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巫女と悪魔が交わした約束  作者: 水地翼
最終章:カスミ後編〜悪魔の力と光の一族〜
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101.最終章エピローグ


 あれから時は経ち、私たちは三十五歳になった。


 祖父のレンは6年前に急逝した。

 年齢の割に持病も何も無かった祖父との突然の別れに、一族は深い悲しみに包まれた。

 祖母のエリカもその翌年には亡くなった。

 回復の力を使おうとした私たちを制止し、穏やかな最期を迎えた。


 二人が亡くなった後、あの家から悪魔が消えた。

  

 とはいえ、トウキ伯父さんは変わらずサクラ伯母さんと仲睦まじく暮らしていて、悪魔の世界との友好関係も維持できている。

 もう悪魔が私たちに手出しをすることはなくなり、むしろ悪魔の間の揉め事の仲裁に一族が駆り出される日々だ。 



 私はというと大学に通いながら訪問介護員になるための資格を取得し、実務を経験したあと、今度は個人で家事代行サービスの仕事を始めた。

 ホームページも立ち上げて、掃除洗濯料理から庭の手入れまで、受けた依頼をこなしていく。

 

 私たちの力を求めている人は、きっとこういうサービスも求めているんじゃないかと思って。

 その予想は概ね当たっていて、日中は仕事として家事を代行したあと、夜にイブキと共に訪問して力を使う。

 アヤメちゃんの正義の味方活動の事務局も引き継いだ。


 イブキはグラフィックデザイナーとして、デザイン事務所で働いている。

 将来的には独立開業して、もっと人助けに割く時間を作れるようにして行きたいと言ってくれている。


 そんな私たちが結婚して13年、私たち夫婦は愛を育んで来たものの、なかなか子どもを授かることができずにいる。   


 妹弟たちや従兄弟たちが子どもを授かったので、甥姪は10人になった。

 ちなみにシオンはハルカ先輩とは別の女性と結婚し、二人の子宝に恵まれた。

 

 血筋を絶やさないという、ストロファンツスとの契約は守られている。

 私たちが子孫を残せなくてもこの一族は繁栄していくだろう。

 それでも私はイブキの子どもが欲しくて、治療を続けている。

 今日はその治療の結果を確認しに病院に行く日だ。


「カスミ、本当に一人で行くの? 大丈夫?」


 イブキは私のことが心配だから、一緒に受診してくれると言っている。

 

「大丈夫だよ。それに、あそこは待合室が狭いから」


 そう言って断るもイブキはまだ不安そうにしている。


「じゃあ、近くの公園で待ってて? 終わったらそのままデートしよ?」

「⋯⋯わかった。待っとく」

 

 こうして二人で仲良く手を繋いで病院に向かった。



 病院の入口でイブキと分かれた後、中に入りまずは受付を済ませる。

 採血を受けた後、期待半分諦め半分で自分の番を待つ。


 今まで期待しては落ち込むことを何度も繰り返して来た。

 痛い思いも嫌な思いもした。

 終わりが見えないこの生活に、心身の負担だって大きかった。

 それでもやっぱり我が子に会いたい。


 自分の受付番号が診察室横のモニターに表示されたので、中に入り結果説明を受ける。 

 いつもの女医さんが検査結果の用紙を見せながら話し始める。 

 あれ?これって⋯⋯


「妊娠が成立した時にだけ分泌されるホルモンですね。おめでとうございます」


 女医さんは微笑んでくれた。



 今後の受診スケジュールについて説明を受け、会計を済ませた私は、大急ぎでイブキの元に向かう。

 公園のベンチにイブキが座っているのを見つけた。

 私の足音に気づいたのか、イブキが立ち上がってこちらに向かってくる。


 たぶん結果が私の顔に出ているんだろう。

 イブキの表情も徐々に明るくなっていく。


「イブキ! 赤ちゃん来てくれたよ!」


 愛しい人に勢いよく抱きつく。

 嬉しさで涙が止まらない。


「カスミ、ありがとう。本当にありがとう」

   

 イブキは何度もお礼を言いながら、頭を撫でてくれた。

 

 後に無事に生まれて来てくれたこの子をスミレと名付けた。


 私たちの一族は、奇跡の連続でここまで命を繋いで来た。

 何かがほんの僅かでも違っていたら、今の私たちはいなかったかもしれない。

 それに、この世界ももっと違うものになっていたかもしれない。 

 

 私たちはちゃんと出来てるかな。

 ストロファンツスが望んだ世界になってるかな。


 私たちは自分たちの代の役目を果たして、次の代に力と意志を引き継いで来た。

 この先の遠い未来も、この一族が人間にとっても、悪魔にとっても光となれるように強く願う。


  

 抱き合いながら喜びあった後は、公園内を散歩した。


「本当に体調大丈夫?」

「平気だよ。けど無理はしないでおく。ちょっとだけ歩いたら帰るから」  

「そう」

 

 幸せを噛み締めながら、手を繋いでのんびりと園内を歩いていると、異変が起きた。


 

 耳がおかしくなったみたいだ。

 飛行機に乗ったときのような、エレベーターで高層階に上がったときのような⋯⋯

 イブキと顔を見合わせる。

 この感覚って⋯⋯

 

 気配を辿ると池に着いた。

 辺りを見回しながら近づくと、公園を散歩するにしては派手な格好をした不審な男が、二人並んで双眼鏡で池を見ている。


「え? サルビアとサフラン?」


 5年ぶりに見かけた彼らは、私たちを見た後、人差し指を口元に当てた。

 静かにってこと?


 目線の先を追うと、どうやら睡蓮の花の上にとまっている虫を観察していたようだ。


 あれはなんだろう。

 黒い身体に青紫色の羽根が4枚生えていて、宝石みたいに輝いている。

 蝶々?それとも⋯⋯

 

「チョウトンボ。トンボの仲間だけど、蝶みたいに羽根を動かすのが特徴」


 イブキが教えてくれた。

 

 一匹のチョウトンボは睡蓮の花の上でしばらく休んだ後、ひらひらと辺りを飛び始めた。

 それから何匹ものチョウトンボの近くを飛び回った後、一匹のチョウトンボと戯れだす。


 サルビアとサフランを見ると、満足そうに何度も頷きながら二匹のトンボを見ている。



 そっか。よかったね。



 運命の相手と巡りあうことができたチョウトンボたちは、じゃれあいながら空高く舞い上っていった。







 【完結】











 

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