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ご褒美婚賜ります  作者: 桃巴


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ご褒美婚10

「ただいま、受け入れ態勢を整えておりますので、今しばらく王都にてのんびりお過ごしください、と陛下からの言伝でございます」


 ロイはガニオ将軍の横にちんまりと立っているクラリスに言った。


「はい」

「……」


 ブルグの王女なら、待たせるなんてなんて失礼なの、とでも罵詈雑言の嵐だろうと思っていたが、すんなり受け入れる返答だった。

 ロイは肩透かしを食らった気分である。


「ふぅふぁっ」


 クラリスから奇妙な音がもれる。

 口元を慌てて押さえたクラリスを、ロイは訝しげに観察する。


 長旅の疲れだろうか、顔色が悪い。悪いどころの話でなく、隈が酷い。頬も痩けているし……痩せすぎている。

 髪は……艶なし。肌は荒れているようだ。なぜ、化粧をしていないのか? だが、衣装はまあまあか? いや、王女然とはしていない衣装だ。平民の一張羅的な。旅の服ということだろうか?

 それに……どこを見ても装飾品がない。

 ロイは視線を下げていく。

 靴……これがブルグの王女の靴?

 おかしい。おかしすぎる。


 くたびれた古いマネキンにちょっと見栄えの良い衣装を着せている、そんな感じ。


 ひと言で言うなら、気味が悪い。

 ……得体のしれない何かを感じる。

 とても奇妙な感覚だった。


 ロイは、ガニオ将軍を一瞥する。


「ガニオ将軍は、陛下に到着の正式報告をしてください。一緒に参りましょう」


 厳つい顔が小さく頷いた。

 この気味の悪いクラリス王女に関して、ガニオ将軍から何かしら情報を得ておこうと、ロイは指示したのだ。




 立ち去るロイとガニオをクラリスとレオは見送る。


「どうぞ、お部屋に」


 市場で案内係をした二人が、クラリスを促した。

 あの日から、二人はクラリスの担当になったようだ。不本意だと二人の顔つきでわかる。


 だが、クラリスにはどうすることもできない。

 ただ「はい」と返答し言う通りにするだけ。


 レオがちゃんと控えているかを一瞥し、また二人のお小言のような視線に縮こまって俯く。


「私たちは扉番をしていますので、何かご用があればお声がけを」

「はい」


 パタンと扉が閉められた。


『チッ』


 舌打ちが聞こえた。

 案内係の二人のうちの一人だろう。


『このまま王城でも、王女の担当になるのだけは避けたいな』

『ああ、本当に。あえて、何かヘマをしでかすとかどうだ?』


『どんなヘマすりゃいいんだよ? 担当は外れても配属先がまともじゃなくなるぞ』

『だよなあ』


 聞こえてくる会話に、クラリスは苦笑いする。

 本人らは小声で話していて、聞こえていないと思っているだろう。

 クラリスもレオも、扉に耳を当てて聞いているのだ。


 なぜ、そんなことをしているのかって?


『どうします? 今日はひと仕事(ヒーラヒラ)行きますか?』

『止めとくわ。受け入れ態勢だっけ? 猶予ができたから……寝たい』


 抜け出せるのかを、扉越しで確認していたのだ。


『まあ、確かに。我が姫、先ほどは欠伸を噛み殺したでしょ?』

『うん。あのロイって奴だっけ? にガン見されてたように思うわ』


『あれは、我が姫を観察していたかと』

『え? もしや、私に一目惚れとか』


『ないっすね』

『ないよねー』


『初見のガニオ様と同じで、我が姫の出で立ちが妙だと思ったのでしょう』

『だよねえ。ドレス的な物はできたけれどさ』


『チグハグな出で立ちになりましたからね』

『うん。的な物だけが悪目立ちしちゃって、着られないとは』


 クラリスはレオに買ってもらった一張羅をずっと着ている。

 下着と下穿きは辛うじてあの端切れで替えを縫い上げ、毎日交換しているが。


『髪や肌の手入れに、お化粧。靴に宝石。間に合いませんね』

『だね。外の二人にまた案内してもらう?』


 その他諸々を準備するには、王都に繰り出さなければならない。

 ただ、お金は乏しい。


『とりあえず、あっちに』


 扉近くではヒソヒソ会話しかできない、とレオが窓辺へと促した。

 今度は外の様子を確認する。


「流石、王都だね」


 クラリスは外の景色を眺めて言った。

 リャンの町はどこも活気がある。旅路で見てきたブルグとは雲泥の差だ。


「……私、大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、我が姫なら」


「何がって訊かなくてもわかるの?」

「ちゃんと側室になれるかどうかでしょ」


「そ」

「だから、大丈夫だとお答えしました、我が姫」


 レオの言葉には根拠がないが安心感がある。


 ブルグとリャンは雲泥の差。

 貧相なクラリス自身がそのままブルグを体現しているようで、ちょっとだけいたたまれなくなっていたのだ。


「王都まで入って、突き返すような外交をリャン国はしないでしょう」


 レオの予想は確かに当たっている。


「ブルグの最底辺暮らしから、リャンの最底辺暮らしの比較ができましょう」

「あら、それならきっと、素晴らしい暮らしになることだわ」


 おかしな会話をしている自覚が二人にはない。

 だが、事実だ。敵国王女の輿入れなのだから。

 それも賠償金代わりの持参金もない王女が嫁いで、歓待されるなどあり得ない。


 それでも、ブルグの暮らしよりリャンでの不遇な暮らし方が格段に上だろうと二人は期待していたのだった。





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