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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第8章:カスミ前編〜淡い初恋と失くした記憶〜
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77.片思いの賞味期限


 五月の大型連休明け。

 この日はクラス単位で遠足に来ていた。

 私たち6組は入学直後の事前アンケートでの多数決の結果、バーベキューになった。


 他のクラスもそれぞれ自分たちの希望の行き先を選んでいて、観光地を選んだクラスもある。



 学校から電車で1時間程度の駅に私服で集合し、皆で歩いて公園の広場に移動してバーベキューを行う。


 入学して約1か月、球技大会とその打ち上げを経て、少しずつクラスの雰囲気に馴染めて来た頃だ。

 バーベキューの班決めはくじ引きで行われ、今まであまり話したことがないメンバーもいる。

 少し緊張するけど、楽しみのほうが大きかった。


 

「では早速火をつける所から始めてください! 慣れてる人がいれば、積極的にやってあげて〜」


 ヒガシヤマ先生の声かけで、各班わいわいと作業を開始した。


 私たちの班は五人グループだ。

 頭の良さそうな眼鏡男子のヤマシナくん、タケダさんの友だちで社交的なサガノさん、品が良さそうなカメオカさん、陽気なソノベくんだ。


 ソノベくんは背が高くて、運動神経が良さそうな体型をしている。

 焦げ茶色の髪は短く、ツーブロックのアップバングにしていて、爽やかで男らしい印象だ。

 

「俺、火の付け方分かんない〜」

「私も〜」


 ソノベくんとサガノさんは言った。

 ヤマシナくんとカメオカさんも頷いている。


「私やったことあるからやってみる!」


 元気よく宣言した私は、軍手をして着火剤をセットし、炭を重ねた。

 火は先生がつけてくれるので、トングとうちわを使って徐々に大きな炭に火を移していく。


「へ〜手慣れてんね〜扇ぐのは俺がやる」


 ソノベくんがうちわ係を買って出てくれた。


「バーベキューは小さい頃よくやったから!」


 ふとイブキの班に目を向けると、イブキも率先して火起こしを担当しているようだった。

 私たちの家族は集まるとよくバーベキューをしていたから、勝手は分かっている。


 火が安定して来た所で、それぞれが持ってきた食材をテーブルに並べ、順番に網に乗せて焼き始めた。

 

「うちの班早い方じゃん! カスミっちのおかげだね〜」


 サガノさんが褒めてくれた。


 食材を焼いていると先生が回ってきて、紙皿にタレを入れてくれた。

 先生が調合したそうで、毎回生徒たちに人気らしい。


「いっただっきまーす! 美味しい〜!」


 皆でわいわいと食べ始める。

 先生の秘伝のタレも美味しかった。


 お母さんが持たせてくれたマシュマロとさつまいもとバターで特製デザートを作ったら、これがなかなか好評だった。

 他の班の子たちも興味を持ってくれたけど材料が足りなかったのが残念だ。



 食事中の話題は主に部活の事と恋愛トークだ。


 ヤマシナくんとカメオカさんは中学の時からの恋人が他校にいるそうで、順調ということだけ教えてくれた。


「カスミっちはシオン氏が好きなんでしょ? 青春してるね〜私もイケメンに恋したい〜」


 サガノさんが話題を振ってくる。

 私のせいでこのクラスの一部に、シオン氏というあだ名?が広がってしまっている。

 シオンにバレたら嫌な顔をされてしまわないだろか。

 シオンのプライバシーに関わる話はしていないし、あくまで私が片思いをしているだけだから許して欲しい。

 ヤマシナくんとカメオカさんを見習って、あまりペラペラ話さないように気をつけて過ごした。



 バーベキューを堪能し後片付けをした後は、しばらく自由時間ということになっていた。


 散策に行くか、近くの川に行くか、鬼ごっこかキャッチボールか⋯⋯

 みんな自由に過ごしている。

 私はどうしようかな。

 ゴミ袋を縛りながら悩んでいると声をかけられた。



「カスミっち! あっちの原っぱでキャッチボールしよ!」

 

 誘ってくれたのはソノベくんだった。


「私、全然得意じゃないよ?」

「大丈夫! 軟らかいやつだから!」


 ソノベくんの手には、マジックテープ式のキャッチボールのセットが握られていた。

 蛍光色のド派手なボールが目立っている。


「それならできそう! する!」



 キャッチボールは想像以上に楽しかった。


「野球経験者だったりする?」


 ソノベくんは私が適当に投げても拾ってくれるし、私が取れる範囲に投げ返してくれているように思う。


「小学校の時だけ! 中学からは陸上部!」

「へー! そうなんだ!」


 それから家はどの辺だとか、家族構成だとかの話をした後、一旦休憩することになった。



「いい汗かいた! たぶん明日腕挙がらなくなってる!」

「そこまでやってないでしょ〜」


 ソノベくんは笑いながら芝生に寝転がる。

 私は座ったまま、他のみんなが鬼ごっこをしているのを眺めた。


「カスミっちっていいよね。美人さんなのにクネクネしてないって言うか」


 ソノベくんは笑いながら言った。


「私が美人さん? クネクネって何?」


 私も思わず笑ってしまう。


「シオン氏のこと、どこまで本気なの?」


 急に起き上がったソノベくんは、真剣な顔になった。


「どこまでって、別にどこまでもだけど⋯⋯」


 遊びの片思いとかって存在するんだろうか。

 私には分からない。


「俺、アタックしてもいい?」


 ソノベくんは私の髪に手を伸ばし、指に巻きつけた。


「えー! なんて反応したらいいんだろう? でもシオン一筋って言うか、なんと言うか⋯⋯」


「小さい頃からの片思いなんでしょ? それだけ時間がかかって実らないんだったら、難しいんじゃない? 3か月で振り向かせられなかったら、次に行けとかって言うし」


 そうなのかな。

 ソノベくんの言ってる意味もなんとなく分かるような気がするけど、片思いに賞味期限ってあるのかな?


「じゃあソノベも3か月でカスミの気持ちが変わらなかったら次に行くってこと? そんな軽い気持ちで口説くなよ」


 突然頭の上からイブキの声が降ってきた。


「え! イブキ、いつからいたの?」


 この時私は無意識にイブキのズボンを掴んでいた。


「こわ! そんな最初から重い気持ちのやつなんかいないって! カスミっちも過保護な親戚を持つと苦労すんね? じゃあ! 考えといて!」


 ソノベくんはそう言い残して立ち去って行った。



「あの⋯⋯助かりました。で、いつからいたの? ああいうの反応に困るね? あはは⋯⋯」


 怖い顔をしているイブキに微笑みかけるも、おそらく私の顔も引きつっている。


「ソノベの顔つきが変わったあたりから。髪の毛触った瞬間、指へし折ってやろうかと思った」


 イブキは大真面目な顔をして言う。


「そんな、冗談でも怖いから! 私は大丈夫だから! 心配かけてごめんね。みんなと鬼ごっこする? それとも川遊びかな?」


「川」


 イブキは一言答えて歩き始めた。 

 

 靴と靴下を脱いで川に入った私たちは、子どもの頃に戻ったみたいにはしゃいだ。

 同じ学校に通うようになって、イブキの新たな一面をたくさん見られるのが、少し楽しくなってきた。

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