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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第8章:カスミ前編〜淡い初恋と失くした記憶〜
78/101

78.未熟


 六月

 今月は体育祭が開催されるので、私たちはその準備に大忙しだった。

 準備の内容は主に出場競技とダンスの練習だ。


 この学校の体育祭は一年生〜三年生までの縦割りでチームを組む。

 私たち1年6組は、2年6組と3年6組とチームを組んでF団ということになっている。

 つまり、シオンと同じ団だ。 

 チームカラーはショッキングピンクで、当日はピンクのハチマキと美術部の先輩がデザインしたお揃いのTシャツを着用するらしい。

 

 体育祭の開会式には各団がダンスを踊り、場を盛り上げる。

 F団のダンスは三年生の二人のリーダーさんが仕切っていて、洋楽に大人っぽい振り付けがされている。



 これからダンスの練習を行うため、私たちは体操服で中庭に集合していた。


「それでさ〜男女がハチマキを交換し合うと結ばれるとされているらしい」


 ソノベくんが語り出す。


「え〜! なんか不潔そう〜!」


 マユちゃんは嫌そうな顔をした。

 確かに少女漫画でも定番のシチュエーションだけど、汗をかいたあとのハチマキを交換するのはいかがなものか⋯⋯

 おそらくそれができる関係性イコールすでに両思いなのでは?


「ということで、カスミっちは俺と交換しようか」


 ソノベくんが顔を覗き込んでくる。


「お断りします!」

「イヤなら仕方ない。無理強いできないし。代わりに連絡先交換しよっか」

「それなら不潔じゃないから大丈夫」


 ってあれ?

 流れるように連絡先交換しちゃってる。


「カスミっち女神〜」


 ソノベくんはスマホにキスをするフリをした。

 ほんと、ノリが軽いんだよな⋯⋯



「じゃあ練習始めるから並んで〜!」


 三年生の先輩の号令で私たちは配置についた。


 今日は三年生のダンスのリーダーさんたちから振り付けを教えてもらい、自分たちのクラスで数日間自主練習した後、三学年全体で合わせるとのことだ。

 なのでこの場にシオンはいない。


 一通りダンスの振り付けを教えてもらい、後はひたすら曲を流しで練習することになった。

 前でずっと先輩たちが踊ってくれているから、確認しながら振り付けを覚える。


 あれ、なんかお腹の調子がおかしいかも。

 すごく嫌な予感がする。

 私は大急ぎでトイレに向かった。


 げ! 生理が来た。

 先週終わったばっかりなのに、やっぱりどこかおかしいのかな。

 ズボンも汚れてしまった。

 このままじゃ皆の所には戻れない。

 スマホは水筒とタオルと一緒に中庭に置いてきちゃった。

 どうしよう⋯⋯


 しばらく悩んでいると誰かが入って来たみたいだ。

 恥ずかしいけどマユちゃんを呼んで来てもらおう。


「あの⋯⋯すみません。助けてください⋯⋯」 

「え? どうしました?」

 

