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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
最終章:カスミ後編〜悪魔の力と光の一族〜
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96.リーダー


 四月、私たちは高校三年生になった。

 クラス替えの結果、今年もイブキとは同じクラスになれなかった。

 イブキはリコちゃんと6組、私はリョウくんとミナちゃんと4組になった。

 三年生の選択科目で、理数系か外国語を選択した人が前半クラス、文系を選択した人が後半クラスになったらしい。


 うちのクラスの雰囲気はというと、リョウくんと数人のリーダーの資質があるメンバーを除いては、大人しくて静かな人が多い印象だ。



 2か月後の六月には私たちにとって三度目の体育祭が行われる。

 この日は体育祭の役割決めが行われていた。


「三年生だから自分らで決められるな? 先生は後ろで座って見てるから。困ったら呼んで」


 このクラスの担任のフジモリ先生は、そう言って一番うしろの隅っこに椅子を置いて、腕組みをしながら座った。


 先生と入れ替わりで学級委員長のヤマシナくんが前に出てきて仕切ってくれる。

 

「まずは団長から決めたいんだけど、誰かやってくれる人はいますか〜?」

  

「⋯⋯⋯⋯」


 立候補者はなしか。

 教室は静まり返っている。


「じゃあ推薦はどうですか〜?」


 ヤマシナくんが教室を見渡しながら問いかけると一斉に声が上がった。


「ソノベがいいんじゃね?」

「足速いし、運動出来る人が仕切った方がいいと思います!」

「ソノベならみんなをまとめてくれるだろ?」

「よっ! 団長!」


 あれよあれよという間にリョウくんが祭り上げられる。


「マジか〜参ったな〜」


 リョウくんは最初は困ったような顔をしていたけど、覚悟を決めたのか、笑顔で前に出ていった。

 

「俺が団長でいいと思う人拍手〜!」


 リョウくんは笑顔で片手を上げながら言う。


――パチパチパチパチ


 クラス全員が拍手をした所で、団長が決まり、これ以降はリョウくんが仕切ることになった。


「あとはダンスリーダー二人とTシャツのデザイン一人ね。ダンスと美術の経験者いる〜? 未経験でもやってみたい人〜?」


 リョウくんの声かけに誰も返答がない。

 推薦の声も無いと言うことは本当に経験者はいないのかもしれない。


「わ〜どうする〜?」


 リョウくんは早速困ったように頭を掻いている。

 それからクラス全体を見回し始めて⋯⋯ガッツリ目が合った。

 リョウくんはこちらに何度もウインクを飛ばしてくる。

 周りの視線が徐々に私に集まってくる。


 ⋯⋯仕方ない。

 リョウくんが一番大変な役どころを買って出てくれたんだ。

 私も何かやるか。 


「じゃあ、Tシャツのデザインやってみていい?」


 ダンスリーダーは出来る気がしないので消去法でそうなるだろう。


「カスミありがとう! 神! はい! 拍手〜!」 


――パチパチパチパチ


 こうして私はTシャツのデザイン担当に決まった。

 ダンスリーダーはミナちゃんが立候補してくれたあと、もう一人が最後まで決まらずくじ引きになり、帰宅部のオオクボさんに決まった。


 今日役割が決まった私たち四人は、体育祭実行委員として三年生の各クラスの代表が集まる会議に定期的に参加することになるらしい。

 これが後に自分のキャパを大いに圧迫することになるとはこの時は思いもしなかった。



 放課後、イブキに先ほどの役割決めの内容を報告する。

 イブキは私がデザイン担当になったことに驚いていた。

 そして当然のように6組はイブキがデザイン担当に決まったそうだ。


「デザインだけじゃなくて、実行委員の仕事も結構忙しいらしい。リョウが団長なら安心だけど、カスミも無理しないで」


 イブキの言葉と表情からリョウくんへの厚い信頼と、私を心配する気持ちが伝わってくる。


「忙しいのはキツいけど、3組はカケルくんが団長でマユちゃんがダンスリーダーらしいから、これから会議で一緒になる機会が増えるね! 楽しみ!」 


 三年生になった私たちは、受験に向けて忙しくなってきたのはもちろんのこと、三学年合同行事の中心的役割を担っている。

 それに加えて私とイブキの正義の味方活動には、部活のように引退がないから、限られた時間で全てをやりくりしないといけなかった。


 初回の実行委員の会議では、各団のカラーがくじ引きで決まった。

 私たちD団はイエロー、イブキたちF団はオレンジだった。



 翌日、この日はイブキとのデートの代わりに、イブキの家でそれぞれのTシャツのデザイン作業をすることになった。


 とは言え私の作業は一向に進まず⋯⋯

 Tシャツのデザインって何を描いたらいいの?

