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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第7章:ミズキ後編〜姉弟の絆と最愛の人〜
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70.女神と悪魔が交わした約束


 この日は俺の二十二歳の誕生日だった。


 俺たちは今月、大学四年生になった。


 俺の方は就活が本格化し、もうすぐ本選考が始まるからと、書類の準備や対策に忙しくしている。

 就職先については、全国への転勤が無いような企業に絞ることにした。

 実家と、独立した姉ちゃんの家から遠く離れるのは得策じゃないと思ったのと、サユリとの将来を考えて、その方が良さそうだったから。


 教員を目指しているサユリは、教員採用試験の準備や、もうすぐ始まる教育実習の準備に忙しくしていた。



「いや〜覚悟してたけど毎日忙しいね〜」


 そう話すサユリの表情はどこかワクワクしているように見える。

 きっと、これから自分の夢が叶えられるのが嬉しいんだろうな。


「そうだね。疲れてるのにありがとうね」


 俺は忙しい中、時間を作ってくれたサユリの気持ちが嬉しかった。


「そんな! ミズキくんのお誕生日だもん! パーッと行こう! パーッとね!」


 今日のプランはサユリが考えてくれた。

 どんな所に連れて行ってくれるのか楽しみだ。



 まずサユリが連れてきてくれたのは、アクセサリーの手作り体験ができるお店だった。


「お揃いのやつ作ろうね!」

「うん。じゃあ、お互いにプレゼントする?」


 こうして俺がつける物をサユリが、サユリがつける物を俺が作ることになった。

 作るものはバングルだ。


 まず最初に素材と太さを選ぶ。

 俺はサユリに似合いそうなゴールドの一番細いものを選んだ。

 それからハンマーで叩いて模様をつける。

 その後、刻印を入れるんだけど、いくつか例文も用意されているので好きなものを選ぶ。

 どうしようかな。

 バレンタインの時はメッセージカードでもかっこつけちゃったからな。

 仕上げにきれいに磨いてから、形を整えて完成だ。


「できたー!」


 サユリの方も完成したみたいだ。


 つきっきりで教えてくれた店員さんにお礼を言って、店を出てからお互いに自分が作ったものを交換し合った。


 サユリが作ってくれたバングルはシルバー素材で、サユリのより2ミリほど太めのものだった。

 刻印の内容は二人の記念日と名前で、サユリと俺の名前の間にはハートマークが刻まれていた。


「ありがとう。大事にする」


 俺は早速、左手首にバングルをつけた。


「どう? 似合う?」

「すごい! 様になってるよ、ミズキくん!」


 サユリは褒めてくれた。


 次に俺が作ったバングルをサユリに渡す。


「やったー! ありがとう! えーなになに⋯⋯" CHERISH YOU "」

「だから、音読しないでってば」


 恥ずかしすぎでしょ。

 俺も名前くらいにしとけばよかったかな。


「ミズキくん⋯⋯私、ほんと愛されてるね⋯⋯ミズキくんの誕生日なのに、私がこんなプレゼントをもらってしまって⋯⋯」


 あれ?サユリは感極まっているのか、少し涙目になっている。


「ありがとう! 私もミズキくんのこと、大切にするからね!」


 サユリは勢いよく抱きついて来た。

 俺もそっとサユリを抱きしめ返す。

 これだけ喜んでくれるなら、かっこつけたかいがあったかな。


「私、見てたから。ミズキくんが真剣な表情でこの刻印を打ってるところ。まさか、こんなにも情熱的な言葉を選んでくれているなんて⋯⋯あんなに真剣な表情で⋯⋯ハンマーを使って⋯⋯何度も、何度も⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「ほんと、王子様みたい⋯⋯」


 いやいや、超恥ずかしいんだけど。

 店の前でこんなこと言って、抱き合って、バカップル丸出しじゃん。

 それに、王子様ってハンマーで刻印とかするんだっけ?

 確かに最近忙しくって、愛情表現不足だったことは否めない。

 でもそんな事情は通行人には関係ないわけで⋯⋯

 さすがにいたたまれなくなった俺は、サユリの手を引いて店を離れた。



「次はこちらです〜!」


 サユリが連れてきてくれたのは岩盤浴だった。


「日頃の疲れを癒しましょう! ささっ!」


 サユリに手を引かれて中に入った。



 ここは日帰り温泉施設で、温泉と岩盤浴、サウナに食事処も完備されている。

 受付の人曰く、まずは温泉で温まったあとに、岩盤浴をするのが一番デトックス効果が高いとのことなので、集合時間を決めたあと、男女分かれて温泉に入ることにした。

 先ほどサユリにもらったバングルは、温泉の成分や岩盤浴の熱で劣化する恐れがあるので、ロッカーでお留守番だ。



 はぁ⋯⋯温かい。

 最近忙しいのと、集中したり緊張したりする場面が多いからか肩こりが酷いんだよね。

 もう春だと言うのに冷えもすごいし⋯⋯

 肩までしっかり浸かって、温泉を楽しんだ。


 温泉から上がった後は、受付で借りた館内着に着替える。

 岩盤浴はこの館内着で入るらしく、下着の着用は血行不良になるからNGだそうだ。

 


