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ご褒美婚4

 さて、小競り合いのあった国境まで馬車で二週間ほどで到着した。


 本来、王女の輿入れなら多くの護衛と随行者も含めた馬車列になろう。泊まる宿も豪華だろうし、スケジュールも余裕があるに違いない。

 それこそ大大的行幸になるわけで、立ち寄る町々で歓迎されるだろう。


 だが、王家の紋章あれど一頭馬車。

 護衛兼御者一人に人質花嫁でたった二人。

 どこぞのご令嬢のちょっとした外出のようである。


 国境領都に到着した時、とんでもなく怪しまれたのは言うまでもない。

 辺境伯まで案内されると、クラリスを頭のてっぺんから爪先まで、ゆうに二往復するほど見回していた。


 クラリスではない王女だったなら、辺境伯であっても首を落とされていたに違いない。


 まだ訝しんでいる辺境伯がレオを一瞥する。


「先代王が末娘クラリス王女でございます」


 辺境伯の一瞥を受け、レオがこちらから名乗りを上げる。

 本来なら逆だろうが、クラリスは気にしない。

 それどころか、自ら口を開くのだ。


「父は先王、母は踊り子、いわゆる庶子の王女ですの。ご存知かと思われますが、中央の方々が庶子に持たせる嫁入り道具など用意するはずがございません。ブルグ国の古式ゆかしき嫁入り道具なんてものを、リャン国に持参すれば笑い物にされる辱めを受けるでしょうし、身軽に参りましたわ」


 辺境伯が薄く口を開け目を瞬きしている。

 予想外のクラリスの発言だったのだろう。

 レオはクラリスの発言に微笑んでいる。


「まあ、要するに、大事な王女をリャン国になど嫁がせたくないから、いびり放題の私に白羽の矢が立ったのですわ。辺境伯、ご安心くださいね。小競り合いに敗れた責任を私が負って、人質花嫁になりますが、決して敗れた辺境伯を恨んだりはしていません。それどころか、古式ゆかしき陰湿ないびりから解放され、新たないびられの地に期待をしておりますのよ。こういうのを、ドキドキワクワク期待で胸躍ると表現するのでしょうね。ですから、敗れたことに大変感謝致しますわ、辺境伯」


 うん、とんでもないダメージを辺境伯に与えたことだろう。クラリスの発言に辺境伯は途中から、『あっ、うっ』と、喉を鳴らしていたのだから。

 回数にして三回、しつこいほど念入りに『敗れた』と、クラリスは当人を目の前に言葉の矢を降らせたのだ。


「あっ、敗れたのは辺境伯の力不足ではないとわかっております。だって、古式ゆかしき年代物の武器で、新型武器を巧みに操るリャン国になど勝てようはずありませんものね。小競り合いはブルグ国の兵士の方がリャン国の倍いたと聞きましたが、リャン国の新型武器はそれを凌駕する威力だったのでございましょうし」


 とどめを刺すな、クラリス。

 辺境伯が真っ青を越して真っ白になっている。

 崩れるように膝をつき、項垂れる。


「申し訳ありません、王女様!」


 聞きようによっては、クラリスのそれは辺境伯を詰っている発言である。

 クラリスにその意図は全くないのだが。


 クラリスは辺境伯が膝を折った理由がわからず、レオに助けを求めるように視線を泳がす。


「辺境伯、クラリス王女に裏の言葉はありませんので、誤解なさらぬようにお願い致します。何せ、我が姫は一日一食以下しかいただけぬ王城暮らしに加え、着回し二着の古式ゆかしき召し物に身を包み、湯を沸かすがために薪拾いをする日々をお過ごしだった王女でございます。ゆえに、王族たる教育もされておりません。ですから腹黒貴族的社交も皆無な純粋無垢なお方でございます。裏のある会話など意図してできないのです。『戦力二倍なのにてめえが敗れたせいで、こちとら敵国に放り投げられるんじゃい』との意図などでは決してありませんから」


 レオの懇切丁寧な説明に、その場は奇妙な静けさが流れた。


「えー……っと、よくわからないけれど、辺境伯は立っていただける?」


 クラリスは、膝を崩したままの辺境伯の肩に両手を添えて立つように促した。


「あ、ああ……なんとお優しい。はい、ええ、そうですね、逆境をも楽しむ頼もしさに感服致します」


 辺境伯が胸に手を当て、クラリスに敬意を示す。

 言いながら、思考がなんとか追いついたのだろう。

 庶子の王女の王城生活が垣間見え、辺境伯は小さく頷いていた。


 王都の貴族連中でない限り、庶子だからと蔑んだりはしない。だいたい、国境を守る人手の大半は平民兵士であり、それを蔑み虐げていたら国境など守れない。


「クラリス王女到着の旨を、リャン国側に伝えて参ります。……引き渡しまでは、どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」


 初見とは違い、辺境伯の眼差しは柔らかいものに変わっていた。





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