 他にやる人がいなかったとはいえ、私のデザインしたTシャツは、三学年3クラスの生徒が着用することになり、体育祭当日の採点対象にもなっている。

 実は責任重大だった。


 イブキはというと、すでにだいたいの構成が決まったのか、下絵を描き始めている。

 人の顔かな?

 すごいな⋯⋯

 いや。感心している場合じゃない。

 私はどうしよう⋯⋯

 迷っているとイブキが声をかけてくれた。


「一から考えるのが苦しかったら、何かを参考にしたらいいと思う。これとか」


 イブキはイラストのアイディア図鑑を貸してくれた。


「例えば運動会っぽいのは走ってる人、バトンを受け渡しする手、ハチマキを巻いている姿とか、他にも色々。今日終わらなくても、この本は持って帰っていいから」


 イブキはポンポンと頭を撫でてくれた。


「なるほど。なんかちょっと分かったかも!」


 それから三日間、ほぼ寝る間を惜しんでデザインを完成させた。

 私は綱引きをして汗をかいている動物たちの絵を描いて、クラスの反応は上々だった。

 イブキのデザインは三クラスの担任の先生を渋くデフォルメした姿が印象的だった。


「はぁ〜終わった!」


 何とかデザインを完成させたあとは、先生たちのチェックを受けて、著作権違反やいかがわしいものでないことが認められればひとまず任務完了だ。

 そう思ってたんだけど⋯⋯


 

 放課後リョウくんとミナちゃんと三人でフジモリ先生に呼び出された。


「実はオオクボがダンスリーダーを降りることになった。親御さんから連絡があって、受験で大事な時に負担がかかるような役割をさせないでくれという話や。申し訳ないけど、モリミヤは早めにデザインも終わったみたいやし、ダンスリーダーもやってくれたら助かる」

 

 フジモリ先生は私に頭を下げた。

 そんな⋯⋯

 私だって受験生だし、カツカツだ。

 しかもここ数日はほぼ寝ずに頑張って、やっと解放されたと思ったのに⋯⋯

 

 隣をちらっと見るとミナちゃんは先生からの説明にショックを受けているみたいだ。

 このままだとミナちゃんがしんどいよね。


「わかりました。ダンスなんかしたことないので上手く出来るか分かりませんけど⋯⋯」


 リョウくんはそんな私のことを心配そうに見ていた。


 

 その日からは毎日ミナちゃんと残ってダンスの振り付けを考えた。

 リョウくんも残って一人で応援団の衣装のコンセプトや団長の最大の見せ場の口上の文章を考えている。

 ダンスが終わったら私たちも手伝わないと⋯⋯



「この動きの後はこうとか?」

「いいね! それっぽい!」


 最初はワイワイ言いながら考えていたけど、未経験者同士だから、すぐにネタが底を尽きる。

 こういう時は⋯⋯


「今人気のグループのダンスを参考にして取り入れたらどうかな?」


 デザインの時と同じように、参考にするくらいなら問題ないはずだ。


「そっか! よし! 見まくろう!」


 そこからはミナちゃんと二人、動画ランキングの上の方のグループから順番に動画を見漁って、雰囲気に合いそうな動きを組み合わせていった。



 そして迎えたダンス練習初日。

 まずは同じクラスのみんなに振り付けを見てもらう。

 それから後日、1年生と2年生を集めてダンスを教える流れだ。

 

 オオクボさんの件を受けて、皆の勉強時間を圧迫しないように、極力覚える内容は少なくした。

 しかしそれは賛否両論で⋯⋯


「簡単そう! ラッキー!」

「え〜! 今までで一番しょぼいかも」

「好きな曲だったから楽しみにしてたのに」

「なんかどっかで見たことある振り付けばっかりじゃない?」


 なんでそんな酷いこと言うんだろう。

 どうして一生懸命頑張った人の努力を、こんなに簡単に踏みにじれるんだろう。


「文句言ったの誰? さすがに酷くない?」


 いつも明るくて優しいミナちゃんが小声で怒っている。

 リョウくんも顔をしかめて何か言いたげだ。

 でもここでリョウくんに何か言ってもらってしまったら、後々リョウくんがやり辛くなる。


「あの! 私たち分からないなりに精一杯やったの。毎日放課後遅くまで残ってたし、あんまり難しいのだと後々みんなが大変かな?とか色々考えて⋯⋯意見があるならちゃんと教えて欲しい。どこがどう悪くて、どう直したらいい?」


