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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚12

 所変わって主城。


 リャン国王アレクに、ロイとガニオ両名でクラリスの報告を行っている。


「ロイ、どんな具合だった?」

「屋敷を指差し、『私がこんな屋敷に住むのですか?』と。酷い有り様の宮に驚愕していました」


 いや、クラリスは掘っ立て小屋からの宮に驚愕していたのだが……。

 言うならばーー

『私がこんな(大きな)屋敷に住むのですか?』

 もしくは、

『私がこんな(立派な)屋敷に住むのですか?』

 ーーてなもんである。


「不満を募らせておりましょう。守備は上々です」

「そうか」


 ロイの報告にアレクは頷く。


「ですが……」

「なんだ?」


 言い淀むロイにアレクは問うた。


「あの騎士が居りますので……クラリス王女を宥めておりましょう。一筋縄ではいかないかと」

「騎士……忠誠の騎士だったか。ブルグは相変わらず、古めかしいな」


 忠誠を誓う騎士という存在は、古い昔話のようでリャン国ではすでに廃れている。

 もちろん、騎士は存在しているが実力主義で合理的に配置配備される。希望や心意気、身分で配属が決まることはない。


「それにしても、気味の悪い王女です。素顔を隠すように化けており、貴族たちも呆気にとられて……上手く対処できておりませんでしたし」


 いや、これまたクラリスにそんな意図はない。


「知略に長けている?」


 アレクはポツリと呟いた。


「気味が悪い、私もそう感じました。確かに、知略……ええ、私もまんまと初見でやられましたので」


 今度はガニオが苦々しげに口を開いた。


「土下座でリャン国行きを懇願だったか」

 とアレク。

「はい。とんでもなく潔く膝をつき、迎えの私どもが悪し様に見えたでしょう」

 とガニオ。

「それは確かに、知略がありそうです」

 とロイ。


 完全に勘違いをしている三名である。


「見窄らしい着たきり雀を崩すことなく王都まで来ましたし、雀のような食事量も気味悪く。従順ではありましたが……得体のしれない気味悪さなのです」


 ガニオが口元に手を当て小さくため息をついた。


「ブルグのあの暴君から、密命があるやもしれませんね」


 ロイが言った。


「見窄らしさで同情を誘い、籠絡を目論んでいる……にしては、美貌が伴っていないと言いましょうか……貧相な体つきと言いましょうか」


 ガニオが言葉を選びながら言った。


「暗殺……とか、いやいや、ブルグの王女が裏稼業とかないか」


 ロイが口に出したものの首を横に振って否定する。


「そのような腕力も伴っていないですな。暗殺者独特の気配も、手練的雰囲気も持ち合わせていないかと」


 ガニオもロイの思考と同調して言った。


「つまりは、何を考えているかわからず気味が悪い?」


 アレクが告げる。

 ロイとガニオが頷いた。


「とりあえず、どう対処すべきだと思う?」


 アレクは二人に訊いた。


「冷遇を続けましょう。あの冷宮で世話係、勤め人もいない状態で、音を上げるのを期待するのも手かと。もしくは、不遇な暮らしに爆発し、あの騎士と出奔でもしてくれたら御の字。ブルグの王女なら耐えられませんよ、あの冷宮暮らしは」


 そう言って、ロイがフンと鼻で笑う。


「いや、着たきり雀を続けた強靭さを持っている王女です。冷遇も耐える可能性もありましょう」


 ガニオが忌々しげに言った。


「ならば、さっさとあれを実行して出鼻をくじいておきませんか」

「あれ、とは?」


 ロイの発言に、ガニオが問うた。


「陛下が『お前を愛することはない』宣言をクラリス王女にかますのです」


 そう言って、ロイがニヤリと笑った。


「なるほどなるほど。陛下に拒絶され、居は冷宮にして勤め人を置かず冷遇する。クラリス王女がどう出るかを見定めるわけですか」


 ガニオが納得だと言わんばかりに腕組みし頷く。


「はあ、その臭い台詞を口にするのか……」


 アレクはため息とともに若干遠い目をした。


「白い結婚の離縁なら三年の辛抱です。陛下は初見を終えれば我関せずでお過ごしくださればいいのですよ。三年待たず、出奔もしくは永遠の里帰りが希望ですが」


 ロイが言った。


「触らぬ神に祟りなしか」

「陛下、憎きブルグの王女を神になど例えないでください」


 ガニオが憮然としながら言った。


「クラリス王女の祟り……企てなり目論みがなんであれ、あの冷宮に留めおけば手も足も出せません。三年放っといて、その後は好きにしろと放流すれば解決です」


 ロイが再度念を押すように口にした。


「まあなあ」


 アレクは顎を擦りながら生返事をした。


 その時、


 バタバタ

 バタバタ


 廊下が騒がしくなり、三人は出入口の扉に視線を動かす。


 コンコンコン

 コンコンコン


「入れろ」


 アレクの指示でロイが扉を開ける。


「失礼致します」


 焦った顔つきの老齢の男が膝をつく。

 男の後ろにも、慌てている女官が二名。


 アレクはまたいつものことか、と額に手を当てた。


「またか?」

「はい、またでございます。アルト王子を見失いましてございます。度重なる失態、どうか私めの首を」


「待て待て待て、ゾレス」


 老齢の男ゾレスが詰襟を解き、首を差し出さんとするのをアレクは止めた。


「五歳のやんちゃ盛りの通常だ、気にするな」


 アレクの息子アルトの教育係がゾレスである。

 今日も今日とて、アルトにゾレスはまかれたのだ。


「ガニオ、捜索を。ああ、それから、冷宮にも警護をつけておけ」

「はっ、かしこまりました」


 ガニオがゾレスとともに出ていき、執務室にはアレクとロイだけとなった。


「……アルト王子は、城内の微妙な雰囲気を感じ取ってるのでしょう」

「まあ、な」


 アレクの口は重い、クラリスのことそれ以上に。


「アルト王子は微妙なお立場になりましたし」


 アレクは応じなかった。

 だから、ロイも口を閉ざす。


 嫡長子の誕生。

 正室である王妃が嫡男を出産したのだ。

 アルト王子は嫡男ではない。長らく懐妊しなかった王妃に代わり、側室を召し授かった長子である。

 その側室も……産後の肥立ちが悪く儚くなった。


 王妃が母代わりとなって育てていたのだが……今は赤子にかかりきりである。アルト王子を遠ざけるように。


 平穏だったリャン国に、跡目問題と敵国王女輿入れという不穏な雰囲気が流れはじめていたのだった。





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