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ご褒美婚3

 結果からいうと快適な旅路である。


「いや、だってね? 三食あるってだけで天国よ」

「はい?」


 クラリスはレオにあっけらかんと喋っている。

 レオは思わず返答問いをしてしまう。


「王城では一日に一食がほとんどだったのよ。それも、食事が運ばれて来ず、深夜に『朝食をお持ちしましたわ』なんて貴族出の王城奉公女官が、ニヤニヤしながらやってくるの。となるとね、わかるかしら?」

「そうなりますと、日を跨ぎその日の食事になるから、二日に一食になりますとか?」


「そうそう。もうね、食事のいびられが一番厳しかったわね」

「他には?」


「真冬に湯浴みならぬ水浴びなんて日常茶飯事だし、元々湯浴みなんて湯を用意してもらえないもの」

「では、どうやって、その……」


 体を綺麗にしていたのか? と、レオは訊きたいのだろう。


「寒くないなら井戸水で水浴びね。でも流石に、冬は薪拾いして火起こししていたわよ? ちょっとでも湯が沸けば、体を拭いて過ごしたわ」

「お訊ねしますが、侍女は?」


「王城奉公女官や侍女は皆貴族出よ? 誰が庶子の私に侍りたいと思うの?」


 だからこそ、クラリスの輿入れに随行する侍女はいなかったのだ。


「まあ、確かに」


 レオだって、平民出だからこそ雑用係の騎士だった。貴族出の騎士隊では雑用をする者が 居らず、平民が採用される。

 女官や侍女も同じで貴族出、召使い等の下働きが平民と決まっている。ブルグ国では貴族出でないと、高位の職には就けない。


「生活全般はお一人で?」

「十歳までは母が居たわ。色々と教え込まれたのよ。母が出奔してからは一人だったわね」


「逞しくて何よりにございます」

「ありがとう。可哀想にとか不憫だとかね、同情されるの嫌なの」


 レオがクラリスを見て笑った。

 クラリスも笑み返す。


「ところで、その古式ゆかしきお召し物は、いつお着替えしましょうか」

「そうよねえ……流石にこれじゃあねえ。リャン国に行ったなら、歴史博物館行きの格好よね。でも、これ以外に着替えられる物は……踊り子の母が残してくれた舞衣装しかないの」


 クラリスはボロボロの鞄を撫でる。

 舞衣装と替えの下着、裁縫道具程度しか入っていない鞄だ。


「お古をね、仕立て直ししたこともあったのだけれど、『ブルグ国の伝統的様相を汚すな』って切り刻まれたり盗まれたりして、結局二着着回しの歴史的召し物のまま過ごすことにしたのよ。まさか、運良くブルグ国から脱する機会が得られるなんて思わなくって、困ったことだわ」


 クラリスは片頬に手を当てて言った。

 鞄には着回し用のお古を入れてこなかった。小さな鞄だから舞衣装が入らなくなってしまうのだ。

 初日からクラリスは着たきり雀状態である。

 レオも気になっていたのだろう、三日も同じ服なのだから。


「次の町で購入致しましょう」

「手持ちはないのよ。持参金もないし。……普通、持参金を賠償金代わりにするはずなのにおかしな輿入れよね?」


 ブルグ国による人買い人攫いで、国境で小競り合いがあり、リャン国がブルグ国に勝ったのだから、普通は賠償金が発生するはずなのだ。

 それを、王女の輿入れを条件に持参金を賠償金代わりにするという交渉が普通だろう。


「リャン国は怒り心頭にならないかしら?」

「すでに怒り心頭かと。賠償金たる持参金の交渉時に、『王女様の買取り価格を決めましょうか。そちらも人買いですな、ブルグ国と同じで』と交渉役がかましたそうで、リャン国は矜持のために引いたそうです。怒り心頭というより、腸が煮えくり返っていましょうか」


 クラリスはヒューと口笛を吹く。


「ブルグ国は武力行使は下手でも、交渉事は上手いのね」

「貴族らしいと言いましょうか。ブルグ国の古狸は狡猾な口達者ですから、リャン国はまんまとのせられたのでございましょう」


「レオったら、詳しいわね」

「ハハハ、王城の騎士隊なんて、鍛錬より情報合戦に勤しんでいますから。自ずと耳に入ってきますので」


「じゃあ、私のことはやっぱり、醜女で我が儘、不出来だと?」

「ハハハ」

「笑って誤魔化さないでよお」


 クラリスは唇を尖らせた。


「最も関わりたくない王女だと。万が一でも押し付けられたら、出世は叶わないだろうと」

「だよね」


 庶子であっても、現王に可愛がられているならまだしも、煙たがられていたのだから、関わりを持ちたくないのは当然だ。


「そのおかげで、私に忠誠の騎士の役目が回ってきて、このように我が姫にお仕えできるのですからありがたいことです」

「フフッ、嬉しいことを言ってくれるのね」


「嫁入り道具たる私ですから、我が姫を彩る品々を私が見繕う許可をいただけませんか? 先ほどと同じ返答を」

「……嬉しいことを言ってくれるのね」


 クラリスはちょこっとだけ、涙ぐみそうになったのだった。





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