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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第7章:ミズキ後編〜姉弟の絆と最愛の人〜
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68.甘え下手


 とある連休

 この日はサユリのご実家に日帰りでお邪魔することになっていた。

 山の中を走る電車を乗り継ぎ、バスに揺られること合計2時間半。

 サユリの実家の最寄りのバス停に到着した。

 この辺りは山を切り拓いた土地にある住宅街のようで、確かにここから大学まで通学するのは厳しそうだ。


「こんな田舎に来てもらってごめんね? しかも、こちらがお礼を言う側なのに、ミズキくんにご足労頂くなんて⋯⋯」


 サユリは恐縮している。


「いやお礼なんて本当にいいから。むしろサユリのご両親には言えないような事態に、サユリを巻き込むことになってるのに」

 

 今日の訪問は、先日人さらいからサユリを守った件に関して、ご両親からお礼がしたいと言ってもらえたため実現した。

 

「確かに、サユリのおおらかさも身体能力の高さもここで育ったなら納得かも」

「子どもの頃の私は野生児だったからね! 小学生の頃は放課後、毎日あの山の頂上の公園まで走って登ってた! 探検ごっこのときは、これくらいの長さの枝を拾って、ここから草をかき分けて進んだからね」


 サユリは住宅街の裏の山を指さしながら説明してくれた。

 あの山の頂上まで走るって⋯⋯しかも探検ごっこをしたというエリアは、どう見ても道らしき道が見当たらないんだけど。

 俺の家の敷地内も洞窟付近なんかは高低差もあるし、鬱蒼としてるけど、レベルが違うっていうか⋯⋯

 

「着きました! ここです〜!」


 あれこれ考えている内にたどり着いたようだ。

 "アシハラ工房"⋯⋯サユリのお父さんは、木材を加工して小物や家具を作る仕事をしているらしく、ここはお父さんの工房兼家族の住居のようだ。

 

「あとミズキくん。訛りがあるからびっくりしないでね」


 サユリは耳打ちした。


 普段のサユリは標準語を話しているけど、時々方言が出ていることがあった。

 もしかして今日は、サユリの新しい姿を見れるのかもしれない。


「うん。分かった」

「汚らしい所ですが、ささっ! どうぞどうぞ!」

 

 サユリに連れられて、工房の方に向かった。


 中に入ると、作業スペースでお父さんが木片を削って何かを作っていた。


「お父さ〜ん! ただいま! ミズキくん来てくれた〜!」


 サユリの声にお父さんは顔をあげた。


「おお! ミズキくん! こんなとこまで悪かったなぁ。仕事に穴あけるわけには行かんくて。申し訳ない」


 お父さんは立ち上がって会釈した。


「いえいえそんな。お忙しい所、お時間を取って頂きありがとうございます」

 

 俺もお父さんに会釈した。


「お父さんは、なに作ってたん?」


 サユリは、さっきまでお父さんが手に持っていた木片を見ながら尋ねた。

 思いっきり方言出てる。可愛いかも。


「これはキーホルダーや。そうそう。二人にもあげよう思って、作っといたんや」


 お父さんは作業台の引き出しから、キーホルダーを二つ取り出した。


「これ、うちの人気商品。二つ合わすとハート型。木目もピッタリ揃うから。お礼その1」

 

 お父さんはにっこり笑うと、俺とサユリの手の上にキーホルダーを置いた。

 どうやらサユリのえくぼはお父さん譲りらしい。


「ありがとうございます。大事にします」


 受け取ったキーホルダーは、木製のハートの右半分にサユリの名前が、左半分に俺の名前が彫られていた。

 試しにサユリのものと合わせると、木目がきれいに揃った。

 木の優しい感触や温もりが安心感を与えてくれる。


「やった! ありがとう!」


 サユリがその場で鍵につけたので、俺も早速自分の鍵につけさせてもらった。


 お昼時、お父さんの作業が一段落ついた所で、一緒に昼食をとることになった。

 住居の方に案内されるとお母さんがいた。

 お母さんともご挨拶をして、手土産を渡した。


「ミズキくんのお母さんは料理人さんなんやって? こんな普通の料理で悪いけど⋯⋯」


 お母さんが作ってくれていたのは、豪華なちらし寿司だった。


「そんな。俺、ちらし寿司好きです。ありがとうございます。いただきます」


 お礼を言ってから、美味しく頂いた。


「サユリ、あんたミズキくんに変なもの食べさせてないやろな?」

 

