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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第8章:カスミ前編〜淡い初恋と失くした記憶〜
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73.従妹

 

 時は遡り入学式当日。


「モリミヤ イブキ!」

「はい」

「モリミヤ カスミ!」

「はい!」


 新入生は担任の先生から一人ずつ名前を呼ばれ、返事をしながら立ち上がる。

 私はイブキと同じ6組になった。



 式が終わった後、教室の入口に掲示されている座席表に従い、着席する。

 周りを見渡すと、みんなついこの間まで中学生だったとは思えない位、大人っぽく見える。

 もともとの知り合いなのか、早速仲良くなったのか、いくつかのグループが出来始めている。



「従兄弟だから絶対にクラス離されると思った。イブキがいてくれてすっごく心強い」


「俺もカスミが一緒で心強い。選択科目が一緒なのが良かったのかも」


 イブキはこちらを振り向きながら、穏やかに微笑んだ。


 イブキは人より色素が薄めで、生まれつき色白で髪は明るい茶色だ。

 前髪は目が軽く隠れる位の長さのナチュラルマッシュヘアで、くせ毛だからほんのりウェーブがかかっている。


 目は切れ長で左目の下に泣きぼくろがある。

 身長は高いけどどこか中性的で、ミステリアスな雰囲気がある。

 昔は女の子みたいに可愛いとよく言われていたくらいだ。


 男子の制服の紺のブレザーにグレーのズボン、中には白いベストを着て、ズボンと似た色のネクタイをしている。


 ちなみに女子はグレーのチェックのスカートに同色のリボンを着用している。



 私たちの座席は入口から一番離れた窓際の列だ。

 出席番号順なので私はイブキのすぐ後ろだった。

 二人して同じクラスだったことを静かに喜び合う。



「え、もしかして双子? 名字一緒だし。でもあんまり似てないか」


 話しかけてきたのは、隣の席の男の子だった。


「兄弟じゃなくて、従兄弟なの」


「そうなんだ〜。仲良いんだね? 俺、ハナゾノ カケル! よろしく!」


 カケルくんは人懐っこい笑顔が印象的だ。

 やや明るい茶色の短髪で、髪を後ろに流すようにセットしている。

 背が高くて運動神経が良さそうに見える。


「ねーねー、君は何ちゃん?」


 カケルくんは前の席の女の子の背中を、指でツンツンとつついた。


「え? 私? 私はニシオオジ マユカ! 長いから中学ではニシマユかニッシーって呼ばれてた!」

「へ〜。じゃあマユちゃんで!」

「え? 私の話聞いてた?」


 マユちゃんは黒髪ボブの清楚な女の子って感じだけど、ノリがいい子みたい。


「はい! 私、カスミって言います! 私もマユちゃんって呼んでいい?」

 

 手を挙げて、カケルくんが作ってくれた流れに乗る。


「もちろん! よろしくね! カスミちゃん! と⋯⋯」


「イブキ。よろしく」


 イブキはマユちゃんに手をひらひらと振った。


「イブキくんもよろしく!」


 こうしてカケルくんを中心に、席が近いもの同士、輪が広がったのだった。

 



 翌日、この日は校内オリエンテーションというイベントがあった。

 三年生二人と一年生二人がグループになり、校内を案内してもらうことになっている。


 1年6組のペアは3年6組⋯⋯シオンのクラスだ。


「出席番号順、一列に並んで〜」


 廊下に出た私たちは、先生の号令で一列に並んだ。

 そこに、三年生が一列になって歩いてくる。

 昨日は自分のクラスの皆が大人っぽく見えたけど、二歳年上の三年生と比べるとまだまだ子どもだと思った。

 この人たちは成人する年だし、次の春には大学生なんだよね。



「お! 二人揃ってていいね」


 三年生に憧れの視線を送っていると、シオンが来た。

 上半身は上着は羽織らずに、ネイビーのカーディガンをボタンを留めて着ている。

 シオンは笑顔で私たちに手を振った後、イブキの隣に立った。

 でもやっぱりシオンがずば抜けてかっこいい⋯⋯



「そっか、兄弟か! 確かに似てるかも! 特に妹ちゃん!」


 シオンの後ろにいた男子の先輩が私たち三人を見比べて言う。


「そうそう! 仲良くしてやってね?」


 シオンは私たち二人と肩を組みながら笑った。

 その行動が嬉しい反面、複雑な感情を抱く。


「俺は弟ですけど、こっちは従妹です」


 イブキが訂正してくれる。


「そうなんだ〜! でもまぁ、シオンの家族ってことね! とにかくよろしく!」


 男子の先輩は笑顔で私たちの頭を撫でた。


 他人から見たら妹も従妹も変わらないかもしれないけど、シオンに片思いしている私としては重要なことだ。

 従妹は妹とは違う。家族じゃない。

 シオンもちゃんと説明してくれたらいいのに。



「じゃあ、ここ四人でグループね」


 先生が前から順番に四人組を作っていく。


 私のグループは、シオンの前にいた女子の先輩とシオン、イブキの四人組だった。



「モモヤマ ハルカです。イブキくん、カスミちゃん、よろしくね?」


 同じグループになったハルカ先輩は美人で大人っぽい人だった。

 黒くて艷やかな髪は鎖骨位までの長さで、毛先は自然にカールしている。

 黒目がちで大きな目はキラキラ光っていて、唇は少し厚みがある。

 胸元はシャツのボタンが3つ目まで開いていて、女の私でも釘付けになりそうなくらい主張している。

 

 

「え! カスミちゃん、緊張してるの? 固まっちゃった」


 ハルカ先輩は心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「すみません! 先輩があまりにも美しすぎて言葉を失っていました!」


