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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第8章:カスミ前編〜淡い初恋と失くした記憶〜
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72.女神と悪魔の娘

最後の主人公はミズキとサユリの長女カスミです。


 私はカスミ。特殊な高校一年生。

 何が特殊かというと、私たち一族は不思議な力を持っているということ。


 まず、私の父の先祖は悪魔と契約したらしい。

 先祖は大昔、賊に襲われて命を落としかけた。

 命からがら洞窟に逃げ込んだ。

 逃げ込んだ先には悪魔がいた。


 先祖は悪魔から光の巫女の力を授けられ、命を救われた。

 先祖は力を継承する際に悪魔と契約を交わした。

 その悪魔の名は――ストロファンツス

 契約内容は――巫女の血筋を絶やさないこと。



 私は、小学六年生の時に力に目覚めた。

 この力は結界を張る力で、結界の内側にいる者を攻撃から守り、力を与え、傷を癒すことができる。

 この一族の女にしか扱えない力だ。

 

 私の家は父ミズキ、母サユリ、中3の弟キョウ、中1の妹サツキ、小1の弟のショウマの六人家族だ。


 妹のサツキも同じく小学六年生の時に力に目覚めた。

 覚醒の日は意識を失い、全身から強い光を放つというのが皆が通る道で、サツキ曰く、前兆というか、覚醒直前から体調に違和感があったらしい。

 らしいと言うのは、なぜか私は覚醒の日の記憶が曖昧だからだ。


 お父さんと弟たちは、保護結界という攻撃から身を守る力と、威圧と魅了という力を扱える。


 魅了とは相手の瞳の奥を見つめることで、性別に関わらず相手を自分に夢中にさせることが出来る能力だ。

 威圧とはオーラを出して相手を吹き飛ばすことができる力で、強化されれば妖怪を塵と化し退治できる。



 私たちには従兄弟がいる。

 高3のシオンと高1のイブキ、中3のカナメの男三人だ。

 この三人も私の父や弟たちと同じ力が使える。

 しかしこの三人は父親が悪魔なので、固有能力というのも使える。


 おそらく今、この一族はかつてないほどの戦力を誇っている。

 お父さんやサクラ伯母さんが若かった頃は、妖怪や悪魔に襲われることもあったらしいけど、私たちはそんな心配も無く暮らしている。


 最近、私たち従兄弟は協力して妖怪退治や病気の治療など、正義の味方の真似事をし始めた。

 叔母のアヤメちゃんが私たち従兄弟を取りまとめて、困っている依頼人の元へ私たちを派遣する。


 私がよく組むのは従兄弟のシオンとイブキだ。

 中学生組は妹のサツキを中心に病気の人の回復に回っている。

 回復の方は日中の活動だし、危険も少ない。 



 この日はシオンと二人で、山奥の民家を襲う大蛇の妖怪退治に来ていた。


 私たちの活動時間は主に夜だ。

 妖怪たちは人目につかないように悪事を働くから、基本的には夜、人気のない場所に現れる。


 依頼人の元に到着した私たちは、現場への案内をお願いした。


「最後に大蛇が現れたのはこの奥です。この辺りにはいくつか洞穴がありますので、そこを根城にしているのかもしれません。大蛇は怪しげな呪いを使うようで、目が合うと瞬く間に動きを封じられるとされています。どうかお気をつけて⋯⋯」


 依頼人の男性を家に帰した後、私たちは懐中電灯を片手に大蛇探しを始めた。

 

「夜の森ってほんと、真っ暗で何も見えないね⋯⋯」


 月明かりもない中、初めて来た山の中を進む。

 もちろん道なんてものはない。


「足元に気をつけて。いくらでも怪我が治せるとは言え、滑落なんかしたらひとたまりもないから」


 シオンは自分の腕をポンポンと叩いた。

 手すり代わりに持ってても良いってことかな?

 私はその好意に甘えてシオンの腕を掴んだ。


 触れたその腕は体温が高くて、筋肉が付いている。

 彼は男の子なんだということをついつい意識してしまう。



 実は私はずいぶん長い間シオンに片思いをしてる。

 

 シオンは背がすらりと高くて、黒い髪はサラサラの直毛で清潔感がある。

 目はぱっちり二重で、鼻は高い。


 それに加えて、優しくて、面倒見が良くて、運動神経も抜群で⋯⋯そんな王子様みたいな彼といつも一緒にいて、好きにならない訳がなかった。



「ストップ。何か音がする」


 耳を澄ますと風も吹いていないのに草木が揺れる音がすると同時に、地面を何かが引きずるような音が聞こえてきた。

 ⋯⋯近くにいる


「目を見たら呪われるっていうの覚えてるよね。カスミは結界を張って。何かされそうになったら俺が反射するから」


 反射というのはシオンの固有能力で、呪いや精神系の攻撃をはね返す能力だ。

 これは私の結界の弱点を補うもので、二人が揃えば怖いものはない。

 

 私はシオンの指示に従い結界を張った。

 その光に引き寄せられるように、大蛇が姿を現す。

 ⋯⋯大きい。

 その全長は見えないけど、地面から頭までの高さは一階の天井と同じくらいの高さがある。


 私たち二人にとって妖怪退治は簡単な事だ。

 私の結界の中にいるシオンが大蛇に向かって手をかざし、威圧を使うと大蛇は瞬く間に塵になった。


「目を合わせるような状況にすらならなかったね」

「あとは依頼人の記憶を消したら任務完了だな。イブキに連絡を入れよう」


 シオンはイブキに電話をかけた。

 イブキは回復チームの支援に行ったあと、予定通りこちらに向かっているそうだ。


 この正義の味方の真似事を行う際には二つのルールがある。

 一つは相手からお礼を貰わないこと、もう一つは最後には依頼人の記憶を消すことだ。

 記憶を消すのはイブキの固有能力の記憶管理だ。

 イブキは相手の任意の記憶を奪い、それを保管し、必要な時はまた元に戻すこともできるらしい。


 イブキの能力があるからこそ、私たちのこの活動は成り立っている。



 イブキを待つ間、シオンと二人で依頼人の家の近くで待機する。



「そういえば今日、初めてナベ先の授業を受けたよ! シオンが言ってた通り、サイコロ振って出た目をかけたり足したりして何番の人が当たるのか、全然予想できなかった!」


「そうだろ? 大体の先生は日にちの数字の31番までしか当てないから俺らみたいに出席番号が遅いと安心できるけど、ナベ先だけは突然来るからな」


 私とイブキはこの春からシオンがいる高校に通い始めた。


 特別な力を持つ兄弟や従兄弟を大事にすること、協力し合って理解し合って支え合うこと⋯⋯双方の親から何度も言われてきた。

 

 けど私は幼い頃から特に仲が良かったシオンとイブキが何を考えているのか、いつからか分からなくなった。


 それはきっと親戚として過ごす彼らの姿しか私が知らないから。

 同じ学校に通い、多くの時間を共に過ごすことで二人のことをもっと理解できる。

 私はそう信じて疑わなかった。


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