62.全部※
姉ちゃんの事件に関して、ひとまず安全が確保されたことから、俺の外出制限も撤廃された。
とは言え、生きている限り、完全に危険が去ることはない。
俺とサユリは久しぶりに顔を見て話す機会を持つことができた。
人には聞かれたくない話だから、サユリの部屋に来させてもらった。
「この前はごめんね。完全にこっちのペースに巻き込んじゃって」
俺が強引にキスしたことをきっかけに、アヤメに見つかり、夕飯に同席させられ、極めつけに父さんのあの話⋯⋯
ふらっと会いに来たつもりのサユリにとっては重すぎたはずだ。
「そんな! 勝手に会いに行ったのはこっちだし⋯⋯」
サユリはそう言った後すぐに真剣な表情になった。
「ミズキくんが私を助けるために力を使ってくれたこと、ミズキくんにとってはすごく重いことだったんだよね。ごめんね。ミズキくんやミズキくんのご家族を危険に晒しちゃった」
サユリは深く頭を下げた。
「待ってよ。力を使うかどうか決めたのは俺だから。サユリちゃんが悪いわけじゃない。むしろごめんね? 父さんの話も重かったでしょ? まだ付き合ってるわけじゃないのに」
俺としては、サユリに隠し事をしたくなかったから、父さんが話すと決断してくれたことはありがたかった。
けれどもサユリにとってはいずれにせよ迷惑な話で⋯⋯
サユリの出した答えを俺は聞かないといけない。
今まで結論を先延ばしにして来た俺たちの関係に決着をつけないといけない。
俺はそう思ってここに来た。
「サユリちゃん。俺の一族の話だけど、実際に危険な目に遭うのは事実。俺自身はそこまで危ない目にあったことはないけど、母さんや姉ちゃんは拐われたり、怪我をさせられそうになったりしてる。俺たちを狙ってくる奴らは法律では裁けないし、常識では考えられないような原理の武器を使って来る。何かあれば俺は力を使ってサユリちゃんを守る⋯⋯けど、俺のわがままでサユリちゃんを危険な目に遭わせたくない。それに、俺の子孫は力を引き継ぐ。だからこの戦いはずっと続いていく。俺はサユリちゃんのことが好きだ。大事なんだ。それから⋯⋯」
俺がだんだんと言葉に詰まり始めたとき、サユリは話し始めた。
「この前はね、ミズキくんに会えたら伝えようと思ってた。好きだって。ミズキくんの隣にいたいって。会えない間、すごく寂しかったから。もう私にはミズキくんが必要だって分かったから。私はお父さんの話を聞いても気持ちは変わらなかったよ。ミズキくんは変わっちゃったってこと?」
サユリの透き通った瞳が、俺を真っ直ぐに見つめている。
サユリは俺を好きだと言ってくれた。
やっと俺を見てくれた。
俺はずっとサユリの心が欲しかった。
その気持ちは変わらない。
俺が怖気づいているだけだ。
「ミズキくんは私に全部くれるって言ったじゃない。その中にはミズキくんの力や血筋のことは入ってなかったの? そんな大事なものが入ってなかったの? 今さら私から取り上げるの? そんなの本当にただのチャラ男だよ。ウソつき。詐欺師」
サユリはそう言ったあと、俺の髪をぐしゃぐしゃにしながらキスをした。
前に俺がしたみたいに、今度はサユリが気持ちをぶつけてきた。
しばらくして二人の身体が離れる。
「ミズキくんは私のことが大事なんでしょ? 助けに来てくれるんでしょ?」
サユリは優しい声で諭すよう言った。
俺を見つめるその瞳には一点の曇りもなかった。
サユリは俺の力のことも、置かれた状況も丸ごと受け入れてくれた。
それでも俺への気持ちは変わらないと、言ってくれた。
じゃあ後は、俺がサユリを守ればいい。もう迷いはない。
「ありがとう。ごめんね、ウジウジして。サユリちゃんに全部あげるよ。俺が必ず守るから、どうか隣にいてください」
「そう。よかった! ほんと、ミズキくんて繊細なところあるよね〜!」
サユリは茶化すように言った後、涙を流し始めた。
俺はすぐにサユリを抱きしめた。
サユリは静かに俺の腕の中で泣いていた。
あの時と似ているけど、全く違う。
今のサユリは俺の事を思って泣いてくれている。
俺の言葉に心を動かされてくれている。
サユリの涙を拭ったあと、もう一度キスをした。
サユリとのキスはやはり胸が苦しくなった。
でも胸を満たしているのは、サユリへの愛おしさ。
ただそれだけだ。
後日、俺たちは恋人同士になって初めてのデートに出かけた。
この日は県外の公園で行われるランタン祭りに参加した。
