100.巫女と悪魔が交わした約束※
四年後
二十二歳の社会人になった私たちはすぐに入籍した。
そして今日、私たちの結婚式が執り行われようとしている。
この日は朝から大忙しだった。
約束の時間に会場に着くと、プランナーさんやカメラマンさんと挨拶をした後、すぐに別々の控え室に通される。
私の方は純白のドレスを着させてもらい、ヘアセットとメイクをしてもらう。
ドレスは胸元のラインが真っ直ぐで、裾が広がっているプリンセスラインの華やかなものを選んだ。
ビーズやレースなどで装飾が施されている。
髪型はアップスタイルで、頭にはティアラを付けてもらった。
今ごろイブキはタキシードに着替え、ヘアセットをしてもらったあと、謝辞の確認や頂いた祝電に目を通すなど、準備をしてくれているはずだ。
実はイブキがどんなタキシードを選んだのか私は知らない。
ドキドキしながらご対面の時を待った。
介添人にサポートしてもらい、チャペルに移動する。
ドアが開かれると、イブキの背中が見えた。
イブキはシルバーのタキシードを着ていた。
案内に従い、イブキの元へと近づき肩を叩いた。
ゆっくりと振り返ったイブキは目を見開いたあと、美しいもの見るように目を輝かせた。
「カスミ、きれい」
愛おしそうに見つめられると、この世界にイブキしかいないかのような錯覚を起こす。
「イブキもかっこいいね。すごく似合ってる」
まるで王子様みたいだ。
二人の世界に入りそうになった所を呼び止められ、挙式のリハーサルが始まる。
モーニングを着たお父さんと黒留袖を着たお母さんが入って来る。
「おめでとう。よく似合ってるね」
「カスミ、おめでとう。すごくきれい」
お父さんとお母さんに褒められるとかなり照れくさい。
その後は伯父さん伯母さんやお互いの兄弟たち、お祖父ちゃんお祖母ちゃんも続々と会場に入って来た。
本来ならここで親族紹介というのをやるらしいけど、元々全員よく知った関係だ。
そして迎えた本番。
チャペルのドアが開かれ中に入ると、私たちの大好きな人たちが笑顔で拍手と声援を送ってくれた。
お母さんにベールをおろしてもらい、お父さんにエスコートされながらイブキの元へ歩いて行く。
私の手がお父さんからイブキの手へと託された瞬間、胸がジーンとした。
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、愛し敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
「誓います」
誓いの言葉のあとは指輪交換をする。
そして⋯⋯
イブキがそっと私のベールをあげ、丁寧な手つきで整えてくれる。
両肩を優しく持たれ、唇にキスをしてくれた。
会場に拍手が巻き起こる。
退場の時にはフラワーシャワーをしてもらった。
「カスミちゃん! おめでと〜!」
「イブキ〜! おめでとう!」
マユちゃんやカケルくん、リョウくんや他のみんなもお祝いに駆けつけてくれた。
私たちは感謝を込めて笑顔で手を振った。
それから披露宴が始まり、ケーキ入刀とケーキバイト、仲間たちからのお祝いムービーの上映、記念写真撮影など楽しいひとときを過ごした。
お色直しはイブキが選んでくれた淡いパープルのドレスを着た。
髪の毛はおろして、生花で飾ってもらった。
「うん。その色、本当によく似合ってる」
嬉しそうな笑顔に胸に愛おしさが広がっていく。
イブキが私を一番きれいな色で染めてくれた。
キャンドルサービスをして、カラードレスでもみんなと写真を撮ったあと、両親や伯父さん伯母さんへの手紙を朗読し、披露宴はお披楽喜となった。
二次会はマユちゃん、カケルくん、リョウくんが仕切ってくれて、ビンゴ大会やクイズなどワイワイと賑やかなものになり、高校生に戻った気分ではしゃぐことができた。
楽しい時間はあっという間だったけど、大好きな人たちに見守られながら、愛する人と未来を誓い合えたことが、ただただ幸せだった。
それから私たちは普段着に着替え、会場をあとにした。
この日は式場の提携先のホテルに宿泊してゆっくりすることになっていた。
新婚旅行は2週間後に出発の予定だ。
チェックインを済ませて、部屋に入るとそのままベッドに倒れ込む。
「あ〜楽しかった! けど笑いすぎてクタクタ! お腹もギュウギュウに絞られてたのがやっと解放された〜!」
煌びやかな1日の裏側で酷使されていた肉体が、限界を迎えようとしている。
「先にお風呂に入ってゆっくり休んだら?」
「ありがとう! そうする」
お言葉に甘えて部屋のお風呂に入った。
ヘアスプレーでガシガシになった髪の毛は、三度洗ってようやく元に戻った。
お風呂、ゆっくり入りすぎちゃったな。
脱衣所を出てベッドルームに戻ると、イブキは立ったまま窓にもたれながら夜景を見ていた。
高校一年生の時もイブキはよくこうやって窓の外を見ていた。
さっきまで私たちは高校生に戻った気分で楽しんでいたけど、今のイブキはあの時よりも大人になって、纏う雰囲気も色っぽくなって⋯⋯
私は吸い寄せられるようにイブキに近づき、抱きついた。
「おかえり」
イブキは優しく頭を撫でてくれる。
「ただいま。きれいな景色だね」
「うん」
沈黙が訪れる。
「じゃあ、俺も入ってくる」
「うん。待ってる」
「寝てていいよ」
「やだ。待ってる」
「そう」
イブキがシャワーを浴びている音を聞きながらダブルベッドに潜り込む。
しばらくすると音が消えて、イブキが帰ってきた。
イブキの髪はまだ少しだけ濡れていて色気を放っている。
生まれた時から一緒にいるイブキが、大人の男性になって、私の旦那さんになるなんて、高校生になるまで全く想像できなかったな⋯⋯
披露宴中に親族席を見てふと思った。
もし、イブキと結ばれていなければ、私はあの席からイブキと奥さんの結婚式を見届ける事になったんだよなーと。
でも、現実の私はイブキの花嫁として今日を迎えることができて、毎日彼の優しい愛情を浴びて暮らしている。
なんて幸せなことなんだろう。
「なんでにやけてるの?」
イブキが布団に入って来た。
「イブキのこと考えてた。私、イブキのおかげで毎日が幸せ。ありがとう」
私はイブキの肩に手を置いてキスをした。
「俺もカスミのおかげで幸せ。ありがとう。ずっと大切にする。ずっと愛してる」
イブキも優しくキスを返してくれた。
そこからは徐々にキスが深まっていった。
イブキは四年経った今でも変わらずに大切に扱ってくれる。
いつもの澄ました表情から余裕が消える、この瞬間がたまらなく好きだ。
イブキの優しさと温かい体温を感じて、涙が出そうなくらい愛おしい。
命の限りこの人と生きていく。
私は世界一幸せな女の子だ。
次回完結です。