 お母さんがサユリに話しかけた。


「⋯⋯⋯⋯まぁ最近は大丈夫」


 サユリは少し考えてから答えた。

 クリエイティブカレーのことを思い出しているんだろう。


「最近はって。あんたなぁ⋯⋯それにしてもミズキくんは、ご飯食べてるだけで様になるなぁ」


「ミズキくんは俺の若い頃にそっくりや。娘は父親に似た男を選ぶとは、よく言ったもんや」


「あんた何言うてんの。全然似てなかったわ」


 少し緊張している俺を和ませるためか、お父さんとお母さんが夫婦漫才のような掛け合いを始めた。


「お父さん、お母さん、恥ずかしいからやめて」


 珍しくサユリがツッコミ役をしているのが新鮮だった。



 食事の後、サユリはお母さんの手伝いをし、俺は再び工房に戻り、お父さんの作業を見学させてもらっていた。


 しばらくすると話し声が聞こえてきた。


「サユ、お前帰って来てたん? 何で言わへんねん」

「イツキ! あんたも帰って来てたんや」

 

「おう。お前も泊まって帰るんやろ?」

「いや、今日は日帰り」


「そうなん? なにしに来たん?」

「彼氏連れて来た」


「はぁ? 冗談や思ってた。お前みたいに色気のない女を好きになる男がおるわけないやん」


 ⋯⋯は?

 声の主はすぐに分かった。

 十中八九"アイツ"だ。


「隣のイツキくんやな。赤ん坊の頃からの付き合いやから、馴れ馴れしく見えるかもわからんけど。サユリのやつ⋯⋯彼氏の前やのになぁ」

 

 お父さんが説明してくれた。

 やっぱりアイツかよ。気まず。

 

 俺は顔に出してしまっていたんだろうか。

 お父さんがサユリとアイツの方をツンツンと指さしている。

 行って来ても良いってことかな。


「失礼な!」 

「ウソつき〜」


 アイツことイツキはサユリの事を肘で小突いたり、頭をぐしゃぐしゃに撫で回したりしている。

 

「そういうのはやめて!」


 サユリは抵抗しているけど、イツキはその反応を面白がっているように見える。


 悔しいけどイツキはイケメンだし、スタイルも良かった。

 塩系と言うんだろうか。

 色白で華奢で、スッキリとした目元をしていて、鼻も高い。

 ボディタッチ多めの軽いノリと、爽やかな笑顔で、サユリを含めたくさんの女の子を落として来たというのは納得だ。

 

 だとしても、サユリにこれ以上触れられるのも、侮辱されるのも、俺が耐えられなかった。



「こんにちは」

 

 俺は笑顔で二人の間に割って入った。

 もしかしたら引きつった顔をしていたかもしれない。


「は? 何このイケメン。まさか、"この人が私の彼氏ですぅ〜"とか言わんよな?」


 イツキはサユリのセリフの部分は裏声で言いながら、サユリの肩に手を置いた。

 だから!いちいち触るなよ!


「サユリさんとお付き合いしています。よろしくお願いします」


 俺はサユリの腕を引いて、肩を抱き寄せた。


「サユリさんのことは、俺が責任を持って幸せにしますので。どうぞお気遣いなく」

 

 口をポカンと開けているイツキに牽制したあと、会釈をしてサユリを強引に工房に連れ戻した。

 

 その後は帰りの電車の時間のこともあり、長居はせずにお暇した。

 自分が持って来た手土産の何倍もの量の地元の銘菓を頂き、両手に紙袋状態になった。

 これはお礼だというのと、俺の家が大所帯だからとのことなのでありがたく頂いたけど、すごく気を遣ってもらったみたいで申し訳なかった。

 お父さんとお母さんに笑顔で見送ってもらい、帰路についた。



 帰りの特急列車の車内は、がら空きだった。

 同じ車両には俺たちの他には前方にいるカップルしか乗客がいなかった。

 そのカップルはお弁当を広げながら、楽しそうに盛り上がっている。


「ミズキくん。ありがとうね。緊張しなかった?」


 サユリは小声で言った。


「緊張したけど、お父さんもお母さんも気さくで優しい人だったから話しやすかった。だからサユリも初対面から接しやすかったのかもね」


 俺も小声で答えた。


「気さくすぎて恥ずかしかったよ。もう」


 サユリは少しだけ照れたような顔をしていた。


「サユリの方言、可愛かった。もうやめちゃったの?」


 新鮮で良かったのに、実家を出てからは標準語に戻ってしまった。


「なんか地元の外では訛りが恥ずかしいし、地元の中では標準語が恥ずかしいし、複雑なんだよね」

 