公園内には屋台が出ていて、すでに大勢の人が集まっていて、賑やかな雰囲気だ。
ランタンを受け取り、まずは願い事を書く。
「サユリは何を書くの?」
ちなみに恋人同士になってから呼び方を変えた。
「内緒! 言ったら叶わないから! でも、ミズキくん関連ね!」
サユリは俺の腕に優しく触れながら言った。
俺は知らなかった。
好きな人と両想いになった後って、こんなにくすぐったいものなんだ。
願い事を書いた後は、ランタンリリースの時間まで自由時間だ。
屋台でたこ焼きやジュースを買ったり、二人で射的をやったりして過ごした。
空が完全に暗くなった頃、司会者の合図と共にランタンを離した。
数千個のランタンが一斉に空に浮かんでいく。
「すごくきれいだね」
「そうだね。きれいだ」
オレンジ色のランタンが夜空を染めていくのを二人で眺めた。
それから俺たちは会場の近くのホテルに入った。
ベッドの上でゴロゴロと寝転がりながら話をしている。
「ねぇ、サユリは俺のどこを好きになってくれたの?」
「⋯⋯⋯⋯」
サユリは一瞬で赤くなった。
そのまま黙ってじっと見つめていると、サユリはポツリポツリと教えてくれた。
「ミズキくんは⋯⋯⋯⋯優しくて、守ってくれて、一途で、重くて、ほっとけなくて⋯⋯あとかっこつけ、自信家、フェロモン製造機、イケメン」
「ふーん」
あれ?なんか⋯⋯
ところどころ気になるワードがあるものの、ちゃんと俺を見て言ってくれてる言葉だって分かるからか、結構嬉しいかも。
いつものように軽い返しが浮かばなかった。
「ええ! ミズキくん、照れてるよね? 照れてるよね? こんなの初めてじゃない!? かわいい!」
サユリにさんざんいじられる羽目になった。
それから、一緒に布団に入り、抱きあった。
これは初めて一緒に布団に入ったあの日以来だった。
もう俺たちはフレンドじゃない。
本物の恋人同士だ。
「あの⋯⋯今宵はミズキくんの全てを頂けると言うことでよろしいんでしょうか⋯⋯」
サユリの物言いに思わず吹き出しそうになる。
こういうのって女の子が言うセリフなの?
「サユリが望むならね。前も言ったけど、俺は遊び人のチャラ男だったのに、全ては捧げたことがないんだよね。どう? 重い?」
別に引け目を感じたこともないけどね。
「ミズキくんが重いのは、今に始まったことじゃないから。むしろ嬉しい。それにお互い様だから」
サユリは即答した。
「そう」
俺はサユリを回転させるように下敷きにして、上に乗った。
両手の指をそれぞれ自分の指と絡めて、シーツに押し付ける。
白くてスラリと長い腕に惹きつけられて、そのまま腕の内側に順番に口づけていく。
手首に、肘に、二の腕に⋯⋯
「⋯⋯っ」
あぁ、二の腕柔らかい。
白いし、まるで餅みたいだ。
「ここ⋯⋯好き」
そのまましつこくキスしていると、サユリが声を上げた。
「ちょっと! ちょっと!」
サユリが俺を見上げている。
その透き通った瞳は、熱っぽく潤んでいる。
今日はこの表情の続きが見られるんだよね。
俺だけが見られるんだよね。
「あぁ、ごめん。一番好きなのはこっちだった」
ふと我に返り、唇にキスをした。
するとサユリは大きな声を出した。
「ちょっと! いきなり糖度高すぎ!」
サユリは顔を赤くして抗議してくる。
「あれ? 甘いの嫌いだっけ?」
そう確認しながら、もう一度キスをする。
「だって⋯⋯今まで苦いのしか経験ないから」
サユリは俺から目を逸らしながら、呟いた。
ウソでしょ?
ここに来て、忘れかけてたアイツの話を蒸し返すわけ?
「あっそ。じゃあ、俺にも苦いのを求める?」
腹いせにサユリの耳たぶを甘噛した。
「⋯⋯っ! チャラい! チャラいよ!」
サユリは赤くなりながら、手足をバタバタさせ、俺から逃れようとする。
「ほんとに? サユリの目から見ても、俺はまだチャラい?」
サユリの目を真っ直ぐに見て尋ねる。
するとサユリはみるみる内に笑顔になった。
「元チャラ男! アップルパイ系男子! 甘いのがずっしり詰まって重い!」
サユリは俺の背中をバシバシ叩きながら、元気よく言った。
なんだかよくわからないけど、褒められてるような気がしてしまうのはなんでだろう。
結局、苦いのは止めにして、グズグズに甘やかした。
サユリはすっかり茹で上がって、布団を被って出てこなくなった。
サユリが出てきてくれたら、一言目はなんて伝えようかな。
そんなことを考えながら過ごすのは、幸せな時間だった。




