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ご褒美婚1

 何それ、ご褒美じゃないのぉぉぉぉ


 表情筋は内心の喜声とは違い、穏やかに微笑んでいる。


「わかったのか!? クラリス!」

「はい」


 クラリスは少しばかり顔を上げた。


 ヒュン

 ガッシャーン


 投げられたグラスが割れる。

 その破片で、クラリスの痩けた頬に一筋の朱色を作っていた。


「その気色の悪い顔を晒すな!」


 クラリスは深く頭を下げる。


「はい、申し訳ありません」

「あなた、お止めになって。傷物を送れないわ」

「チッ、そうだな」


 ブルグ国玉座を牛耳る暴君と悪妃がクラリスを忌々しそうに眺める。


「醜女で我が儘、不出来なお前が役に立つ機会だ」

「ええ、そうよ、クラリス。散々いびられて過ごしなさいね。なんたって、我が国に悪感情しかないリャン国へ輿入れするのだもの」


 ブルグ国とリャン国は互いに毛嫌いし敵視しあっている関係だ。


 貴族中心の古き習わしに浸かるブルグ国と、能力者主義の新しきを取り入れるリャン国では相容れないのは当然だろう。


 そんな両国で輿入れの話が上がったのは、国境の小競り合いでブルグ国がリャン国に敗れたからである。


 元はと言えば、ブルグ国の悪事から端を発している。リャン国で人買い人攫いを秘密裏に行っていたのだ。

 事が発覚し、リャン国は国境を越えようとするブルグ国の人買い商人を追った。

 自国民奪還の剣を掲げたわけだ。


 両国での久々の小競り合いだった。


 なぜなら、新しい武器を用いるリャン国に対して、ブルグ国は伝統的、古式武器で応戦しており、連敗に連敗を重ね、最近では国境線で睨み合いをするに留めていたからだ。否、勝ち目なく手出しできなくなっていたのだ。……表面上は。


 古き良きならぬ、古き悪しきブルグ国の暴君や貴族らは、秘密裏にリャン国の民を買って攫ってとしていたのだから、マジもんの手出しである。


 さて、当たり前にリャン国が勝利を収め、今まで奪われたリャン国の民返還に加え、ブルグ国に人質を求めるに至った。

 口悪く言えば、次にまたリャン国の民に手出ししたら、ブルグ国の人質にも手を出すぞってなやつである。


 もちろん、そんな物騒なことを大大的に言うわけもなく、別の言葉に変わるわけだ。


『ブルグ国王女をリャン国に輿入れされたし』とね。


 それで、クラリスである。

 クラリスはれっきとした王女であることに間違いはない。

 ただし、先代王が老いてからぁの。踊り子に手を出してぇの。

 代替わりしたとて、王の娘は王女なわけだ。庶子であったとしても。そして、クラリスの目前の現王は、腹違いの兄でもある。


 リャン国も詰めが甘い。

 現王の娘と指定しないのが悪いのだ。

 そのあたりの交渉は、ブルグ国の方が上手だったのだろう。古狸の手柄といったところか。


 さてさて、当のクラリスは悪妃のいびられ発言に失笑する。

『ブルグ以上にいびられるのかしら?』と内心で思ってしまったからだ。

 顔は深く伏せていたから、気づかれてはいない。


 クラリスはブルグ国では、醜女で我が儘、不出来のレッテルを貼られている。

 醜女……一日に一食でガリガリに痩せているのだからしょうがない。

 我が儘……夜会などの社交をしない。王女として教育されておらず、所作もダンスもできない。ドレスも超絶お古しか与えられていないのだから無理なもんである。

 不出来……上記に同じ理由ってなものである。


 いわゆる、庶子の待遇などブルグ国ではそんなものなのだ。なぜかって? 貴族然とした古き習わしのブルグ国だから。庶民を母に持つ庶子など格好の餌者。

 加虐心を満たす玩具の扱いだろう。


 つまり、クラリスにとってこの輿入れは渡りに船。


 何それ、ご褒美じゃないのぉぉぉぉ


 となるわけだ。


『一生ここでいびられるより、新天地でいびられた方が新鮮で良いに決まっているわ』


 いびられる前提なのはおかしいが。

 とういわけで、クラリスの輿入れは決まったのである。





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