 私はハルカ先輩に頭を下げた。


「ほんと? カスミちゃんみたいな可愛い子に褒められたら嬉しい」


 ハルカ先輩は微笑んでくれた。

 こんな美人さんに可愛いって言われてしまった。

 お世辞でも嬉しい⋯⋯

 性格までいい人みたいだ。



「ハルカ先輩はどこから来られてるんですか?」

「すぐ近くなの。自転車通学で」

「ハルカ先輩は部活は何をされてるんですか?」

「私はバスケ部。カスミちゃん興味ある?」


 すっかりハルカ先輩に魅了されてしまった私は、彼女を質問攻めにしていた。


「興味はあるんですけど、放課後は忙しくって⋯⋯その⋯⋯バイトとか⋯⋯」


 正義の味方活動があるから、部活をやっている時間はない。


「そうなんだ。シオンも部活やってないもんね。みんな偉いな。入部しなくても、見学だけでも大歓迎だから。いつでも遊びに来てね」


 ハルカ先輩は私とイブキの顔を見ながら言った。


「引退試合は俺も見に行くから」

「ありがとう。シオンが見に来てくれたら勝てそう」


 シオンは優しい笑顔をハルカ先輩に向け、ハルカ先輩も嬉しそうにシオンを見上げている。

 シオンは見に行くんだ⋯⋯そんなに仲が良いのかな。



「次は食堂だよね?」


 ハルカ先輩は廊下の角を曲がろうとした。


「ハルカ、待って。俺たちはBコースだから先に図書室じゃないかな」


 シオンはハルカ先輩の腕を掴んだ。


「そっか、隣の列見てた。ごめんごめん」

「うん。やっぱりそうだ」


 二人で説明用紙を見ながらルートを確認しているみたい。


 なんだろうもやもやする。

 シオンとハルカ先輩は距離が近い。

 下の名前で呼びあってるし、微笑み合ったり、腕を掴んだり⋯⋯


 凍りついたように足が動かない。

 これ以上見てるのは、なんだかちょっと怖いな。

 そんな気持ちを察してくれたのか、イブキが背中をポンと叩いてくれた。

 すると電源が入ったみたいに身体が動き出す。

 "ごめんごめん"

 そんな思いを込めてイブキに向かって手を合わせた。

 

 イブキは黙って前方を顎でしゃくる。



「じゃあ、行こうか」


 シオンとハルカ先輩はキラキラした笑顔で私たちを振り返った。




 教室に帰って来た私は、窓の外を眺めながら考え事をしていた。

 ハルカ先輩、きれいな人だったな⋯⋯

 それにシオンのあの様子、ハルカ先輩のことが好きなのかな。

 悔しいけど美男美女でお似合いだった。



「俺、明日から毎日食堂行って全メニュー制覇する!」

「それ、私も乗った!」 


 カケルくんとマユちゃんは楽しそうに話しながら帰って来た。

 二人は自分の席についた後、私とイブキに話しかけてくる。


「ねぇ、さっきの人がイブキくんのお兄さん? すっごくかっこいいね!」

「俺は女の先輩がエロかわだと思った!」

 

 マユちゃんとカケルくんの目にも、あの二人が魅力的に映ったらしい。


「うん! 目の保養になった〜!」

「⋯⋯⋯⋯」


 明るく答える私のことを、イブキは黙って横目で見ていた。



 私たちの会話を聞いていたのか、初めて話すクラスメイトたちが話かけてくる。


「ねぇ、モリミヤさん! お兄さんかっこいいね! 彼女いるのかな? 紹介してよ!」


 タケダさんとその仲良しの垢抜けた女子グループだった。


「お兄さんじゃなくて、従兄なの! 彼女は今はいないって言ってた!」


 私の返答に女子たちは小さく歓声をあげる。


「簡単な紹介なら多分できるけど、私もシオンが好きだから、その⋯⋯応援はできない!」


 私は正直に宣言した。


「え、従兄が好きなの⋯⋯?」


 なんとも微妙な反応をされてしまったのだった。




 放課後。

 イブキと二人、近くのお寺の石段に座り、妖怪退治の張り込みをしていた。


「カスミ⋯⋯まさか人前であんなにあっさり暴露するとは思わなかった。高校生活開始早々そんなんで大丈夫?」


 イブキは心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「確かに滑った感はあったけど、女同士は色々あるの! あれで後から実は私も好きでしたなんて言ったら、それこそ誰も口きいてくれなくなるよ」


 その辺りのやり取りが上手く行かずに、ぎくしゃくした女子たちの例をいくつか知っている。

 なぜか好きになった順番や堂々と好きと言える声の大きさを重要視する人もいるらしい。

 取った取られたと言うけど、選ぶのは結局相手なのに⋯⋯


「中学の時もシオンの周りは騒がしかったから。カスミも巻き添えに気をつけて」


 イブキの忠告に私は黙って頷いた。

 でも巻き添えというか、もはや中心を突き進もうとしてるんだけど。

 

「従兄に恋するのはピンとこないっていうのが一般の感覚なのかな⋯⋯悪魔は兄弟同士でも結婚するらしいのにね」


 私はさっきのタケダさんたちの反応にショックを受けていた。


「従兄弟同士の結婚は国に認められている。あと、俺たちは人間。俺たちは人と違う部分があるからああいう反応に敏感になりやすいけど、従兄弟同士で付き合ったり結婚したりしている人は大勢いる。俺の中学の同級生にもいる。問題はそこじゃない。口出ししたらややこしくなりそうだったから黙ってたけど、次あの子がカスミを傷つけるようなこと言ったら俺、黙ってられるか分かんない」


「なんか代わりに怒ってくれてありがとう。でも穏便に⋯⋯ね?」


 いつも穏やかなイブキが珍しく不機嫌そうだった。


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