 私は自分の考えを淡々と言ったつもりだった。

 しかし、それが火に油を注いだようで⋯⋯


「ちょっと感想言っただけじゃん」

「がんばった自慢?」

「最近彼氏と一緒に帰れてないから不機嫌なんじゃない?」


 普段は大人しいグループの子たちだった。

 いつも肝心な時はだんまりのくせに、こんな時だけ発言するなんて⋯⋯

 頭にだんだんと血が上っていく。


「はいは〜い! カスミとミナちゃんが頑張ってたのは俺も見てたから! 皆にはもっと労って欲しいんだけど〜」


 リョウくんが私とミナちゃんの肩に手を置いた。

 口調は柔らかいけど、目つきは鋭い。

 リョウくん、怒ってくれてるんだ。


 リョウくんの牽制で文句を言ってた子たちは静かになった。

 それから一部のダンスが上手い子たちが手直しを手伝ってくれることになった。



 夜、帰宅後もダンスの動画を確認していた。

 はぁ〜それにしてもあそこまでこき下ろされるとは思わなかった。

 学校の行事にどれだけ重きを置くかなんて人次第だ。

 全員を満足させる方法はない。

 そんなの一年生の時から分かってるのに。

 だめだ。埒が明かない。

 トイレに行って寝よう。


 階段を降りてトイレに向かうとサツキがリビングで勉強していた。

 サツキも今年、高校受験だから。


「サツキ、頑張ってるね! どこの高校受けるか決めたの?」


 私は二人分のお茶を入れて声をかけた。


「ありがとう! 決めたよ! 私もお母さんみたいに学校の先生になりたいから、教育コースがある高校に行きたくて! まだ模試の結果はB判定だったから頑張らないと」


 サツキはキラキラした目で言った。

 この歳から夢が決まってるなんて偉いな。

 私は通学が電車で一本の範囲で、偏差値と校風が合っている今の高校に決めたから。

 後はシオンがいて、イブキも受験するから心強いっていう動機だ。


 私の夢はなんだろうな。

 もっと頑張れば見つけられるのかな。

 サツキに感化された私は、部屋に戻って少しだけ問題集を解いてから眠りについた。


 

 次の日からはダンスの経験者の子たちに手伝ってもらって手直しをした。

 しかしこれは1日で終わらず、連日遅くまで残っての作業だった。

 しかも元々私たちが作ったダンスはほとんど原型をとどめておらず⋯⋯

 最初からこの子たちがやればよかったのにという言葉が喉まで出かかっていた。

 さすがに放課後ずっと身体を動かしているとクタクタになった。



 休日、この日は完全に予定もなくオフだった。

 しかし、サツキが風邪気味だということで回復の担当を交代することにした。

 久しぶりにイブキとゆっくり会えるのも楽しみだった。


 依頼人は70代女性のイワシミズさんだ。

 息子さんがアヤメちゃんが作ったいかにも怪しいホームページを見て、藁にも縋る思いで依頼してくれたらしい。

 数ヶ月前に転んで太ももの骨を骨折してから、なかなか痛みがおさまらずに寝たきりになってしまったとのことだ。


 家に上がらせてもらい、イワシミズさんが横になっているベッドの側に立つ。 


「では今から治しますね」


 私は結界を張って回復の力を使った。

 イブキは少し離れたところで、この様子を見守っている。


 私たちの回復の力は万能ではない。

 傷ついた組織の修復を早めることで、回復させるイメージだから、どんな病気でも重症度でも治せるわけではない。

 けどこういう怪我なら確実に治せるから、今回の依頼は成功だ。


「衰えた筋肉は戻っていませんから、リハビリの先生とも相談してみてくださいね」


 と説明して気がつく。

 記憶を奪うから説明してもだめなんだった。

 こんな初歩的なミスをするとは。

 頭が働いてないみたいだ。


 イブキを見ると複雑そうな表情で頷いた。

 後はイブキに任せて私は部屋を出ていいという合図だ。

 私も頷き返して家を後にする。



 イブキと事前に待ち合わせ場所として約束していた公園に向かう。

 公園に着いたはいいけど、歩く度に地面が沈む感覚がしてきた。

 まるで柔らかい砂の上を歩いてるみたいに。

 直後に吐き気と頭痛に襲われた私は、ベンチに倒れ込んだ。


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