 救世主がドアの前に来てくれたので、隙間を開けて話しかける。


「出血がひどくて服が汚れちゃって⋯⋯」


 恥を忍んで事情を説明する。


「もしかして、カスミちゃん?」

「その声は、ハルカ先輩?」


 救世主はハルカ先輩だった。


 それからハルカ先輩は体操服のズボンとナプキンを貸してくれた。

 体操服は学年で色が違うから、勘の良い人には何があったかバレてしまいそうだけど、ひとまず自分の教室までは戻れそうで助かった。


「本当にこのご恩は忘れません⋯⋯」


 ハルカ先輩は心まできれいな人だ。


「大げさだよ。私も一時期調子悪かったんだ。私は成長とともに自然に治ったけど、ひどいようなら一度婦人科に行くと良いかも」


 ハルカ先輩は少し心配そうにアドバイスしてくれた。


「はい。病院に行きます。あと、普段からちゃんと準備しときます」


 私はハルカ先輩に頭を下げた。


「球技大会の時、カスミちゃんたちがフカクサさんを保健室に連れてってくれたでしょ? あの時はありがとう」


 今度はハルカ先輩が私に頭を下げた。


「いえいえ、私は何もしてないも同然ですから!」


 ハルカ先輩にお礼を言い、明日には洗濯済の体操服をお返しすると約束した。



 後日、ハルカ先輩のアドバイス通りに婦人科を受診した。

 検査の結果、まだ身体の機能が未熟だから不順を起こしている可能性が高いため、今は成長を待つのみで特に対処は必要ないとのことだった。 




 それから連日、昼休みや放課後にダンスの練習があった。

 放課後は部活がある人は基本的に部活優先だけど、体育祭の練習期間中は大体どこの部活も開始時刻を遅らせているらしい。



 この日は三学年での合同練習があった。

 体育祭が近づいて来た焦りからなのか、疲労の蓄積からなのか、練習中の雰囲気が悪くなってきた。


「奇数の列が前だって言ってるじゃん!」


 ダンスのリーダーさんがメガホンを持って怒っている。

 途中で隊形移動をする際に、なかなかきれいに揃わないからだ。


「ダンスくらいでそんな怒んなよ! こっちは毎日参加してやってんのに」


 同じく三年生の男子の先輩が怠そうに頭をかきながら言った。


「してやってるってどういうこと? こっちだって誰もやりたがらないリーダーしてやってるんだけど!」


 リーダーさんが怒り出した。


 一気に空気が凍りつく。


「はいはーい! 一旦休憩〜!」


 手を叩きながら前に出てきたのはF団の団長だ。

 団長は校内オリエンテーションの時に少しだけ話した人だ。


 団長の掛け声でみんなが少しホッとしたようにバラけていく。

 この空気から逃げ出したいと思っていたみたいだ。


 団長はダンスのリーダーさんと話をしている。

 リーダーさんは今までのプレッシャーや疲れが限界だったのか、泣いているみたいだ。


 ヤジを飛ばした男子の先輩の方は、シオンがフォローをしている。



「ひぇ〜助かった。ああいうのほんといたたまれないよな」


 カケルくんはグッタリした様子で地面に座った。


「これだけ人が居るとまとめるのも大変だよね」


 マユちゃんも少しホッとした表情をしている。

 私とイブキも二人の近くに座る。


「団長もだけど、シオン氏もナイスフォローって感じだね」


 マユちゃんはシオンと男子の先輩を振り返った。


 二人がどんな会話をしたかはわからないけど、男子の先輩がリーダーさんに頭を下げているのが見える。

 ああいう場面でとっさに動けるのがシオンの良いところだよね。

 

「こりゃ聞こえてないや」

 

 カケルくんの言う通り、私は心ここにあらずの状態でシオンのことを見つめていた。


 

 しばらくして我に返った頃。


「よぉ! モリミヤブラザーズ」


 団長が笑顔で話しかけて来た。


「どうも」


 私たちは会釈する。


「大丈夫? 疲れてない?」

 

 どうやら団長は順番に我々団員のフォローに回っているらしい。


「ありがとうございます。大丈夫です」


 代表してイブキが答えた。


「イブキは足速いんだって? クラス対抗リレーもあるから、シオンとの兄弟対決も実現すると良いね〜」


 団長はイブキを肘で突いている。


「カスミちゃんは何に出るの?」


 今度は私が話しかけられた。


「玉入れと大縄跳びです」


 個人が目立つ競技を避けた結果だ。


「そうなんだ〜そっちの二人は〜?」


 団長は順番にみんなに話しかけて行く。

 あれがリーダーの資質というやつなんだろうか。

 

 その後再開されたダンスの練習は、先程までとは打って変わって和やかな雰囲気になった。

 


 翌日、リレーの代表決めるためにタイム測定が行われた。

 私とマユちゃんは惜しくもベスト4入りを果たすことができなかった。

 男子の方はソノベくんとカケルくん、サッカー部のイシダくんとイブキが選ばれていた。


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