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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第7章:ミズキ後編〜姉弟の絆と最愛の人〜
63/101

63.以心伝心※

 

 季節は移り変わり冬がやって来た。


 今日はサユリと過ごす初めてのクリスマス⋯⋯

 俺たちは県内にある、森の宿泊施設を訪れていた。 


 ここには複数のログハウスが建ち並び、そのうちの一棟を家族やカップル、グループなどで貸し切りにでき、まるで別荘で過ごしているような気分を味わえる。

 周辺の原っぱでピクニックをしたり、海辺で釣りをしたり様々なアクティビティも楽しめる場所だ。



「はぁ〜空気が澄んでる!」


 サユリは両手を大きく広げて深呼吸をした。


「ほんと、県内とは思えないね」


 この場所はサユリのリクエストだった。

 高校生の頃、合宿で訪れたことがあったらしい。


「今日は遊び倒そうね! まずは釣り!」


 サユリは嬉しそうに言った。

 今日もなかなかに刺激的な一日になりそうだ。

 

 早速釣りの道具を借りた俺たちは、釣り専用スペースに向かった。


「ねぇ、なんで同じ場所で同じエサで釣り糸垂らしてるのに、俺の方はひっかからないわけ?」


 サユリはさっきから何匹も魚を釣っているにも関わらず、俺は糸が引きすらしなかった。

 ちなみに三回目のデートで釣り堀に行った時も同じ現象が起きていた。


「何でだろうね〜ミズキくんのフェロモンも魚には効かないのかな?」


 その言葉でふと思い出した。

 もしかして蚊と一緒で、魚も寄って来ないとかある?

 この血筋は漁師にはなれないかもね。

 養蜂とかも無理かもしれない。


 その仮説を裏付けるかのように、結局俺の釣り竿には一匹も魚が来てくれなかった。



 その後は、宿泊施設の別館でランチバイキングを食べた。

 

 食後はバドミントンの道具を借りて、ピクニックゾーンで身体を動かした。

 ちょっとした食後の腹ごなしのつもりだったんだけど⋯⋯


「98!」

「99! はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

「100! やったー! 100回達成!!」


 サユリはバンザイをしながらその場でピョンピョンと飛び跳ねた。

 はぁ⋯⋯きっつ⋯⋯

 ほんとこの子、どんな体力してんの?


 寒空の下、連続ラリー記録に挑戦した俺たちは、何とか100回記念を達成した。

 ランチ直後から始まったこのチャレンジは、もうすぐ日が暮れそうという時間になるまで続いていて、いつの間にかコートもセーターも脱ぎ去り、汗だくで夢中になっていた。

 

「さ! そろそろ夕飯だね! バーベキュー!」

「先に一回風呂入りたい」


 ログハウスの風呂で汗を流した俺たちは、そのままテラスでバーベキューを始めた。

 施設の方で食材や必要な道具は準備してもらえるから、気楽に楽しめそうだ。


「サユリ良かったね。マシュマロあるよ」

「そうそうこれこれ! 私に任せて! 最高の焼き加減にしてあげるから!」


 クリスマスメニューのバーベキューの食材はチキンレッグやサーモン、肉厚のきのこなどだった。

 俺がメインの食材を焼いている横で、サユリはせっせとマシュマロを焼いている。

 それからバターで焼いたさつまいもにマシュマロを挟んで食べた。


「これは最高だね」

「でしょ!? 次、焼いてあげるから!」

「もうお肉、焼けてるよ?」

「じゃあ先にお肉行きま〜す!」


 俺たちはわいわいとバーベキューを楽しんだ。



 それからログハウスに戻った俺たちは、二度目の風呂に入り、じっくりと家の中を見て回った。


「すごいね。二階も俺たちが使って良いんだ」

「すごい! 超贅沢!」


 二階建てのログハウスは一階部分に風呂やトイレとベッドが二台、二階部分にもベッドが二台あり、同時に四人まで宿泊可能だ。


「どっちで寝る?」

「そうだね。せっかくだから二階かな」


 こうして俺たちは二階を寝室として使うことにした。


 手荷物を二階に持って上がり、整理していた所、ふとベッドの頭元に置かれた備品が目に入る。

 それは殺虫剤のスプレー缶だった。

 わざわざこれがここに置いてあるってことは、大量に出るんだろうか。

 不安になり周りを見渡すと、よく見れば部屋のあちこちに虫対策グッズが設置されている。


「ねぇ、サユリは虫、大丈夫なんだよね?」

「うん。田舎育ちだからね。どうして?」


 サユリはボディクリームを塗って、ふくらはぎをマッサージしながらこちらを見た。


「そこに殺虫剤があったから、出るのかと思って」


 俺は殺虫剤を指さした。


「ほんとだ。その顔⋯⋯前から思ってたけど、ミズキくんは虫が苦手なんだね?」

「うん。まぁ⋯⋯」


 体質的に蚊とかには刺されないけど、大きい虫がガサゴソと動いているのは耐えられない。

 ましてや退治なんてできる気がしない。

 ロマンチックな聖夜に、奴らと遭遇しないことを心から祈る。


「寒いから出ないと思うけど⋯⋯それにしてもミズキくんは、あんなに強いのに虫は怖いんだね! " 空手そろばんスマッシュ" 使えるのにね?」

「人の力に変な技名つけないでくれる? じゃあ、今夜はサユリが俺を守ってね」

「任せなさい!」

 

