87.上目遣い
先日、晴れて恋人同士になった私たちは、いつものメンバーに質問責めにされていた。
「カスミちゃんはいつイブキのことを好きになったの〜? どこが好きなの? もうキッスはした?」
カケルくんは今までの仕返しとばかりに、笑いながら前のめりで私たち二人の顔を交互に見ている。
「ノーコメントでお願いします⋯⋯」
私はすっかりその勢いに押されていた。
「カスミちゃんかわいい! 照れてる!」
マユちゃんまで茶化してくる。
「あんだけラブコメの知識はあるのに、イブキと付き合い出した途端、急に静かになって照れてるのなんかズルくない? うらやましい!」
リョウくんは腕で目を塞いで泣き真似をしている。
リョウくんからは好きだとか付き合って欲しいとか、直接的なことは言われていなかったものの、真剣に向き合ってくれていたことは分かっていたので、個別に報告した。
イブキが参戦して来た段階で半分諦めていたと笑ってくれ、その後も特に気まずいこともなく、変わらずに友だちを続けてくれている。
「カスミを困らせないで」
イブキはというと、みんなの前だからかポーカーフェイスを貫くと決め込んでいるらしい。
けど、二人っきりになると、この澄ました顔が真っ赤になって⋯⋯
「あ! カスミちゃんがイブキの顔を見ながら真っ赤になってる!」
「カケルくん。今までごめん。もう許して⋯⋯」
私は必死になってカケルくんに謝罪したのだった。
この日の放課後は街デートをしようということになった。
途中下車をして繁華街を手を繋いで歩く。
イブキの手は骨ばってて、でも温かく柔らかく包んでくれてて⋯⋯
なんだろう。
甘い。
「カスミはどうしたい?」
イブキは優しい目をしながら尋ねてきた。
今まで、少女漫画や友だちの恋愛トークなどから、フィクション・ノンフィクション合わせて何十組ものカップルの恋愛を疑似体験してきた。
しかし、自分のこととなるとこうも頭が真っ白になってしまうとは⋯⋯
アウトプット機能がポンコツすぎる。
ヒントを探すため周りのカップルを観察する。
恋人同士っぽいことってなんだろう⋯⋯
悩んでいるとすぐそこに答えを見つけた。
「あれがいい! あそこに入ろう!」
私はイブキの手を引いて建物の中に入った。
向かったのは観覧車乗り場だ。
この繁華街のど真ん中にある観覧車からは、ビル街はもちろんのこと、遠くの山までよく見渡せるらしい。
順番待ちの列にはカップルと海外からの観光客が並んでいた。
前に並ぶカップルは、すっかり自分たちの世界に浸っているようだ。
イブキも何となくそのカップルをぼーっと見ているように見える。
「カズくん、しゅき⋯⋯」
上目遣いで彼を見つめながらそう呟く女の子からは、キュルルンという効果音が聞こえてきそうだ。
男の子はニマニマしながら女の子のおでこをツンとつつく。
これがラブラブカップル⋯⋯
カップルを参考にさせてもらっているうちに、私たちの番がやって来た。
ゴンドラに乗り込み、向かい合って座る。
イブキは穏やかな表情で窓の外を見ている。
徐々に高度が上がって来たところで、私は仕掛けることにした。
「イブくん、しゅき⋯⋯」
あごの下で両手を組み、イブキを上目遣いで見つめる。
好き好きと念じて目で語りかける。
ついでにキュルルンと頭の中で効果音を鳴らす。
イブキはゆっくりとこちらに目線を向けた。
「はぁ⋯⋯」
イブキはため息をついたあと、頬杖をつきながら再び窓の外を見た。
え?ため息?それだけ?
しかし、よくよく見ると手のひらで口元を隠してるけど、耳は真っ赤で⋯⋯
これはこれは、もしかしてかなり効いているのでは?
「ねぇ、イブくん。こういうのしゅきなの? ねぇ? しゅきなの?」
イブキの隣に座り直して、さらにたたみかける。
イブキは真っ赤になって照れている。
「イブくんかわいい〜!」
調子に乗って頭を撫でていると、突然腕を掴まれた。
「もう。静かにして」
そのままイブキの顔が近づいてきて、そっと唇を塞がれる。
すぐに顔が離れてしばらくの間見つめ合う。
目を閉じて合図を送ると、今度は優しく髪を撫でられたあと、頭の後ろに手を添えられてもう一度キスされた。
今度は長めのキスだった。
うん。全然怖くない。
むしろ胸に幸福感が広がっていく。
私は横からイブキの身体を抱きしめて、頬に手を添えてキスをした。
観覧車が一周する間、私たちは静かに想いを伝えあった。
それからも私たちの交際は順調に続いていった。
3月にはイブキの誕生日を二人でお祝いした。
そして4月。
シオンとハルカ先輩は卒業し、私たちは二年生に進級した。
気になるクラス替えの結果は⋯⋯
マユちゃんは4組、イブキとリョウくんは5組、私とカケルくんは6組になった。
クラスが離れてしまったことは残念だったけど、これからだっていつでも会える。
それに、新しいクラスだってきっと楽しいはず。
期待と不安が入り交じる中、廊下に掲示された座席表を確認する。
すでに教室内で騒いでいるカケルくんに手を振り、自分の席に座る。
このクラスはバスケ部が多いみたいだ。
私の席は今年も窓際か。
似たような景色なのに、もうイブキの背中は見られないんだな。
寂しさを感じながらホームルームの開始を待った。
――ドン
ぼーっとしていると、一つ前の机の上に豪快にカバンが置かれた。
その持ち主を見上げると⋯⋯
「よぉ! ミーちゃん。やったね! よろしくな!」
笑顔のミハマくんが立っていた。




