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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
最終章:カスミ後編〜悪魔の力と光の一族〜
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97.癒し


 回復の任務の直後、体調が悪くなった私は公園のベンチに倒れ込んだ。

 まずいな。

 またやっちゃった。

 イブキに心配かけちゃう⋯⋯

 

 いつまでも気分の悪さが治まらないので、しばらくそのまま横になっていると、こちらに走って来る足音が聞こえてきた。


「カスミ! 大丈夫?」


 イブキが息を切らしながら、心配そうに顔を覗き込んで来る。

 その顔を見て、我慢していたものが一気に溢れ出す。


「ごめん。イブキとの約束破っちゃった。無理しないって約束したのに。でも、もうがんばるしかなくって。それなのに、どれも上手く行ってる気がしなくって⋯⋯」


 どんどん溢れる涙をイブキは無言で拭いてくれた。

 大泣きしている内に眠たくなった私はすぐに眠ってしまった。



 気がついたら、夕方になっていた。

 私は横向きに寝ていて、優しく頭を撫でられている。

 イブキはずっと撫でてくれてたのかな。

 それになんか耳の下に枕がある。

 ん?これはいったい⋯⋯

 枕を撫で回していると上から声が降ってきた。


「触りすぎ。その手つきはだめ」

 

 仰向けになって見上げると、少し顔が赤くなっているイブキが私を見下ろしていた。

 どうやらイブキが膝枕をしてくれているらしい。


「あぁ、なんて贅沢な⋯⋯ここは天国⋯⋯」

「なに言ってるの? 病院行く?」

「心配してくれてるの? それとも⋯⋯」

「心配してるに決まってる」


 本当に心配そうな顔だ。


「もう大丈夫! 寝たらすっきり復活!」


 ゆっくりと起き上がってイブキの隣に座った。



「リョウから聞いた。頑張って考えてたダンスに文句言われて手直ししてるって」


 イブキの声は少し怒っているように聞こえた。


「それで今日はやっと休めるはずだったのに、サツキのために交代したんでしょ? 自分もボロボロなのに。無理しすぎ」

 

「でもイブキは今まで学校が終わってすぐに回復チームの後処理をしてから、妖怪退治のハシゴだってざらだったでしょ? 私もこれくらいなら出来るしやらないとと思って⋯⋯」


「確かにそうだけど、カスミと俺とでは元々の体力も違うし、使ってる力の種類も違うでしょ? 一緒にしないほうがいい」


「そうだけど⋯⋯」


 イブキは私の目をじっと見ている。

 それからゆっくり口を開いた。


「この活動はアヤメちゃんが言い出したことで、カスミと俺とシオンの三人が同意したから始まったでしょ? 元々はちょっとした慈善活動だったはず。そのせいでカスミがこんなにボロボロになるなら俺はもうやりたくない。明日以降の予定は全部キャンセルするってアヤメちゃんに連絡するから」


 そう言ってイブキはスマホを取り出した。


「ちょっと待って! それだけはだめ! 私が自己管理出来なかったのが悪いだけだから! 困ってる人をほっとくなんて出来ないよ!」


 私はスマホを持つイブキの手を押さえた。


「俺にとってはカスミより大事なものなんてない。カスミを傷つけるものは全て排除したいのが本音。一つしかないその身体で出来ることは限られてる。カスミが大切にしたいものは何? 何をがんばりたい? 自分で決められないなら俺は⋯⋯」


 "リョウに言う"

 きっとイブキは今度はそう言うつもりだ。

 けど、それもだめだ。

 リョウくんだって好きで団長をやってるわけじゃないのに、毎日自分の役割を責任を持って全うしている。

 それに、私が忙しいのはリョウくんに指示されたからじゃなくて、全部自分で決めたことだ。

 

「イブキ、ありがとう。もう大丈夫。自分で言えるから。リョウくんには言わないで」


 いつまでもイブキにこんなことを言わせて、守ってもらう訳にはいかない。

 私は覚悟を決めた。


 

 週明けの月曜日。

 ミナちゃんと、ダンスの手直しを手伝ってくれている子たちに声をかけた。

 そろそろ団員のみんなにダンスを教えないといけないからと、焦ってカツカツのスケジュールで手直しを続けて来たけど、もうそろそろケリをつけたいということ、自分のキャパが限界だということを伝えた。

 

 ミナちゃんは私の意見に大きく頷いてくれた。

 手直しを手伝ってくれた子たちは、やるからには完璧にしないとと思っていたけど、引き際がわからなくなっていたことと、元々のダンスに口を出しすぎたことを謝罪してくれた。


 そして予定よりかなり遅れてダンスの全体練習が始まり、なんとか形になった所で当日を迎えた。



 体育祭当日。

 やはり朝から女子は身支度に大忙しだった。

 ただし、私とリョウくんとミナちゃんは実行委員だからと、みんなとは別の服も用意されている。

 赤と白のボーダーのTシャツに、水色のデニム。

 世界中の人に探されている、某有名絵本の主人公がモチーフだ。


 準備のためにこの格好で校内を歩いていると、あちらこちらで記念写真を依頼された。


 

