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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚13

 所戻って冷宮。


 スッキリしたクラリスはロビーに戻っていた。

 ピエロ化粧もついでに落として。


「広すぎて……サブッ」


 クラリスは両手で腕を擦りながら言った。


「小屋の隙間風とは違う寒さですね」


 レオも同意する。

 クラリスは掘っ立て小屋、レオが馬小屋暮らしだった頃との比較である


「とりあえず、一階は全て開け放ち網羅しましたから、屋敷一階の全容を知れましたね。二階はどうします? あっちの裏階段から行けそうですよ」


 ロビー正面の大階段は数段抜け落ちているが、いわゆる使用人が使う石作りの裏階段は生きていた。


「二階なら、個室があるかもね」


 一階は大きな食卓部屋やら、ティールームやら、遊戯室に音楽室、展示部屋等々、社交場ばかりでどの部屋も広いのだ。

 貴族の一般的屋敷同等、それ以上である。今は冷宮であったとて、過去には華やかな社交の宮であったに違いない。


 それこそ、クラリスには見慣れた古式ゆかしきブルグの城的である。だから、リャンでは使われなくなったのだろう。


「今日のねぐらを探しに、いざ二階へ!」


 相変わらず、王女らしからぬ『ねぐら』発言である。


 だが、


 ドンドンドン


 出入口の扉を強く叩く音。

 クラリスとレオは首を傾げる。


 ドンドンドン


『開けてください』


 聞き慣れた声だった。

 レオが扉を開ける。


 そこに立っていたのは二人。

 いつもの二人。

 あの二人。


 たぶん、クラリスの担当になってしまったのだろう。本人らも予想していた通りに。


「荷物をお持ち致しました」


 例によって憮然として不満を纏った声で言った。

 一人が、手荒に小汚い鞄と大鞄をドサッと置く。もう一人が、薪の束をポイポイポイッポイポイポイッと放る。


「外で警護しております。御用の際はお声がけください。では」


 バタンッ


 有無を言わさず、出入口の扉は閉まった……遮断のように。


「……わ、わあお」


 クラリスはどういう反応をすればいいのかわからず、なんとなくの『わあお』である。

 いつもは一人でいびられていたから、別段何も反応しなかったが、今はレオがいるのだ。


「わあお、薪の配給なんて、リャンは優しさの固まりね」

「冷遇しているようでいて、しきれていない感じですね。いえ、リャンの最上級の冷遇が私たちには好待遇?」


「うん! その通り」

「とりあえず、ロビーの暖炉の火をつけましょうか、我が姫」

「助かるわあ」


 レオが暖炉を点検し、クラリスは薪を運ぶ。

 薪の束は全部で六束。


「針葉樹二束、広葉樹四束みたい」


 クラリスは、暖炉の点検をしているレオの横で薪を仕分ける。薪拾いをしていたクラリスは、薪には詳しいのだ。

 手際よく、細い薪と太い薪に分けていく。


「問題ないようです。というか、使えるようにしておいた感はありますね」


 レオが煙突を確認して言った。


「あ、やっぱり? 詰めが甘いというか、詰めきれていないのね、リャンは。ブルグなら煙突掃除からやらされるはず。真っ黒になった姿を見てゲーラゲラ笑うのよ」


「その言いようは、すでに経験ありですか?」

「あら、バレちゃった?」


 クラリスはあっけらかんと口にした。


「やっぱり、今日はロビー暖炉前をねぐらとする! おー」


 クラリスは掛け声つきで拳を突き上げた。


「我が姫の仰せのままに」


 レオが細い薪を懐刀を使って薄く削ぎ焚付(フェザースティック)に加工した。

 クラリスは太い薪を空気の通り道を考えて組む。


「何気に蝋燭も灯っているし、火起こしせずにすんで良かったわね」


 クラリスはロビーで灯っていた燭台を持ってきてレオに渡す。


「リャンの対応に拍子抜けですね」

「でもまだ期待はできるわ。食事のいびりが残っているもの」


「いびりを期待してどうするのですか、我が姫」

「あらま、それもそうよね。私ったら、リャンの優しさに逆張りを期待しちゃったわ」


 とまあ、通常運転の二人であった。




 トテトテ

 トテトテ


 小さな物体は身を隠しながら行き慣れた場でさ迷う。


「アルト王子、アルト王子! どこにいらっしゃいますか!?」


 カーテンに隠れてやり過ごす。


 トテトテ

 トテトテ


 見知った女官らの姿が見え、アルトはまた身を隠す。


「アルト王子ったら、また逃げ出したみたいよ」

「あらまあ」

「このまま見つからなければいいのにね」

「シッ、なんてことを言うのよ」

「……だって、嫡男ご誕生だもの。存在自体が厄介になっているわ」


 五歳でも話の雰囲気でわかるものだ。

 自分に向けられていた優しい顔つきが、別の顔つきに変わっていることを。

 王城の皆が自分に向ける微妙な視線を肌感で。


 怖くて怖くて、苦しくて苦しくて、逃げてしまう。逃げる場もわからないのに。

 いつしか、母(王妃)の宮には行けなくなってしまった。



 母(王妃)から言われたから。

『そろそろ、アルトはひとりで過ごしてね』

『どうして?』

『良い子のアルトならできるから』

『……はぃ』

『アルトは五歳でしょ?』

『はい』

『この子もアルトと同じで、母(私)の温もりを五歳まで独り占めさせてあげないとね』

 アルトはキュゥッと苦しくなって、声が出なかった。

『アルト、お返事はないの?』

 ハッとして母(王妃)の顔を見ると……母の顔なのに母の顔ではなかった。怖かった。

『今度は、この子の番』

 自分に向けられていた母の顔は、小さな弟に向けられている。

 それを目の当たりにして、アルトは呆然とした。



「そろそろアルト王子も自身のお立場をご理解していくでしょうね」

「王妃様のお子でなく、側室のお子だと?」


 アルトの耳に女官の会話が入ってくる。


「そういえば、ブルグの側室が冷宮に入ったのでしょ?」

「そうそう、みじめに暮らしているはずね」


 女官の言葉に、幼いアルトの思考は答えを見つけ出す。


『僕は側室の子、弟は母(王妃)の子』


 僕が行く場は側室がいる所。


 トテトテ

 トテトテ





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