「そういうものなんだ。でも方言の方が素なんじゃないの?」


 ご両親やイツキと話すサユリは、当たり前だけどいつもの姿と違って見えた。

 そのくだけた様子に羨ましさと寂しさを感じたのも事実だ。


「素というか⋯⋯ミズキくんもご両親に見せる顔と私に見せる顔は全く一緒ではないでしょ? 訛りもそれと同じだと思うんだよね。話し方が違うから目立つだけで。だから、ミズキくんとこうやって話してるも素の私だし、ミズキくんしか知らない私なんだよ」


 サユリの説明はわかりやすくかつ、俺を安心させてくれるものだった。

 そっか。じゃあ別に俺にも方言を使って欲しいとか、寂しいとか思う必要はないんだ。


「ありがとう。納得。でも可愛いから時々俺にも聞かせてよね」

「うん。時々ね。けど、なんか期待されると恥ずかしいね。外国語喋ってみて!って言われる人ってこんな気持ちなのかも」


 サユリは照れくさそうに笑った。


「そういえば、まさか"アイツ"と遭遇することになるとは。ねぇ、サユ?」

 

 わざとサユリの耳元で話す。


「⋯⋯っ。それは⋯⋯ごめんね。アイツ馴れ馴れしいし、失礼だったでしょ?」


 サユリは一瞬身じろいだ後、不安そうな顔でこちらを見た。


「うん。俺のサユリに触るなんて。すごく嫉妬しちゃったんだけど」

 

 サユリの髪の毛の先を弄びながら、わざと拗ねたように言ってみる。


「ほんと、もうああいうのは良くないよね。ちゃんと止めさせるから。ごめんね?」


 サユリは謝ってくれた。

 確かにサユリも隙だらけだから改善してほしいけど。

 なんかちょっと可哀想だったかな。


「いいよ。次からは上手くかわしてくれたら嬉しい」


 俺は弄んでいた髪にキスをした。


「うん。気をつける。でも不謹慎だけどミズキくんがアイツに言ってくれた言葉、嬉しかったな」


 サユリは申し訳無さそうな表情から一転、頬が緩んだ。

 

「ほんと、気が気じゃなかったんだけど。ああいうヤツにははっきり言っとかないと、と思って」


 あの手のタイプは、隙あらば割り込んで意味もなく引っかき回して来そうだから危険だ。


「てか、直接対面してもアイツとどこが似てたのか全然わかんないんだけど」


 まず、見た目の雰囲気は似ていないと思う。

 調味料シリーズで言うなら俺は砂糖系とよく言われるから。

 それに以前の俺もノリは軽かったけど、やはりジャンル違いというか⋯⋯

 前にサユリは、俺たちはどこか寂しそうな所が似ていると言ったけど、俺にはアイツのどこが寂しそうなのかも良く分からない。


「なんだろうな⋯⋯甘え下手って言うのかな。たぶん、頭も口もまわるから周りに気付かれずに抱え込めちゃうんだよね。でも、最近のミズキくんは人に甘えられるようになってきたから、もう似てないかも!」


 サユリの観察眼には驚かされる。

 たまに何でもお見通しとでも言いたげな目で、俺を見つめていたサユリには、やはり俺の心が読めていたのかもしれない。


「じゃあこれからも、サユリに甘えるね」


 俺はサユリの肩にもたれかかった。


「どうぞどうぞ。いくらでも甘やかしてあげる」


 サユリは俺の頭を撫でてくれた。

 こういう包容力がある所もサユリの魅力だよね。

 俺はすっかり安心して、自分より小さくて華奢な肩に、いつもより少しだけ体重を預けて眠った。


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