表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/48

ご褒美婚17

「署名致しかねます」


 クラリスはガッツリとロイの目を見て、キッパリと言い切った。


「……何かご不満がおありで? まさか、本当は閨を賜る側室におなりになりたいと?」


 小馬鹿にしたように、かつ、嘲るような視線でロイが言った。


「あ、いえいえ、そのような恐れ多いことを望んではいません。ただ、この書面の中身が色々と抜けております。……アレク陛下のお言葉を余す所なく書面に入れていただきたいと」

「はあ? どこが抜けているというのですか?」


 ロイが眉間にしわを寄せて問うた。


「一つ、離縁後は好きに生きろ、との文言。一つ、離縁後は職業に制約はなし、冒険者や旅芸人等も許可。それから、一つ、酔興に老婆になるまでの冷宮暮らしも可能。と、おっしゃったかと」


 クラリスは、一つ、一つ、と指を三本立てながら抜けを口にした。


「それは、言葉の綾というものでございましょうに」

「そう、なのですか……言葉の綾……」


 クラリスは期待が萎んでシュンとする。


「失礼。リャンでは陛下のお言葉を詳細に記さず、簡易なものとできるのですか?」


 レオが会話に入ってきた。


「は?」とロイ。


「ですから、陛下のお言葉に重みはなく、省略を許されているのかと」

「は!?」


「我が姫は、国の頂たる陛下のお言葉には、重みがあるものとだと認識しております。そのお言葉を例え言葉の綾だとしても、自身への戒めとして書面に留めておきたいと。敵国に輿入れした人質王女の矜持でございます」


 レオの言葉に、クラリスは首を何度も縦に振る。


「そ、うですかっ」


 ロイが唇の端を噛みながら、腹立たしげに言った。


「それから、私からも一つご指摘を」

「騎士ごときが何を!?」

「我が姫の口止めだけでよろしいので?」


 レオが書面の、

 一つ、冷宮暮らしの詳細を口外しない。

 を指差ししながら言った。


「私にも口止め記述が適応されるとの文言が必要かと。こう言っては失礼でしょうが、詰めが甘いですね」

「っ!?」


 ロイは唇を完全に噛み、強く握り拳を作っていた。


「こういう契約事は、綿密に練ることをおすすめ致します。もしくは、状況に応じて都度加筆署名することを一筆入れるのも手かと。半年に一度を更新期間とするのもありですね。この契約書面は、なんというか……勢いに任せて作られたものだと丸わかりですよ。口悪いですが、こんなもんでいいだろう的に」


 レオがロイに書面を返した。

 ロイが書面の端をグシャッと握る。


「大いに参考になりました」


 ロイがいかにもといった寒い笑みを浮かべている。

 そして、レオからクラリスへと視線を移した。


「一言一句余す所なく陛下にお伝え致しましょう」


 いいのか? このまま伝えれば、

 心象を悪くするぞ、

 機嫌を損ねるぞ、

 逆鱗に触れるかもな、

 との言葉裏が隠れていよう。


「はい! 是非お願い致します」


 クラリスは元気良く応じる。


 ピキッ


 ロイの笑みがそんな音を立てたかのように、ひび割れ固まっていたが、クラリスにはわからない。

 怯む者の感覚は肌感でわかるクラリスであるが、それ以外はてんでわからないから。


「良かったですね、我が姫。問答無用の強制書面ではなくて」


 レオがさらに、ロイの笑みを固まらせる。


「互いに主を支える身。ロイ様の心中お察し致します。どうぞ」


 それこそ有無を言わさず強制的に、レオが扉のノブに手をかけ退室を促したのだった。




 ロイの報告を受ける。

 握られしわくちゃになった書面を見ながら。


 アレクは、冷宮からの追撃にしばし放心した。

 思考が回復すると、初見の痛恨の一撃と同等のダメージを受ける。名を知らせたいあまりに、熟考なく作り上げた書面であると理解したから。

 なんなら、追撃内容の方が大打撃である。


 契約書面の抜けやら不備。あり得ぬ事態だ。


「見事なまでの難癖です! やはり、あのブルグの王女は腹に一物ある曲者、忠犬(きし)野郎も小言を吠える!」


 ロイがダンダンと踵を鳴らし、大きな貧乏揺すりをしている。


「どっちが主導権を握っているのか、わかっていない!」


 ロイが苛立ちを声にのせている。


「正確で真っ当な指摘だから、苛ついているのだろ? ロイ、冷静になれ」


 アレクはロイを宥めた。

 ロイがムッとした表情でそっぽを向く。

 アレクと視線を合わせない。こういうときのロイは何かを隠しているのだ。


「ロイ、何を隠している?」

「別に何もありません」


 そう言うわりには、アレクの視線から目を逸らしている。


「ロイ、言え」

「署名していないから、冷遇続行だと思いまして、……」


 ロイが続けない。


「続きを言え」

「……どうせ、雀の涙程度しか食べないとガニオ将軍から聞いておりましたから、カチコチパンと野菜のくずスープを届けさせました!」


 ロイが投げやりに言った。

 だが、まだロイはアレクを見ない。


「他には?」

「……」


 小さくブツブツ言っている。


「ロイ!」

「別にあの二人には何も……。冷宮配備の者に美味しい肉を届けましたよ。冷宮配属になって、心がやさぐれていましたから、せめてもの気遣いです。持ち場を離れられないだろうから、屋敷を監視しながら焼いて食べろと」


 冷宮の主がカチコチパンと野菜のくずスープで腹を満たしている中、屋敷外で冷宮配属の者が、肉を焼いて食べる、というのはなんともこれ見よがしであろう。


「お前なあ……」


 アレクは呆れたように天を仰いだ。


「そのせいで、書面内容が増える」

「はい?」


 アレクはロイの頭をゴツンと叩いた。


「いいか、私があの鋭い騎士なら、署名する前の冷宮暮らしは口外できると考える。その辺も、詳細に綿密に練った書面を作らねば、また指摘されることになるわけだ」

「っ! ……申し訳ありません」


 ロイが失敗を自覚し、しでかしてしまった、と顔を歪ませた。


「リャンは浅いと……短慮だと思われているだろう」


 ことクラリス王女に関しては、どうも調子が狂うな、とアレクは頭を掻いたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