが揺れているのが見える
しばらくキョロキョロと左右に振られた後、こちらへ近づいて来る
「とおれません」
目線を下げると
ベソかきそうな顔をした女の子がICカードを差し出していた
――
「ちょっと見せてね~」
カバンの【伸びるコードで繋がれた定期入れ】からカードだけを抜き出す
処理端末でカードの状態をチェックする
おかしい 何も異常は無い
「う~ん ちゃんとタッチした?」
大人だとタッチが適当でエラーになりがちだけど、子供はあまり無い
疑問に思いながらも一応聞いてみる
「……タッチ?」
まるで初めて聞く言葉かのような顔をされた
「あのね……うんとね……」
泣きそうで怖いから言葉をゆっくりと待つ
「……前のは穴に入れたら通れたけど、硬いカードで入らなかった」
あー カードを新しくしたばかりか
横目で端末の履歴をチラッと見る
使用歴は無い
――
「じゃぁ壊れて無いから大丈夫」
カードを定期入れに戻してあげながら笑顔で話しかける
女の子の顔がパァッと明るくなる
「ここにタッチすると通れるんだよ」
すぐ脇にある改札の青く光ってる所を手のひらで指し示す
「ありがとう お兄ちゃん」
すっかり笑顔になった女の子
私の差し出した手のひらを
『スパァーーーン』と全力でタッチしながら通過する
いや 通過しようとした
『カードをタッチして下さい』
赤いエラー表示が出て改札のバーは閉まる
勢いついた女の子は小さく「ぐっ」と言いながら急停止する
また泣きそうな顔で私を見上げる
泣きたいのはこっちだ
少し赤くなった手のひらを見つめ、しばらく立ち尽くす
俺にカードを読み取るチカラさえあれば
――
………………
…………
……
「……チカラが欲しいか……」
気がつくと、周囲の雑踏は消え、人の気配もない
「チ・カ・ラが欲しいか」
さきほどよりハッキリと声が聞こえる
「欲しい!!」
「こんな無力で何のとりえもない俺が 世界を動かせるだけのチカラが」
手のひらが青く燃え光りだす
「欲しいのならくれてやる」
『悪魔契約が成立しました』
――
ブワッ――
急に騒がしい雑踏の音が戻って来る
目の前には心配そうに覗き込む先程の女の子
「お嬢ちゃん もう大丈夫だ任せろ」
「もう一度だ!もう一度タッチするぞ」
急な俺の勢いに戸惑いながらも
自信を持った顔に押され女の子も覚悟を決める
「うん」
女の子の右手も熱が帯びる
「いっけぇぇ~~~」
俺はまるでオリンピック選手を応援するような気合で、右手を改札前に差し出す
右手の血管が浮き出る
手のひらは青く光り ICというマークが浮き出る
辺りには右手を中心に突風が吹き荒れる
「んぐっ」
突風に耐えながら女の子が少しずつ前へにじり寄る
あと50cm 30cm 10cm
俺の右手から立体的な魔法陣が展開し、女の子の手を包み込む
――
ピッ――
パタン
辺りは突風も消え
改札機の認証音とバーが開く音が響く
「ありがとね~」
手とポニーテールをブンブンと振りながら女の子は遠ざかって行く
「どうも~」
燃えそうに熱い右手をフーフーしながら、こちらも笑顔で振り返す
――
「そうだ」
世界一の公共交通機関を掌握し、この世界に革命をもたらす
世界を動かす俺のチカラ――
それはひとりの女の子との出会いから始まったのだ
俺たちの戦いはこれからだ