 何とも情けないお願いをしたあと、サユリが久しぶりに酒を飲みたいというので付き合った。


 その後、それぞれのベッドに入ったんだけど⋯⋯

 なにこれ。寒すぎ。

 ログハウスで迎える真冬の夜は寒かった。

 暖房を使っているのにも関わらず、部屋が暖まる気配がない。

 こういう寒さも含めて自然を体験するのが売りの一つかもしれないけど、寒がりな俺は凍える寸前だった。


「サユリ⋯⋯寒い」


 俺は自分の毛布を持ったまま、サユリの布団に潜り込んだ。


「ひえぇ! 冷た! 大丈夫? 筋肉もちゃんとあるのにね?」


 サユリは驚きながらも俺の身体を抱きしめてくれた。

 あぁ、あったかい。

 甘えるようにサユリの肩に頬を擦り寄せる。


「えぇ⋯⋯かわいい⋯⋯」


 サユリは呟きながら、俺の頭を撫でてくれる。


「温めて⋯⋯」


 昼間はバドミントンでさんざん体力を使い果たし、酒も入ったところでこの心地良さ⋯⋯

 俺はサユリの温もりを感じながら眠りについた。




 どれだけ時間が経っただろうか。

 変な時間に寝てしまった俺は、まだ真っ暗な中、目が覚めた。

 やば⋯⋯普通に寝ちゃった。

 クリスマスイブの夜に彼女の布団に潜り込んで、何もせずに爆睡とかありえないでしょ。


「はぁ⋯⋯」


 思わずため息が出る。

 サユリの方を見ると俺を抱きしめながら、少し窮屈そうな体勢で寝ていた。


「ごめん⋯⋯」


 俺はそっとサユリの布団を出た。

 するとサユリはすぐに寝返りを打って大の字になった。

 ベッドに腰かけてサユリの頭を撫でる。

 

 そういえばプレゼント交換もしてないし⋯⋯

 自分のベッドに戻ってカバンの中を探り、取り出した箱をサユリの枕元に置いた。


 もう一度寝よう。

 すっかり冷え切った自分のベッドに戻り、さっきまでくるまっていた温かい毛布に、もう一度しっかりくるまって眠った。



 朝、サユリの声で目が覚めた。


「ミズキくん! サンタさんが来た!」


 何事?

 そっか。昨日はサユリとここに泊まったんだった。

 まだ半分寝ている頭を働かせて状況を思い出していると、サユリが俺のベッドに飛び乗ってきた。


「サンタさん!」

「うわっ!」


 サユリの笑顔のドアップだ。

 サユリの手には俺があげたプレゼントと、もう一つ全く同じデザインの箱。


「あれ? なんで2個あるの?」


 俺はまだ寝ぼけているんだろうか。


「えーっとこっちが私から! まさかの同じブランドでした~!」


 サユリは笑顔でもう片方の箱を俺に渡してくれた。


 二人で仲良くリボンを解き、箱を開けると⋯⋯

 サユリからのプレゼントは財布だった。

 そして俺からサユリへのプレゼントも⋯⋯


「お財布だね」


 俺たちのプレゼントは、まさかの同じブランドの同じアイテムだった。


「すごいね! こんな偶然あるんだ!」

「ほんとだ。テレパシーかも」


 俺たちは思わず笑い合った。


「じゃあ、私が何考えてるかわかる?」


 サユリはいたずらっ子のような表情をしていた。


「んー、どうだろうな。じゃあ、俺の願望もこめて」


 俺はサユリをベッドに押し倒した。

 反応を見るに正解だったようなので、頭を抱きかかえるようにしてキスをする。

 しばらく続けているうちに、サユリの瞳は熱を帯び、潤んできた。

 俺たちは柔らかい朝の日差しの中で、お互いの体温を分け合った。



 一つのベッドで寛ぎながら、お互いのプレゼントを再び手に取る。


「大事にするね」

「うん。俺も大事にする」


 それから二人仲良く財布の中身を新しい財布に移し替えた。

 このまだ真新しい革の財布を、これから大切に使い込んで、時間が経てば、風合いがどう変化していくのか⋯⋯今から楽しみで仕方がなかった。


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