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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
第3章:恋人編〜あふれる愛と深まる絆〜
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24.一目惚れ


 エリカの誕生日から2日後

 今日はバレンタインデーだ。

 

 エリカは今、俺のために手作りデザートを作ると言って、台所にこもってくれている。

 作り立てが一番美味しいとのことで、夕食後のこのタイミングから作業が開始された。

 俺も一緒についていこうとしたら、出禁を食らってしまい、今は大人しく食卓で待っているのだが⋯⋯


 材料を混ぜる音だろう。シャカシャカ、カチャカチャ聞こえてくる。

 しばらくすると、甘い香りも漂ってきた。

 エリカは一体何を作ってくれているのだろうか⋯⋯


 そういえばエリカは最近、電子レンジをオーブン機能が付いたものに買い替えたと言っていた。

 早速それを使った何かだったりするんだろうか。



 しばらくするとエリカが俺のもとに帰って来た。


「後は待つだけね」


 エリカが俺の隣の席にストンと座る。

 すると、エリカの身体からふわっとチョコレートの香りが漂ってきた。


 十分ほど経った頃、電子音が鳴り、エリカは台所に入って行った。

 

 それからしばらく経った頃⋯⋯

 

「じゃーん! 上手く出来ましたー!」 


 エリカが持ってきてくれたお皿には、フォンダンショコラが乗っていた。


「エリカ、すごいな! お店みたいだ!」


 お皿の上のフォンダンショコラは、白い粉砂糖がハート型にふりかけられており、お皿の周りもチョコレートソースやミントの葉、いちごや白いクリームなどで飾られていた。

 俺はすぐに写真を撮らせてもらった。

 待ち受け画像はこれに変更だ。


 エリカは俺の正面の椅子に腰掛け、にこにこ顔でこちらを見ている。


 俺も期待に胸を膨らませながら、フォンダンショコラにフォークを入れる。

 すると中からチョコレートソースがとろりと流れて出て来た。

 それから一口すくって口に入れる。


「美味しい。これは感動した! 作るのが大変だったんじゃないか? ありがとうな」


 エリカは俺の反応を見てさらに嬉しそうに笑った。



 手作りフォンダンショコラをありがたく頂いたあと、俺の部屋のベッドの上で二人並んで寛いでいた。

 ベッドはアパートからこの家に引っ越して来るときに、持ち込ませてもらったものだ。

 

 鼻歌を歌いご機嫌なエリカに、俺はずっと聞いてみたかったことを質問した。

 

「なぁ、エリカはいつ俺の事を好きになってくれたんだ?」


「⋯⋯⋯⋯」


 エリカはすっかり固まってしまった。

 そしてたっぷり時間が空いてから⋯⋯


「レンは、いつだと思う?」


 エリカはほんの僅かに頬を赤らめながらも、澄ました顔をしている。


 何だかエリカはこういう切り返しが上手くなったような気がする。

 前までだったら、なんであんたにそんなこと教えないといけないわけ?みたいに言われていただろう。

 エリカの反応を一方的に楽しみたかった俺だったが、一転して再び自分のターンがやって来た。

 これはさすがに恥ずかしい状況だ。


「そうだな⋯⋯ハロウィンの前⋯⋯とか?」


 エリカは無自覚に俺をときめかせる天才だが、その性格上、好きでもない男にハグはしないのではないだろうか。


「ふーん⋯⋯」


 当たらずとも遠からずか?


「95点」

「⋯⋯⋯⋯まさか、ハロウィンの当日なのか?」 

「⋯⋯⋯⋯っ」


 いやいや、待て待て。

 ハロウィン当日の俺は、とんでもなくダサかったはずだ。

 朝からため息ばかりついて、エリカに気を遣わせて⋯⋯


「レンを好きになったきっかけは⋯⋯レンはハロウィンが苦手だったのに、一生懸命私を楽しませようとしてくれたから。⋯⋯本当は海に行った頃から意識はしてた。軽くだったらもっと前からかも。でもなんかレンは女の子慣れしてるみたいだったから、これくらいでときめいたらダメなんだと思った。けど本当は不器用なのに頑張ってくれてただけだって、ハロウィンの日に知ったから」


 エリカは教えてくれた。


 つまり、夏の時点である程度の好意を持ってくれてはいたものの、どういうわけか俺が女慣れしている男だと勘違いをし、本気にはなれなかった。

 そんな俺のハロウィンでの駄目男っぷりを見て、今までの努力を認めてくれたということ⋯⋯なのだろうか。

 自分で整理してて、恥ずかしくなってきた。



「軽くって言うのはいつからだ?」


 この際だから全てを聞き出したい。


「⋯⋯いつだと思う?」

「もうその手は通用しない」

「⋯⋯⋯⋯」


 エリカはまた固まってしまった。

 さっきよりも顔が赤い気がする。

 なんで"軽く"の方が赤くなるんだ?


「⋯⋯初めて見た時⋯⋯からちょっと⋯⋯だけ」

「俺がスマホを渡した時⋯⋯か?」

「⋯⋯⋯⋯公園の暇人の時から」

「⋯⋯⋯⋯」


 エリカの言葉は完全に想定外だった。

 一方的にエリカの追っかけをしていた俺だったが、実はエリカからも、僅かに異性として見られていたということのようだ。


 確かにエリカにスマホを渡した時、エリカは俺の事をいつも公園にいる暇人だと言った。

 毎日のようにいたら、顔を覚えられていてもおかしくないと思っていたが、まさかその頃から⋯⋯


「私、同年代の男の子ってみんな遊び呆けてチャラチャラしてるって思い込んでた。でも公園にいたレンは、落ち着いた雰囲気で本を読んでて、なんか知的で大人っぽくてかっこいいと思ったの⋯⋯まぁ、当時の私からしたら、自由に自分の時間を過ごしてるレンが羨ましくて、暇人なんて言っちゃったけど」 


 これはまずい。

 まずすぎる。

 当時の俺に聞かせてやりたい。


「でも! あくまでモブの一人としてそう思っただけだから! あの公園には他にもかっこいい人来てたから! 街を歩けば一人や二人はタイプの人とすれ違ったりするでしょ? それくらいの感覚だから。だからどうこうなりたいとか、そこまでじゃないから!」


 エリカは顔を真っ赤にしながら、早口でまくし立ててきた。


「でも俺はエリカ以外に一目惚れなんてしたことないからな」 

「⋯⋯⋯⋯」


 もちろん事実だ。

 ちょっとからかいたくなったので、あえて口に出す。


「もう! 知らない!」


 エリカはそう叫んだあと、布団をすっぽりと被り、隠れてしまった。

 俺は愛しいその背中を布団ごと抱きしめた。


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