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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
最終章:カスミ後編〜悪魔の力と光の一族〜
95/101

95.二人の秘密


 季節は秋。

 

 この日からは三泊四日の修学旅行だった。

 行き先は北の国で、一日目と四日目は移動に費やされることになるけど、その土地ならではのアクティビティもあり、この学年での思い出を作れることが楽しみだった。


 飛行機に乗った後、バスに乗り換え向かったのは農園だった。

 ここで育った野菜や果物でジャム作りを体験できる。


 完成したジャムをビンに詰めながら、リコちゃんとミナちゃんと三人ではしゃいでいた。


「やばい美味しそうすぎる。今すぐ食べたい。家に持って帰ったら全部食べられちゃう⋯⋯」

「あははっ! カスミちゃんち大家族だもんね〜」 

「後でおやつと一緒に出てくるっぽいよ!」

「え! やったー!」


「てか、おやつで思い出したけど、昨日送った動画見た?」

「見た見た! ワンちゃんはおやつが欲しかったのに、飼い主さんが気が付かなくって、すごく切なそうな顔してた! 人間と一緒の顔だった!」

「最後はおやつがもらえて、大喜びでかわいかったよね!」


 私たち三人が話す内容といえば、ドラマのこと、面白い動画のこと、後はグルメや美容に恋バナを少々。

 とても健全なものだった。

 しかし、それは翌日には大きく変化することになる。


 二日目は有名なお菓子工場の見学をした後、動物園にやって来た。

 ここでは全クラスが一斉に自由行動になるので、私はイブキとまわる約束をしていた。


「じゃあ、またね〜」

「バイバーイ」


 リコちゃんとミナちゃんも彼氏のところへ向かって行った。



 イブキはどこかな。

 スマホ片手にキョロキョロ辺りを見回す。

 すると壁に軽くもたれているイブキを発見した。

 脚長い。また背が伸びたかな。

 ミステリアスな雰囲気を纏っている横顔もかっこいい。

 ほとんど毎日顔を合わせているのにこの破壊力⋯⋯

 これが修学旅行マジック?

 いやそれは交際前の話なんだっけ?



「カスミ。ねぇ、カスミ」

「ひぃ〜!」


 私は無意識にイブキの目の前まで歩いて行ってたらしい。

 それなのに、ぼけっとしていたのでイブキに肩を揺すられ、現実に引き戻された。


「大丈夫?」


 イブキは心配そうに顔を覗き込んでいる。


「大丈夫! 地元を離れることで、イブキの無限のポテンシャルを再認識しただけだから!」

「なにそれ⋯⋯」


 私は呆れているイブキの手を引いて歩き出した。 

 

 実はこの日私たちはペアルックコーデに挑戦していた。

 それはマユちゃんカケルくんカップルの影響で、他にも何組かペアルックでまわるカップルがいると耳にしたから。

 お揃いのアイテムはパーカーで、イブキは全体がネイビーで袖がアイボリー。

 私はそれが反転して全体がアイボリーで袖がネイビーだ。

 

 私の要望を叶えてくれたというのももちろんあると思うけど、独占欲強めのイブキも意外とノリノリに見える。


 少し進んだところにあるフォトスポットでツーショット写真を撮る。

 どうしよう。

 甘い。


 途中、マユちゃんカケルくんカップルと無事に遭遇出来たので、四人でも記念写真を撮った。



「あのタヌキ可愛いね!」

「あれはアライグマ。前足が黒くないし、しっぽがしましま」

「なるほど!」 


「オシドリって仲良し夫婦なの?」

「オシドリは毎年パートナーを変える習性がある。おしどり夫婦という言葉の由来はとある国の故事という説が濃厚で⋯⋯」

「そうなんだ〜」


 物知りなイブキの話は聞いていて楽しかった。

 それに、動物たちを観察するイブキの表情も楽しそうだ。


「イブキはやっぱり動物が好きだね!」

「うん。何か描きたくなってきた。そう思えるのもカスミのおかげ」


 イブキは目を輝かせている。

 あの日、アガパンサスに才能を取られないで済んだから、この表情が見られるんだよね。

 

「描けたら見せてくれる? 私、もっとイブキの絵が見たい」

「うん。一番にカスミに見せる。約束」

 

 私たちは微笑み合いながら指きりをした。


 

 夜、お風呂上がりに写真を眺めながら部屋で休んでいたところ、久しぶりにマユちゃんからメッセージが届いた。


 "緊急招集! 304号室。見張りに警戒せよ!"


 一体なんだろう。

 3階って確か男子のフロアじゃなかったっけ?

