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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第7章:ミズキ後編〜姉弟の絆と最愛の人〜
71/101

71.第7章 エピローグ


 あれから三年が経った。

 俺は地元の銀行に就職して、サユリは市内の小学校の先生をやっている。

 学生時代よりも二人で過ごす時間は短くなったものの、ここまで順調に愛を育んできた。


 俺の家族もサユリの家族も特に大きなトラブルもなく、平和に暮らしている。


 今日はサユリと一緒に、姉ちゃんとトウキの家に遊びに来ていた。



「サユリちゃん、ミズキ、わざわざありがとうね」


 姉ちゃんが玄関のドアを開けて出迎えてくれた。


「お邪魔します〜!」

「お邪魔します。さすが、きれいにしてるじゃん」


 二人の家は、田舎町の庭付きの大きめの一軒家だ。

 自宅でリラクゼーションサロンを経営していて、お客さんが来るスペースと自宅は動線が切り離されている。

 実家からは電車で一本だけど、駅からバスに乗る必要があって、畑や田んぼが広がる土地を通り抜けてたどり着いた。

 

 部屋の奥に案内されると、人間の姿のトウキが赤ん坊を抱っこしていた。


「よく来てくれたな」


 赤ん坊の名前はシオン、生後半年の男の子だ。

 姉ちゃんとトウキの息子で、見た目は普通の人間の子どもに見える。

 まだどんな能力を引き継いでいるかは分からないみたい。


 人間の姿のトウキに会うのは、かなり久しぶりだった。

 けれどもトウキは毎晩のようにフクロウの姿で、俺たちの周囲の様子を見に来てくれているらしい。



 トウキが手入れしているという庭を見せてもらった後、姉ちゃんの手料理をご馳走になった。


 トウキはベビーチェアに座っているシオンに離乳食を食べさせたり、ミルクを飲ませたりと慣れた手つきで世話をしていた。


「シオンくんを抱っこさせてもらってもいいですか?」


 食後、サユリはシオンを抱っこしたいと言った。

 サユリは仕事柄、小学生とは接するものの、それより小さい子には慣れていないそうだ。

 サユリはシオンの両脇の下に手を入れて抱き上げ、自分の太ももの上に乗せた。

 それからお腹同士をくっつけるようにして抱っこする。


「んー! きゃんわいい!!」


 サユリはシオンのホワホワに逆立った毛に頬を擦り寄せながら、嬉しそうにしている。

 シオンはそれが面白かったのか、サユリを見ながら声を上げて笑った。

 あっ、何かすごくいいかも。

 サユリから溢れ出る母性を感じて、目の前の二人が神々しく見える。

 やっぱりサユリは女神なのかもね。



「サユリちゃんはどこか疲れてる所ないの? マッサージしてあげるよ」


 しばらくしてから姉ちゃんはサユリに声をかけた。


「ええ! いいんですか? 実は肩こりとあと食欲がありすぎて⋯⋯」


 食欲がありすぎなのはサユリの場合、異常でも何でもないと思うんだけど。

 二人はリラクゼーションサロンの店舗の方へ消えて行った。


 部屋の中に俺とトウキとシオンの男三人が取り残される。


「ミズキも抱いてみるか?」


 シオンを膝に乗せていたトウキが言ってくれた。


「じゃあ、お言葉に甘えて⋯⋯」


 赤ん坊を抱っこするなんて、アヤメ以来な気がする。

 どこを持ったら良いか迷っていると、トウキが俺の膝の上にシオンを座らせてくれた。