「いいお湯だったね〜!」


 待ち合わせの場所に行くと、サユリもちょうど向こうから歩いて来ていた。

 湯上がりのサユリはいつもより頬が紅潮していて、髪も急いで乾かしたのかまだ少し濡れている。

 白い肌もゆでたまごのようにツルツルで、でも触ったらきっと餅みたいに柔らかいんだろうな⋯⋯

 一瞬でそんな妄想が膨らんでしまうくらい魅力的だった。

 それに館内着ってちょっと無防備だよね。


「ミズキくん? 聞こえてる? どのコースにしようか?」


 サユリは心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「ごめん。どんなコースがあるんだっけ?」


 やば。何も聞こえてなかった。


「美容か、疲労回復か、脂肪燃焼! 疲労回復でいいよね?」

「うん。疲労回復で」

「大丈夫? のぼせた? 顔が赤いよ?」

「そうかもね。血行が良いうちに行こう」

 

 いくつかある部屋はそれぞれ岩盤の種類や室内の温度が違う。

 それに、照明の色や装飾も違っていて雰囲気も楽しめるようになっている。

 俺たちは疲労回復コースの看板に従い、順番に部屋を回っていく。

 室内に入るとみんな岩盤の上に横になって、静かに過ごしていた。

 空いているスペースにバスタオルを敷いて、その上に横になる。

 看板に記載の時間、この場所で過ごす。


 20分って意外と長いんだな。

 急いでる時なんかあっという間なのに。

 ヒーリングミュージックというのだろうか、不思議な音楽が流れていて、どこか神秘的な世界に迷い込んだような気分になってくる。

 耳を澄ませながらぼーっとしているうちに、気づけば時間が経っていた。


 その後も部屋を順番に回っていくと、かなりいい汗をかいた。

 身体の芯から温まって来るので、すっかり冷えとも無縁な状態になった。


「いや〜出しきった! もう生まれ変わった!」


 サユリは汗だくになって満足そうに笑った。


「寝てるだけなのに結構ハードだったね。けど、すっきりしたかも」


 俺もつられて笑った。

 

 その後はもう一度温泉に入ってから、次の場所に向かった。


 

「本日のディナーはこちらです〜」


 サユリが連れてきてくれたのはピアノバーだった。

 薄暗い店内は半個室になっていて、中央にはグランドピアノが置かれている。

 生演奏を聴きながら、食事が楽しめるようだ。


「すごく素敵なお店だね。サユリ、ありがとう」


 お礼を言うとサユリは嬉しそうに笑った。

 

 豪華なコース料理を堪能していると、聴き慣れた音楽が流れ始めた。

 演奏曲はクラシックからドラマの主題歌まで幅広いジャンルから選曲されているようだった。

 だからどれも一度は聴いたことがある曲なんだけど、今流れているのは⋯⋯二人で初めて見に行った映画の主題歌だった。

 

「実は思い出の曲、リクエストしちゃいました〜!」


 サユリは小さい声で言った。


「懐かしいね。この曲好きだよ。ありがとう」


 サユリはにっこりと笑ってくれた。


 

 最後の場所はサユリの部屋だった。

 部屋に入ると、壁にハッピーバースデーのガーランドや俺の名前と22の形のバルーンが飾り付けられていた。

 忙しい中、ここまで準備してくれた事が嬉しかった。



 テーブルの上にはプレゼントが置いてあった。


「ミズキくん。おめでとう!」


 サユリがプレゼントを手にとって手渡してくれた。

 包装を解くと中には財布と同じブランドの名刺入れが入っていた。

 内側には俺の名前が刻印されている。


「ありがとう。ずっと大事に使う」


 就職して、毎日会えなくなったとしても、これがあれば寂しさにも耐えられそうだ。

 きっとサユリもそんな気持ちで選んでくれたんだろう。

 あれ。よく見たらメッセージカードも入っている。


「えーなになに⋯⋯"You’re the one"」

「これ読み上げられるのってすごく恥ずかしいね?」


 サユリは照れたように笑った。

 サユリは俺のことを特別だと、運命だと言ってくれた。

 その言葉を噛みしめるたびに、愛しさが溢れてたまらない。


「ミズキくん。来年もその先もずっとお祝いするからね」


 サユリは透き通った目で、俺の目を真っ直ぐに見て言ってくれた。

 俺は去年のサユリの誕生日に、次の俺の誕生日もお祝いして欲しいと言った。

 その時はサユリには何も答えてもらえなかったけど、今年こうやってサユリは俺と過ごしてくれた。

 そしてこれからもずっと祝ってくれると言ってくれた。


「俺、サユリにプロポーズされちゃった」


 嬉しくなった俺はサユリを抱きしめた。


「ええ! それは時が来たらミズキくんがとびきりかっこつけて言ってね? 王子様みたいにね?」


 サユリは笑いながら言う。


 ちょっと。すごくハードル上がったんだけど。

 でも、俺はどんなハードルでも飛び越えてかっこつけてみせる。

 だって俺はサユリの特別で、運命の相手だから。

 まずは自分の力で立って、サユリを守れる男にならないと。


「わかった。待ってて」


 サユリの左手を取る。

 手首にはゴールドのバングルが光っている。


 その時が来たら、サユリに一番似合う指輪を贈る。

 心の中で誓って、薬指にキスを落とした。


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