 状況が飲み込めないまま、マユちゃんの招集に応じた。

 

 部屋を出て廊下に出ると、先生が椅子を置いて座っていた。

 そのまま先生の前を何食わぬ顔をしながら通り過ぎる。

 エレベーターは⋯⋯目立つか。

 階段を登り、男子のフロアに侵入する。

 辺りをキョロキョロと見回すも見張りの先生は居ないみたいだ。

 それに普通に女の子も歩いてるし⋯⋯

 いけないことをしているんだけど、赤信号みんなで渡れば怖くない現象が起きている。


 そして指定された部屋のドアを開けると⋯⋯

 イブキとマユちゃんとカケルくん、それにリコちゃんとワカサくん、アワノくんとミナちゃんがいた。


「え? 何の集い?」

「いや、この状況でイブキの彼女だけ呼ばない訳にはいかないでしょ〜」


 そう説明してくれるのはワカサくんだ。

 直接は接点がないワカサくんとアワノくんに軽く挨拶をした後、イブキの隣に座った。


「なんでって言ったら変だけど、カケルくんはなんでここにいるの?」

「リョウと交代した! あいつも今ごろ俺の部屋でワイワイガヤガヤやってるでしょ〜」


 なるほど。

 状況を整理すると、ここは元々はイブキとリョウくん、ワカサくん、アワノくんの部屋だった。

 それが経緯は不明だけどカケルくんとリョウくんが交代し、そこにそれぞれが彼女を呼ぶ流れになったと。

 8人中6人がバスケ部だからそういう仲良しのノリなのかもしれない。


 これもまた少女漫画的展開⋯⋯

 隣に座るイブキの顔を見ると普段通り澄ました顔をしている。

 ダボッとしたグレーのルームウェアを着て、あぐらをかいていて、オフの姿って感じがセクシーだ。

 他のみんなも普段は見られない、素の雰囲気で⋯⋯ 

 ドキドキワクワクするような、ちょっと背伸びしているような不思議な集いだ。

 


 そして流れは当然、カップルの秘密の暴露大会になった。


「男が代表で答えること! チキったら女の子の方に聞いちゃうから」


 ワカサくんの仕切りで始まったこの大会。

 果たして私たちは無事に乗り切ることができるのだろうか。


 

 最初は初デートの場所や手を繋いだのはどんな状況だったかなんていう比較的ライトな質問だった。

 

 そして次に話題に上がったのは⋯⋯


「じゃあ、相手の好きなところを言うとかは? これは女子も答えよ?」


 リコちゃんはノリノリだ。

 みんなが少し照れながらも答えていき、私の番が来た。


「イブキの好きなところは⋯⋯とにかく優しいところ。でも、駄目なことは駄目って言ってくれるところ。あと、私のこと大好きなところ」


「⋯⋯⋯⋯」


 真面目に答えすぎた?

 なんかめっちゃ恥ずかしいことを言った気がする。


 イブキを見ると少し赤くなっていた。

 その顔は駄目だ。私が耐えられない。

 表情筋が崩れ去って布団に顔を伏せる。


「え〜! カスミちゃん可愛すぎ!」


 ミナちゃんを筆頭に散々からかわれた。


 なんとか呼吸を整えて、イブキの回答を聞く。 


「真っ直ぐなところ、よく周りを見てるところ、困っている人をほっとけないところ。あと可愛い」

「⋯⋯ありがとう」

「うん」


 この空気はなんなんだろう。

 甘すぎる。

 先ほどのダメージも回復していないので再び顔を伏せた。

 

「復活するまでそっとしといて! もう無理! 状態異常! ヒットポイントゼロ!」


 私の絶叫にみんなは大笑いしていた。

 うずくまる私にイブキが自分の布団をかけてくれる。


「耳だけ聞いてるから。続けてください」


 そのまま布団を被って籠城した。

 

 そこから話題は過熱していき、初めてのキスはどんな状況だったかを経由し、とうとう最後には大人の階段を登った場所についての質問が飛び出した。 

 これが修学旅行の夜のテンションってやつ?

 確か動画配信者にも、そう言うのを赤裸々に語ってる人もたくさんいるんだっけ?

 マユちゃんとカケルくんも、去年はうやむやにしてたのに⋯⋯


 目だけ布団から出してみんなを見る。

 普通に答えている。

 彼女側も特に抵抗なさそう。

 内輪だから別に大丈夫なのかな。

 でも私たちはまだ⋯⋯

 頭の中が大騒ぎになっていると、イブキの番が来た。

 なんて答えるつもりなの?

 縮み上がりながら回答を待つ。


「⋯⋯⋯⋯俺の部屋」


 ⋯⋯⋯⋯え? 

 思わず布団から頭を出してイブキを見てしまう。

 彼は涼しい顔をして嘘をついた。

 全国の高校生に伝えたい。

 中には私たちのように嘘をついているカップルもいるので、無理に焦らないで欲しい。 


 たぶん今、私の口はだらしなく開いている。

 呆けているとイブキが耳打ちしてきた。


「大人の階段の定義が曖昧な以上、嘘にはならない。本当のことを言ったらカスミが嫌がると思ったけど」


 確かにイブキの言う通りだ。

 ここで私たちの考えを正直に話す流れになってしまったら、この3組のカップルを遠回しに否定することにもなりかねない。

 これが嘘も方便というやつなのだろう。


「え! なに話したの? このタイミングで耳元で話すのなんかエロくない?」


 ワカサくんが突っ込んでくる。


「あー! カスミちゃんの顔が赤い!」


 リコちゃんも茶化してくる。


「もう助けて。飛行機に乗って帰る」


 反省文よりひどい罰を受けている気分になる。

 みんなの茶々に耐えられなかった私は再び布団を被ったのだった。


 修学旅行の夜はとても刺激的だったけど、秘密を共有することでこの八人の仲は深まったと思う。

 それに、本当に大切な二人の秘密は誰にも打ち明けないままにしたことで、さらに私たち二人の仲が特別なものになったような気がした。




 こうして二年生最大の行事が終わり、半年後には三年生に進級することとなる。

 

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