85.体温
12月
期末試験も終わり、もうすぐ今年が終わろうとしている。
年末年始の予定はというと、いつもお正月はお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家に集合するのが恒例だったけど、今年も受験生が三人もいるから、集まるのは受験が終わってからということになった。
ちなみにアヤメちゃんは、初の悪魔の世界の視察に行っている。
サフランが護衛兼ガイドをしてくれるらしいけど、本当に二人は特別な関係じゃないのかな⋯⋯
終業式の日
年内最後のクラスイベントが用意されていた。
その名も⋯⋯ダサセーターパーティー
ルールはたったの一つだけ。
ダサいセーターを着て参加することだ。
もともとは海外発祥のイベントらしい。
その由来は、子供の頃におばあちゃんが愛情込めて編んでくれたセーターは、可愛さ盛りだくさんのデザインがダサくて着るのは恥ずかしいけど、捨てることもできない。
そんなセーターをあえて大勢の人の目の前で着て、そのダサさを笑い合うというなんとも心温まるものだ。
終業式が終わったあと、用意したセーターに着替え、教室に戻る。
私は某国民的人気モンスターが真顔で正面を見ているのがなんとも間抜けで可愛いデザインのものにした。
背中側は同キャラクターが白目をむいている顔で埋め尽くされている。
マユちゃんのセーターは特大のクリスマスケーキが前面に押し出されていた。
ダサいけど、かわいい。
イブキはというと、サングラスをかけてかっこつけているトナカイの顔が、大きく描かれたセーターを着ている。
本人は椅子に座って、すらりと長い足を組みながら、澄ました顔をしている。
ダサいはずなのに、なぜか最先端のファッションかのような錯覚を起こすから不思議だ。
セーターの袖が長くて手の甲が隠れてて、ちょこっとだけ指先が見えている。
これって萌え袖⋯⋯
リョウくんは背中に羽根が生えた男性が、両手を胸の前でクロスしながら目を閉じている、なんとも神々しいデザインを着ていた。
「あははっ! なにそれ? どこで売ってるの?」
思わず指をさして大笑いしてしまう。
リョウくんは無言でセーターの男性と同じポーズをする。
「やめて! 後光がさして見える! まぶしすぎ!」
お腹がよじれそうだ。
「なんかカスミのやつは可愛くない?」
リョウくんは私のセーターのモンスターと目線を合わせている。
「かわいいでしょ? あとこっちも見て!」
このセーターの真価である背中側のデザインを見せたら、リョウくんは大笑いしていた。
優勝はヒガシヤマ先生で、ビール腹を出したサンタさんがバイクを乗り回しているデザインだった。
楽しい時間はあっという間だった。
日が沈むのが早いから、すっかり外は暗くなっている。
良いお年を〜とみんなに挨拶して解散になった。
帰りは途中まで一緒のイブキと電車に乗りドアにもたれる。
ホームは寒いから電車の中が天国に感じられた。
「イブキは今年、クリスマスっぽいことするの?」
「ううん。今日のパーティーだけかも」
「そっか。私も同じだ」
小さい頃、クリスマス近くにイブキの家に行くと、よくトウキ伯父さんがトナカイに変身してくれたものだ。
もちろん赤鼻ではなく、真っ白で幻想的な姿だ。
「今年も正月の集まりはなしだね。お祖母ちゃんのおせち食べたかったな〜」
私たちのお祖母ちゃんは今も現役の料理人をしている。
そのお祖母ちゃんの手作りおせちの味はまた格別だ。
「そうだね。次は春休みかゴールデンウィークかな」
イブキは答えた。
それにしても明後日がクリスマスだからか、やたらとカップルが多い。
私たちも徐々にイチャイチャしているカップルに囲まれていく。
混雑する電車の中、彼が手をついて守ってくれる⋯⋯憧れのシチュエーションだ。
しかし、周囲の人間からするとその広すぎる快適空間のしわ寄せが来て潰されるわけで、結構辛い。
私たちも例に漏れず窓際で押し潰されかけている。
次の駅でこちら側のドアが開くまでの我慢だ。
窓からは商業施設や街路樹などのイルミネーションが見える。
次はこの路線の中でも一際大きな駅だから、あちこちが光輝いている。
すっごくクリスマスな雰囲気だな。
キョロキョロと見ていると一際目をひいたものがあった。
「ねぇ、今からあれ行かない? クリスマスっぽいことしよ?」
私はほとんど衝動的にイブキの腕を引いてこの駅で途中下車した。
私が興味を持ったのはクリスマスマーケットだ。
シュトーレンや紅茶、オーナメントなどが売られている。
「見て見て! サンタさんがたくさんいる!」
手作りだろうか。
丸っこいサンタさんから、痩せ型の細長いサンタさんまで大小さまざまでカラフルなサンタさんの人形が並んでいる。
「わかったから。ちゃんと繋ごう」
イブキは自分の腕を掴んでいた私の手を一度ほどいて、そのままぎゅっと握った。
「ああ、ごめん。強引に引きずり回しちゃった」
私が謝るとイブキは頷いてくれた。
手なんか今まで何度も繋いできたのに、改めて繋ぎなおすとちょっとドキドキする。
周りがカップルだらけだからかな。
その後は温かいスープを飲んで身体を温めた後、お店を見て回った。
「これかわいい!」
私が手に取ったのはヘアピンだ。
雪の結晶が銀色に輝いていて、大人っぽいデザインだと思った。
マーケットの暖色の明かりを反射させるとキラキラと眩しいくらいに光る。
「カスミに似合うと思う。俺からのプレゼントにする」
イブキはそう言うと代わりにお会計をしてくれた。
お会計が終わったイブキを捕まえて小声で言う。
「そんなの悪いよ! それなら私もイブキに何かプレゼントしたいから、選んで?」
「いい。つけてあげるからこっち見て」
私の申し出を断ったイブキは、私の両肩を優しく掴んで身体の向きをかえさせた。
前髪を分けるためにおでこをそっと撫でられる。
イブキは真剣な表情でヘアピンをつけてくれた。
「うん。かわいい。これからも時々つけて。それが俺へのプレゼント」
イブキは優しい笑顔になった。
こんなことを言われながら笑顔を向けられて、ときめかないわけがない。
私はしばらくイブキから目が離せなかった。
「あっち。何か始まるみたい」
イブキは呆けている私の手を引いて歩き出した。
たどり着いた先は野外ステージだった。
スクリーンにクリスマスツリーや雪が降る夜の街並みなど、幻想的な映像が映し出されている。
「きれい⋯⋯」
しばらく夢中で見ていたものの、立ちっぱなしだとだんだん身体が寒くなってきた。
けどきれいなショーをまだ見ていたくって、足を少し動かして身体を温める。
するとゆっくりと後ろから抱きしめられた。
背中にイブキの体温を感じる。
「あったかい?」
イブキの声が耳元で聞こえる。
耳に血が集まっていくのか熱く感じる。
それに、身体の奥から温められているみたいだ。
私は心のままにイブキの腕に手を添えた。
「ありがとう。あったかい」
私が返事をすると、イブキは私の頭に頬を寄せた。
あぁ、好きだな。
優しい彼のこの体温をずっと自分だけが感じていたい。
そう思った。