 サユリがやっていたみたいに、お腹をくっつけたあと、髪の毛に頬を擦り寄せてみる。


 あ⋯⋯これはなかなかに癒される⋯⋯


「ははっ、そんなミズキは初めて見た」


 トウキは低く静かな声で笑った。


「いや、これは不可抗力でしょ。持って帰りたいくらいなんだけど」


 それからはシオンを膝に乗せたまま、トウキと雑談をした。

 今となっては兄貴がいたらこんな感じかと思うくらいに、トウキとは打ち解けた。


「シオンはトウキの固有能力を受け継いでると思う? 男だから保護結界は使えるとして、俺の上位互換になるイメージかな?」


「どうだろうな。ミズキのお父上のストロファンツス様は、今のお身体が人間という点では俺と同じだが、固有能力は全て譲渡しておられるからな。それに、シオンに固有能力が発現したとしても、"変化"とは限らない。俺の先祖のうちの誰かの能力だろうから、予想はできない」


「なるほど」


 俺も姉ちゃんもシオンも血は繋がっているけど、性別や親によって能力が違って、結構複雑になりそうだ。

 そんな事を考えていたら、とんでもない事が起こった。

 


――ブリブリブリブリ


 ⋯⋯は?

 突然シオンから聞こえてきた音。

 おむつ越しに伝わる生温かい感覚。

 シオンを見ると、顔を赤くして腹に力を入れたあと、達成感に満ち溢れた表情をしていた。


「あぁ、出たみたいだ。おむつを替えなければな」


 トウキはシオンを抱きかかえる。


「え⋯⋯トウキ⋯⋯できるの?」


 嘘でしょ?


「当たり前だろう。こんなことは1日に何度もある」


 ⋯⋯そりゃそうか。

 赤ん坊だって生き物だ。

 気まぐれで可愛がるだけってわけにはいかないよね。


「不快だろうから、あちらで替えてくる」

「⋯⋯いや、俺も見る。やり方教えてよ、先輩」


 トウキは慣れた手つきでシオンのおむつを替えていた。

 きっと父さんも母さんもこうやって俺のことを世話してくれたんだよね。

 そう思うと胸が温かくなった。

 それにしてもまさか悪魔に子育てを習う日が来るとはね。


 トウキにおむつを替えてもらったシオンは、俺が見てもわかるくらい満足そうな顔をしていた。

 それからしばらくして、トウキに抱っこされたまま眠り、ベッドに寝かされた。



「シオンがどんな力を持っていたとしても、俺が命をかけて守る。もちろん、サクラのことも」


 トウキはシオンの寝顔を見たあと、俺を真っ直ぐに見て言った。

 トウキは口数は少ないけど、大事なことはきちんと言葉にする。

 その男気がこの悪魔の魅力だと思う。


「うん。俺も協力する。トウキもいつもありがとう。これからもお願い」


 俺はトウキに向かって拳を突き出した。

 トウキも拳を突き出し、俺の拳にぶつけた。



 それからしばらくして、姉ちゃんとサユリがキャッキャしながら帰ってきた。

 姉ちゃんのマッサージが相当気持ちよかったそうで、冗談か本気か、サユリもここに住みたいと言い出した。

 日が傾いて来たので今日のところはお暇した。



 バスが来るのを待ちながら、今日の感想を語り合った。


「私も早く子どもが欲しくなっちゃった! もちろんミズキくんのね!」


 サユリは夕焼け空を見上げながらさらりと言った。

 当たり前のように発せられたその言葉は、最上級の愛情表現なんじゃないかと思った。


 今まで悪魔には能力目当てに、子どもが欲しいと何度も言われてきた。

 けれども、サユリは俺そのものに対してそう言ってくれているんだと思うと、この人には本当に何もかも全てを捧げたいと思えた。



 