 運動場に出ると各クラスの実行委員が続々と出てきた。

 カケルくんとマユちゃんは勇者パーティの仮装をしている。

 忙しそうだから後で一緒に撮ってもらおう。


 そしてイブキはというと、某魔法学校の生徒の仮装をしていた。

 かっこいい⋯⋯

 髪が茶色で色白で、背も高いからよく似合うな。

 吸い寄せられるように近づく。


「あ。見つけた」


 イブキが私を指さす。


「あはは! おめでとう!」


 イブキがボケてくれた貴重な瞬間だ。

 その後撮ってもらったツーショット写真は、二人ともいい笑顔だった。


「じゃあ、ここからはライバル同士」

「うん! 負けないから!」


 私たちは拳をコツンとぶつけあった。



 開会式が始まり、各団の団長が順番に全校生徒の前で、意気込みを叫ぶ。

 リョウくんは団長として勇ましく団員たちを鼓舞した。


 それからすぐに私たち三人も団のTシャツに着替え、私にとっての最大の難関、応援ダンスが始まった。

 私たちは練習期間が少なかったわりには形になっていたと思う。



 各競技が始まり、再び私たち三人は仮装に着替える。

 テントから声援を送っていると、クラスメイトや後輩たちが記念写真に誘ってくれたので順番に応えていく。

 みんなが私がデザインしたTシャツを着て、笑顔で話しかけてくれることに報われた気がしたのと、胸が熱くなるのを感じた。

 リョウくんは後輩の女の子たちに囲まれていた。

 

 それを見て、一つ飛ばしで離れているF団のテントを確認すると⋯⋯イブキも後輩に囲まれているみたいだった。



 あっという間にクラス対抗リレーの時間がやって来た。

 一年生、二年生と順番にレースが行われ、各学年の勝者が決まる。

 残念ながらD団のクラスは勝ち進めなかった。

 

 続いて三年生のレースが開始される。

 うちのクラスのアンカーはもちろんリョウくんで、3組がカケルくん、6組はイブキだ。



「位置について〜! よーいドン!」

 

 合図とともに、各クラスの第一走者が走り出す。


「ミナちゃんがんばれ〜! コイズミさんがんばれ〜!」


 仮装したまま元気に応援する。

 最終学年のリレーということもあり、会場は大盛り上がりだ。

 

 そしてとうとうアンカーにバトンが渡った。

 順位はリョウくん、イブキの接戦で、少しあいてカケルくんだ。


「カケル先輩〜!」

「ソノベ先輩〜!」

「イブキ先輩〜!」


 各テントの後輩女子たちが黄色い声援を送っている。

 もう私の声はかき消されそうなくらい。

 だったら好きに叫んでもいいかな。


「リョウくんリョウくんカケルくんリョウくん、イ〜ブ〜キ〜!!」


 呪文のように叫ぶ。

 

 そして結果は⋯⋯イブキ、リョウくん、カケルくんの順だった。


 クラス対抗リレーは3年6組が優勝になった。

 気になる総合順位はF団が優勝で、D団は入賞ならずだった。

 ただ、デザイン部門の一位がイブキで二位が私、ダンス部門の三位に私たち4組が選ばれた。

 自分の出来ることを精一杯やってきた成果は報われたらしかった。


 その日は団の打ち上げもあり、クタクタになって帰宅した。



 翌日の休日。

 イブキが家に遊びに来てくれた。


「イブキ優勝おめでとう! デザイン賞もすごいし、リレーもかっこよかったよ!」

 

 イブキに抱きつきながら労う。


「ありがとう。カスミもデザインとダンス、がんばった甲斐があったね」 

 

 イブキは優しく頭を撫でてくれた。


「カスミにはご褒美」


 イブキはそう言うと私をベッドに引っ張ってうつ伏せにさせ、私の膝の辺りに馬乗りになって、肩もみを始めた。


「え! いいの? やった〜もうバッキバキで」


 目を閉じてマッサージを受ける。

 肩、背中、腰、ふくらはぎと順番にほぐされる。

 イブキのツボ押しは的確だった。

 手も温かくて力加減もちょうどよくていい気持ちだ。

 さすがリラクゼーションサロンの息子。


「リレーの時、俺のこと応援してくれてありがとう」


「あんなにうるさかったのに聞こえたの? 聞こえないと思って私情を挟んだんだけど⋯⋯」


 実行委員としては本来、他クラスの応援なんてもってのほかだ。


「カスミの声はよく通るからわかる。だから、あんまり大きい声出さないようにしないとね」


 イブキはそう言ったかと思うと、私の腰を指でつーっと撫でた。


「いやぁ!」


 いつかの時のように怪しい声が出て慌てて手で口を塞ぐ。

 イブキはいたずらが成功した子どもみたいに笑って、腰と背中をくすぐってくる。


「やったな!」


 立ち上がってイブキにのしかかり、うつ伏せにさせる。

 イブキの真似をして、背中や腰をくすぐる。


「はは! くすぐったい。無理!」


 イブキは声を出して笑い始めた。

 これはこれは、かなりレアな姿なのでは?

 長く一緒にいても見られない顔があるもんだな。

 

 一気に楽しくなった私はそのままイブキをくすぐった。

 大騒ぎしていたのでお父さんにバレて、呆れたように叱られたのだった。

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