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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚28

 クラリスは思い出す。


『ブルグじゃあ、何人ぐらい側室が死んだんだっけ』とか。

『兄と姉らは、どんだけ生き残ってるんだっけ』とか。


 あの暴君が王位につき苛烈極まりない粛清が行われた。王位を脅かす者を排除したのだ。

 クラリスが生き残ったのは、ひとえに庶子であったことと、後ろ盾がいなかったことが大きい。

 踊り子の母は、ある意味クラリスを独りにすることで命の危機から救っていたし、自身も危険な王城からトンズラしちゃって難を逃れた。先見の明というやつなのかもしれない。


 そんな尋常ではないクラリスの思考をよそに、アレクが続ける。クラリスの横顔を見ながら。


「今の王妃は、子猫を生んだばかりの母猫の如く、周囲を警戒しているのだと思う。五年も手塩にかけて育ててきたアルトを遠ざけてしまった。……跡目問題が根底にある。王城内も望んでいるのだ、明確になることを。アルトは周囲の自分に対する変化で、それを感じ取っていた。だが、アルトは育ての親である王妃を求め、王妃の宮をうろつくようになる。ここからは、クラリス王女も察していることだろう。アルトは王妃の宮で、口の軽い女官から、トルドは王妃の子、アルトは側室の子だと耳にした。側室関連で、冷宮にブルグの王女が入ったとも。アルトは側室の宮を目指すことにした。側室が自分の母になるのだと望んで……」


 アレクが懺悔の如く続ける話を、クラリスは聞いちゃいない。

 ただ、アレクって今三十一、二かと年齢を計算していた。

 そんな当たり前の情報すら、クラリスは知らなかった。

 二十歳のクラリスとは十以上離れている。

 だが、ブルグ王城で生き延びるという人生の密度、経験値的には……クラリスの精神年齢は極めて高いだろう。


「……冷宮に通ずる花瓶裏に、アルトの靴が隠されていて……。……、……であって」


 アレクは、アルト失踪の捜索を話しているようだ。

 クラリスは聞き流しているけれど。


「……拐われたのだと勘違いして……、……。敵国……とまあ、……。……、……ことなのだ」


 長いアレクの釈明をクラリスはいよいよ聞くことも放棄しだす。ボーッとなる頭、クラリスは瞼が落ちそうになっていた。


「……それで、ブルグの人買いを追ったのは、アルトを生んだ側室の生家バーレイ辺境伯になる。側室が亡くなり、バーレイ辺境伯は王家と距離を置くようになった」


 ブルグとの言葉をクラリスの耳は逃さない。

 瞬時にアレクの話に耳を傾けた。


「つまり、アルトを支える者がいない。……私はまだ、跡目を決めていない。早急に決めれば、アルトも感じ取っている王城の妙に重く粘つくような雰囲気が、取り除かれるとは思うが、決めたからこその危うい動きにも繋がる。決めなくても同じで危うい動きが始まる。どうすればいいか……」


 クラリスは思った。

 ブルグの言葉に反応したけれど、この状況って……懺悔部屋の聞き役になってるようなもんじゃないのか、と。

 そして、続けて思った。

 なあーんも、お前にくれてやる言葉などねえってば、と。


 つうか、契約書はどうした! と、つと視線を戻した。


 バチッとアレクと視線が重なる。

 何か言葉を待っているような瞳に、クラリスは内心で『ウゲッ』と反応しておいた。

 で、契約書はどこだよ、と目で探す。

 ロイが書類を持っていることに気づいた。


 さあ、どうする?

 クラリスは話をどう切り替えようかと考えた。


「クラリス王女」


 アレクに呼ばれた。


「はい」


 と答えておく。


「つまり、アルトを貴方が世話するということは、貴方自身も危うい状況に陥ることを承知していただくことになる」

「ええ、承知致しました」


 クラリスは即答した。


「も、もう少し、熟考したほうが」

「陛下は躊躇する者になど、アルト王子を任せられますか?」


 クラリスはアレクを見据えて言った。


「いや、確かに」


 アレクがゾレスに視線を投げた。

 クラリスは怪訝そうに二人を見る。


「私は、貴方を冷遇した張本人だ」

「敵国王女を冷遇するのは当たり前では?」


 クラリスはフッと笑った。


「ブルグとリャンで見解の相違があるかと思いますが、体調不良でなど人は死にませんわ。ブルグで王族の病死は『暗殺』と同義語ですが、リャンでは違うのですか?」


 アレクが目を見開く。


「冷遇など、命を狙われることに比べたらやんちゃなおままごと程度のお遊びですよ」


 クラリスの肝はとんでもなく据わっているのだ。本人に自覚はないが。


「大丈夫です、お任せを。つまり、三年後、自由になった私がバーレイ辺境伯にアルト王子を送り届ければよろしいのですね?」

「は?」


 アレクは全くもってクラリスの思考に追いついていけていなかった。


「三年後?」

「ええ、『お前を愛することはない』婚だったかと。三年の白い結婚後、離縁し自由が確約されている契約ではなかったのですか?」


 クラリスは小首を傾げた。

 しっかりとロイの手元を見て。


「追加文は、アルト王子の命を守りお世話すること三年。バーレイ辺境伯に託すまでとの変更でよろしいかと」


 皆、絶句している。

 例外は当人クラリスとレオだけだろう。

 本当は、アルトも自身と同じで、十歳まで面倒をみたい気持ちもあるが、そこはバーレイ辺境伯とやらが引き継ぐことだろう。

 でも、自由が確約されているのなら、バーレイ辺境領で暮らすのもいいかな、とも思っていたり。


「ちょ……っと、待ってくれ……」






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