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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚8

「ガニオ様、我が姫が買い物をしたいと申しております」


 到着した大きな宿場町で、レオがガニオに言った。

 ガニオはレオを一瞥した後、クラリスを見る。

 クラリスはガニオの視線などお構いなしに、宿場町を興味津々で見回していた。


「ハンッ、なるほどなるほど。今までの宿場町は片田舎。ここは王都に近い大きな町。やっと、買い物する気になったわけですかな」


 ブルグの王女なら、片田舎の店より、大きな町の店でしか買い物したくなかったのだと、ガニオは思ったのだろう。

 真実は、お金がなかっただけだが。


 レオはガニオの嫌味に何も反論せず、ただただ穏やかな表情で立っている。


「いいでしょう。部下に案内させます。……あまり羽目を外すことのないようにお願いします。リャン国民は、ブルグの王女に悪印象を持っていますから。くれぐれも横柄な態度は控えていただきたい」


 ガニオはそう小言を言って、部下を選び始めた。


「我が姫、許可が出ました。案内係兼警護の者をガニオ様が選んでおります」

「うん、聞こえていたわ」


『ところで、今宵はどうします?』

『買い物次第ね』


『ですね。本当は片田舎の方が相場は安いはずですが』

『小銭じゃ一張羅も買えないものね』


 要するに、一芸披露しただけでは到底お金は貯められなかったわけ。

 そりゃあそうだろう。数日踊って高級ドレスを買えるほど儲かれば、踊り子、芸人などすぐにお金持ちになってしまう。


 それでも、そこそこ貯めることはできた。

 そこそこと言っても、底的な方。


『せめて、ドレス的なものを一着買えたならいいのだけれど』

『ですね、的なものを』


 稼いだ小銭ではドレスは買えないだろうとクラリスもレオもわかっている。


 と、ここで二人にガニオが向かってきたから、小声の会話を止めた。

 ガニオの背後には二人。

 無表情……若干仏頂面よりか。ブルグの王女につくのを嫌っているふしがありあり。


「この二人は、この町の出身だから案内できましょう」

「よろしくお願いします」

「はい」


 そう返答されて、二人に挟まれる形で歩き出す。

 どうぞでも、こちらへでも促されることもなく、淡々と必要最低限で案内……連行されているようだ。


 レオはクラリスの背後に控えている。

 クラリスがチラッと振り返りレオの姿を確認すると、案内係の二人が冷めた視線を向けてきた。


「王女然とした振る舞いでお願い致します」


 苦言を呈された。


「はい」


 抑圧的なことには慣れているクラリスである。

 はいはいと受け流しておけばいい。


 だが、案内された店構えを見て……慄いた。


「こ、ここ?」

「お気に召さないと? ブルグの王女様には貧相な店構えに見えましょうが、この町一番の老舗仕立て店です」


 高級店だとひと目でわかる。クラリスとレオが稼いだ小金など太刀打ちできないと。


「どうぞ、お入りください」

「い、いえいえ」

「申し訳ありませんね。ここ以上の店舗をご希望なら、次の町でお願いします。まあ、確実なのは王都でしょう」

「いえいえいえいえ。あの、町をぶらぶらしたくて……」

「我が姫は、リャン国民の暮らしぶりを見学したく、買い物を口実にしたのです。ずっと馬車移動でしたので、散策したい気分なのです」


 レオが良い感じにフォローした。


「……そうでしたか」


 案内係の二人が顔を見合わせ、思案している。

 どこを案内するかと、話し合いを始めた。


「リャンの活気がある場を見てみたいわ」


 庶民がワイワイしている所を、とクラリスは思っていた。


「それならば、市場か……蚤の市。まあ王女様にはお目汚しになりましょう。比較的清潔で治安の良い南の庶民店舗街がよろしいかと」

「いいえ。行ってみたいわ、蚤の市」

「は? ご冗談を。そのような場にお連れしたとガニオ将軍に報告したら、私たちが叱責を受けます」

「そ、そう……」


 クラリスはシュンと肩を落とした。


「市場ではどうでしょう?」


 レオが二人に言ってくれた。

 本当は蚤の市の方が掘り出し物がありそうだけど、せめて庶民店舗街よりは市場なら安価で『的な物』を見繕えそうだし。


「……まあ、それなら」


 と、二人が顔を見合わせた。


「お願いします」


 クラリスは深々と頭を下げる。


「そ、そのようなことはお止めください。王女然としてください!」


 クラリスはバッと頭を上げる。


「では、ご案内お願いしますね」


 また、クラリスは頭を下げようとしたところで、二人が慌てたように『こちらです』と促す。

 王女に頭を下げられるのを回避するように。


 クラリスはレオをチラッと見てニヤリと笑う。

 レオも一瞬ニヤッと口角を上げて応えていた。




 ガヤガヤ

 ワイワイ


 市場の賑わいにクラリスは目を丸くする。


「私たちから決して離れませぬように」

「え、ええ」


 クラリスは二人に挟まれながら進む。

 人混みのため、前後で挟まれて進んでいる。


「どうです、この町の活気は?」

「ええ、とても素晴らしいと思います。ブルグよりリャンの方が勝っていますね」


 案内係の二人はクラリスの言葉に気分が良くなる。


「立ち寄りたい店はありますか?」

「そうですね……」


 クラリスは周囲を見回して、服飾の露店を見つけた。

 刺繍糸やらレースなど、衣服を飾れる小物が売っている露店だ。

 服飾露店の横には服飾雑貨店もある。その横並びに布屋、服屋と連なっている。

 関連店舗が連ねて露店を出したのだろう。


「暇つぶしに刺繍でもしたいから、あちらに」


 と、クラリスはそれらしく案内係に言った。

 案内係の二人は、なんの疑問も持たずクラリスを露店へと促した。





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