 後日、俺とサユリは大学の近くの公園まで来ていた。

 ここは俺たちが初めて出会った場所で、サユリがやけ酒をしていた場所だ。


 あの日俺たちが初めて会話したベンチに座って話をしている。


「なんだか懐かしいね」


 サユリは足をブラブラさせながら言った。


「そうだね。この場所で色々なことがあった」


 俺は過去のことを思い出しながら、この後の大仕事に対する緊張をほぐそうとしていた。


「それで、ミズキくんは大荷物だね?」


 サユリは俺の持っている紙袋を指さした。


「だから、気づかなかったことにしてくんない? こういうのは大概、アップルパイが入ってるんだから」


「やっぱり! 期待しちゃうな〜!」


 いつの間にか俺たちの中で定番化した会話をしながら、サユリは嬉しそうに笑っている。



「⋯⋯サユリ。伝えたいことがあるんだけど」


 俺はサユリの目をまっすぐに見た。

 するとサユリも真剣な表情になった。

 透き通った瞳がまっすぐに俺を見つめる。


「どうしてもここで伝えたかった。この場所しか考えられなかった」


 俺は立ち上がって、サユリの前に跪いた。


「サユリのこと愛してる。俺が必ずサユリのことを守ってみせる。だからこれからもずっと一緒にいて欲しい。サユリはもう俺の全てだから。サユリじゃないと駄目なんだ」


 指輪の入ったケースを開けて、サユリに差し出す。


「俺と結婚してください」


 頭を下げたまま、サユリの返事を待つ。

 もう緊張で心臓は爆発しそうだし、胸が詰まって息苦しい。


「ミズキくん。ありがとう」


 顔を上げるとサユリにふわっと抱きしめられた。


「私もミズキくんのことを愛しています。これからもずっと、よろしくね?」


 サユリは笑顔で俺のプロポーズを受けてくれた。

 

「指輪、つけてもいい?」

「うん。お願い」


 サユリの左手をとって薬指に指輪をはめる。

 サイズはぴったりだった。

 そのまま甲にキスをして、手を離す。


「うん。思った通り、よく似合ってる」


 指輪は幅が細めのエタニティリングにした。

 サユリは色白だし、手足も長いからよく似合うと思って選んだ。

 

「ありがとう。素敵⋯⋯」


 サユリは目を輝かせながら呟いた。

  

「ねぇ、刻印は入ってるの?」


 サユリは手の角度を変えて、ダイヤの輝きを見ながら言った。


「うん。見てみて」


 サユリはゆっくりと指輪を外して、内側を確認する。


「えーなになに⋯⋯"All My Love"」

「そうだよ。あと、これも」


 俺は紙袋からバラの花束を取り出した。

 

「赤いバラが11本。意味は最愛」


 説明してからサユリに渡した。


「え⋯⋯どうしよう⋯⋯王子様みたい⋯⋯」


 サユリは口に手を当てている。


「約束したでしょ? とびきりかっこつけるって。どう、気に入ってくれた? お姫様」


 きっと後で冷静になったら、のたうち回るくらいキザなことをしている自覚はある。

 でも、サユリは俺にかっこつけて欲しいと言ってくれたから。

 それに、俺だって本気でかっこつけたいと思えたのは人生でサユリだけだから。


「ありがとう⋯⋯ありがとう⋯⋯」


 サユリは俺に抱きついて涙を流し始めた。

 俺もサユリを抱きしめた。

 

「残り97本のバラをサユリの家に送ったから。それで合わせて108本になって、永遠にって意味になるんだって」

「え! ほんとに? 流石だよミズキくん⋯⋯」


「後で家でも、特大の花束でプロポーズするから」

「まじか⋯⋯」

 

 泣いていたサユリは笑顔になった。

 透き通った瞳が消えてなくなって、代わりにえくぼが現れる。


 俺はそのえくぼにキスをした。


「一生大切にする。幸せにする」


 サユリに誓った。



 サユリになら全てを捧げていいと思えた。

 サユリは秘密だらけの俺のことを信じて、全てを受け入れてくれた。

 特別だと、運命だと、愛してると、そう言ってくれた。


 いつか俺たちの子どもが生まれたら⋯⋯

 何度だって聞かせたい。


 お父さんとお母さんは、大恋愛の末に結婚したんだよって。





【ミズキ編 完結】






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